第35話 食べ歩き

「お、そこの真っ白な坊や!ウチのソーセージはどうだい?美味いよ!」

「じゃあ、3人前頂戴。綺麗なお姉さん」

「まあまあ!お世辞が上手いね!オマケしとくよ!」

「ありがとう」


マダムから買い上げたのは、焼きたてのソーセージ。


少しオマケして貰いつつ、アイリスとトールと分けて食べる。


「うん、美味しい」

「ですね〜」


焼きたてで熱々だが、パリッとした食感と中身の柔らかい肉がなんともいえない美味しさだ。


食べてると、飲み物が欲しくなるなぁ……さっき買ったヤシの実のジュースは飲み終わったし。


「おーい!そこのうさ耳の少年!ソーセージに合うエールはどうだい?そっちの僕とお嬢ちゃんは葡萄ジュースがオススメだよ!」


畳み掛けるように、上手いこと声をかけてくる近くの店のオヤジさん。


商売上手いよね。


熱々のソーセージにエールなんて、大人が喜びそう。


まあ、俺は酒飲めないど。


というか、高校卒業と同時に死んだからお酒なんて飲んだことないな。


特別飲みたいとも思わないけど。


「じゃあ、葡萄ジュース2つ頂戴。トールはエールいく?」

「いえ、僕も葡萄ジュースで」


この世界での成人は15歳、そしてそれに近いくらいになると割と皆普通にお酒を飲むことが多い。


まあ、貴族だと食前酒とかが多いかな?


そして、トールはもうすぐ12歳。


見た目もそこそこ大人に近いので、飲んでも何も言われないだろうが、護衛があるので普通に葡萄ジュースを頼んでいた。


「お、これもいいねぇ」

「甘くて美味しいですね」


ニコニコとジュースを飲むアイリス。


オマケして貰ったソーセージはアイリスに渡していたが既に食べ終わったらしい。


そこそこの大きさだったのだが、まあ、アイリスならすぐに食べ終わるとは思っていたよ。


「焼きたてのパンどうだい!美味いよ!」


アイリスやトールの食べっぷりを見たように、そう勧めてるのはパン屋さんのようだ。


なかなか良い匂いがする。


「じゃあ、オススメを貰える?少し多く買うからサービスして欲しいなぁ」

「しっかりしてんなぁ坊ちゃん。あいよ!」

「ありがとう」


俺はそこまで多くは食べられないので、ほとんどアイリスとトールに渡してしまう。


ペロリとすぐに食べ終わるだろうから、他にも色々見ないとなぁ。


「というか、また殿下が全部払ってますね」

「ん?そう?」

「今度こそ僕が払いますからね」

「別にいいよ、このくらい大した額じゃないし」


よく食べるとはいえ、露店での出費なんて微々たるもの。


俺の財布的には抜かれても気付かないくら些細な金額だしね。


ちなみに、アイリスとトールにお金があるのかと聞かれれば……実はそこそこ持っている。


引き取ってから衣食住の保証はもちろん、仕事も覚えてしてくれてるので、毎月きちんとお給料も渡していた。


それと、ついでにこういう出掛けた日にはお小遣いも渡してたりする。


ただ、俺と出掛けると俺が面倒で払っちゃうから使ってなくて溜まってるようだ。


「いつもすみません……」

「気にしなくていいよ。アイリスが美味しそうに食べてるのを見るのが好きでやってることだし」


トールもアイリスも美味しそうに食べるので、何となく買ってあげたくなるのだ。


孫に玩具を与えてる祖父の気分になる。


「ん?そこの可愛いお嬢さん。あまーいアップルパイはどうだい?そこの恋人くんも一緒にどうだい?」

「ふぇ!?こ、恋人!?」


露店の兄ちゃんの言葉に顔を赤くするアイリス。


俺とアイリスでカップリングするとは、なかなか目ざといな。


「じゃあ、飛びきり甘いのを俺のハニーに渡しておくれ」

「はは、面白い子だな。じゃあ、ちょっとおまけだ」

「ありがとう。じゃあ、行こうかハニー」


俺が手を引いてエスコートすると、恥ずかしそうに着いてくるアイリス。


嫌がられてはいないようだが、何とも初心な反応にこちらも照れくさくなってしまう。


「……僕は後ろで気配消しておきましょうか?」

「ん?俺とアイリスがイチャイチャするのを空気になって見守るの?」

「そんなハッキリ言わなくても……というか、自分で言って照れそうになるのは止めてください」


いや、だって隣のアイリスがますます可愛い表情をしてて、なんか言ってて照れちゃうんだよね。


「えっと……アイリス?」

「は、はい!」

「……アップルパイ食べる?」

「たべましゅ……」


ぷしゅーという音が出てそうな赤い顔のアイリス。


だけど、アップルパイを受け取ってから一口食べると途端にモードが切り替わったように蕩ける笑みでアップルパイを食べはじめた。


花より団子というやつかな?


「なんというか……可愛い妹だね」

「兄としては少し心配ですがね……」


知らない人にお菓子あげるからおいでと言われたら、着いてきそうで怖いよね。


「ほれ、トールもアップルパイ」

「ああ、どうも……って、結局また払えなかった……」


先程の寸劇で忘れてたようで、ため息をつくトール。


しかし、アップルパイを食べると美味しかったようで妹同様に食べ進めた。


ある意味似た者兄妹だなぁ。


微笑ましくそれを見守りつつ、俺もアップルパイを食べる。


うん、いいね。


後で追加で買っておこう。















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