第86話 リーファさん

「それにしても、飲み込みが早いですね」


俺が精霊魔法をいくつか使ってみせると、どこか感心したように呟くリーファ。


「そうですか?」

「ええ、前に契約をした子はこんなに直ぐには使えませんでしたよ」

「そうなんですか」


なんというか、難易度は高いけど、普段から魔法を使い慣れてる俺にはそこまで苦ではなかった。


「凄い才能を開花させたかもしれませんねぇ」


しみじみとそんなことを言われるが……いやいや、流石にそれは大袈裟でしょ。


『いえいえ、そんなことないですよ』


その声に思わず驚いてしまう。


今、リーファは目の前で話してはいなかった。


そう、俺の内に直接話しかけてきたのだ。


しかも、心の声も聞こえていたらしい。


「びっくりしましたか?」

「ええ、まあ……こんな事も出来るんですね」

「まだ繋がりが浅いので少しだけですけど、慣れればどこに居てもお話できますよ」


それは何とも便利な事だ。


「これで、お話できる人が出来て私も嬉しいです。最近は、見える人が少ないので退屈してたんですよ」


だからと言って、自分から姿を見せることはしなかったようだ。


現にそばに居るトールにはまだ見えてないようだし。


そのトールは俺が独り言を言ってるようにも見えてるからか少し距離を取っていた。


精霊と話してると分かってはいても、見えないので何となく離れてみたといったところか。


……何故か、植物の精霊よりも心の距離が近いトールという友人。


女の子との距離が近い方が好ましいものだが……まあ、アイリスやレイナとはもう少し時を同じくすればさらにお互いを理解できるであろう。


「ところで、リーファさんはどうしてここに?」

「この子の様子を見に来たんです」


そっと、屋敷の裏の大きな木に触れるリーファ。


「大切な木なんですか?」

「ええ、親友との約束なんです」


過去に思いを馳せるかような、そんな表情のリーファ。


それさえ、美しく見えるのだから美人って凄いな。


思う女性は美しく……昔誰かがそんなことを言っていた気がする。


「ですから、エルさんがこの子を引き取ってくれるなら安心です。でも、時々様子を見に来ていいですか?」

「ええ、もちろん」


何かあるのだろうし、断る理由もないからね。


にしても、早めに知っておいてよかった。


知らないでいると、屋敷の準備の時に木を撤去する人が居る可能性も考えられた。


そうなったら、リーファはその木を取り戻すだけで何もしないだろうが、少なくとも悲しんだとは思う。


別に人の不幸は美味しいとは思わない俺なので、可能な限りは偽善でも優しさを持っていたいものだ。


まあ、俺自身は現状ではそれを持っているとは言い難いが。


「さて、では私はそろそろ行きますね」


そんなことを思っていると、リーファのその声で俺もそろそろアストレア公爵家に戻らないとと思い出す。


時間的にはそんなに経ってないが、早く2人に会いたいしね。


「分かりました。お気をつけて」

「ええ、時間があったらまた会いましょう。あと、繋がりが深くなったらお話してもいいですか?」

「ええ、もちろん」


それが何時になるのは不明だが、精霊との契約というのは初めてのことなので楽しみではある。


リーファはかなりの時を生きていそうだし、俺の知らないこの世界の歴史を知ってるだろうし、話してて割と楽しいのでその時は是非ともゆっくり話を聞きたいものだ。


逆に、リーファとしても何でもない人間の話に飢えてそうだし、アイリスやレイナのことを相談するのもいいかもしれない。


女の子のことだし、聞くならプロがいいだろうしね。


「では、また何れ」

「ええ、また会いましょう」


ニッコリと微笑んでいた去ろうとしたリーファだったが、ふと思い出したように俺に振り向くと言った。


「そうそう、もし他の地で私のような上位の精霊と出会えたら、教えてください。彼女達ともしばらく会えてないので会いたいのです」


何でも、属性の違う上位の精霊は、互いを感知、認識出来ても、あまり会うことも少ないそうで、リーファとしても久しぶりに会いたいらしい。


とはいえ、そこまで出向く頃には向こうも違う地に居たりするので、偶然出会う確率は俺の方が高いそうだ。


よく分からないけど、まあ、とりあえず把握はした。


「ええ、その時は伝えます」


その返事に満足そうに微笑むと、今度こそリーファはこの場から去るように落ちてくる葉と共にそれに紛れるように姿を消した。


同時に、俺の感知魔法からも反応が消えたが、契約と加護の繋がりがあるからか何となくそばに居るようにも思えた。


……にしても、本当にリーファはただの植物の上位精霊なのだろうか?


何だか、伝わってくる精霊力が物凄く強くて、しかも大きいので、もしかしたら大精霊とかそれ以上の別の次元の存在のような気もする。


まあ、その辺は本人がそのうち教えてくれるかもだし、それまでは推察を楽しむとしよう。


こうして、分かりないことをあれこれ考えて楽しむのも人生を楽しむ秘訣だとどこかのイケメンが言っていた気がする。


俺には縁遠い言葉だが、今はそれでいいだろう。











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