第58話 そのうち考えよう

休憩のために馬車を止めると、助かったとばかりにトールが俺に駆け寄ってくる。


どうやら、俺が馬車でアイリスに癒されている間も懸命に理性と戦っていたのかその表情はなかなかに疲労気味だ。


「護衛お疲れ様」

「……分かってて言ってますよね?」


なにで疲れてるのか明白だが、あえてそれを口にしなかったらジト目で見られた。


「まあまあ、そんなカリカリしないで。水飲む?」

「それで落ち着けるのは殿下だけですよ」


そう?


水さえ飲めば、ある程度感情を落ち着けるような気がするけど……まあ、例外もあるし少しだけ理解できなくもない。


「アイリスちゃん、どうだった?」

「はい!クレアさんに言われた通り頑張ってみました!」

「そう、それは良かった」


向こうでは、アイリスとクレアが楽しそうに話していた。


その様子は姉妹のようだが……やはり、アイリスに吹き込んだのはクレアだったか。


何というか、あまり変なことを吹き込まないで欲しいが……それを実行したアイリスに抗える気がしないし、逆に受け入れてしまいそうなので複雑な心境だ。


「トールさんや、奥さんの面倒はしっかり見ておくれ」

「いや、奥さんじゃないですよ」

「今は?」


その疑問形に関しては沈黙するトール。


そのうち、成人する頃にはクレアを受け入れてしまっている自分が容易に想像出来てしまった為か、否定が難しかったのだろう。


「それよりも殿下。聞きたいんですが……」

「お、話を逸らした」

「さっきから付いてきてる、あれどうします?」


俺が茶々を入れても、スルーしてチラリと視線を上へと向けるトール。


俺もそちらに視線を向けるが、そこには何羽かの小鳥が自由に空を飛んでいた。


「偵察……というか、監視用ですかね?」

「魔法で知覚を共有してるんだろうね」


不自然にならないようにか、ある程度距離やルートを決めて動いているようだが、感覚の鋭いトールはそれを誰かの使い魔とすぐに察知していたのだろう。


俺も、アイリスに癒されつつも、妙な魔力の反応を感じていたが……なるほど、魔法で自分と鳥の視覚を共有して俺たちを見張ってるのか。


「どうします?害意は無さそうなので放置してましたが……」

「うーん、まあ、いいんじゃない。見られて困るものもないし、それに多分あれは街道用の警備とかなんじゃない?」


ルドルフ伯爵が統治するトイズを出てからしばらく。


現在地は、ダルテシア王国の王都へと続く街道なのだが、恐らくこれは王都周辺の街道警備のための使い魔と魔法なのだろう。


ダルテシア王国は規模としてはかなり大きな国の一つだし、魔法に関してもそこそこ進んでいると聞いている。


街道警備に監視用のために魔法使いを雇っていてもそこまで不思議ではない。


とはいえ、いくらダルテシア王国とはいえ、元々数の少ない魔法使いをそう多く集めるのは難しいだろうし、大きな警備が難しい街道を中心にこうして担当させているのではないかと推測する。


「多分、ルドルフ伯爵が知らせを送ったんだろうね。俺達の護衛も兼ねて見ててくれてるんじゃない?」


一応、俺は他国の王族だし、それに多分俺のことを心配してくれてるレフィーア姉様が旦那さんのアストレア公爵に頼んだ結果、見張りとかが付いたのかもしれない。


「なるほど、まあ、殿下ならそんな心配無用そうですがね。何があってもしぶとく生き残るかと」

「はは、か弱い王子の俺がそんな強かな訳ないじゃん」

「いや、か弱い王子は、魔法で家を建てたり、魔物の集団を一撃で倒したりしませんよ」


正論ではあるが、逆に言えば魔法が無ければただの子供ということだし、少しはねぇ……


「ほら、危険な地下遺跡とかダンジョンとかで、魔法が使えないトラップとかに遭遇したら、まず間違いなくヤバいから」

「いえ、そもそも殿下はそんな場所行きませんよね?」

「んー、幻の地下水とか泉があるならあるいは……」


あとは、父様やマルクス兄様とか、家族のために頑張ることは有り得なくもないが……ウチの国の地下遺跡の難易度を考えると今の俺ではまだ早すぎるだろう。


魔法が使えても、俺はまだ6歳。


もうじき7歳になるが、まだまだ学ぶべきことは沢山ある。


今はもう少し力を蓄えておくべきだろう。


あと、出来ればもう一人くらい人外な逸材を騎士として迎えたくもある。


まあ、本心としては率先して行きたいとは思わないが、父様の指示でどこかに婿入りしなかった場合、ウチの国の未開の土地とか爵位を貰ることになる可能性もあり、その場合に地下の遺跡とかの深部には水辺とかある可能性もあるので、解放して拠点として使えると有難いからね。


進路もそのうち考えなきゃだけど……王城近くの土地を貰ってそこで今までと同じようなオアシスとの生活も楽しそうだし、マルクス兄様の手伝いのためにそのまま居座るのもありかも。


あとは、他の土地で海とか水辺の所で暮らすのも楽しそうだ。


別荘とかも今世の財力なら余裕なので、小さい一軒家を買って遊びに来るのも楽しいだろう。


まあ、それはおいいおして、やっぱり最終的に望むのは平穏無事な穏やかな日々。


オアシスを眺めながら、水魔法で遊ぶようなゆるい日常こそ楽しくもあるので、そんな日々を送れるように頑張るとしよう。



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