第36話 デルゾーニ伯爵
「如何ですかな、殿下?」
「うん、どの料理もとっても美味しいよ」
「それは良かった」
ニコニコと人の良さそうな笑みを浮かべる中々にダンディーなおじ様。
彼の名前はグリフト・デルゾーニ。我が国においてアグラスの街を含めたいくつかの街を統治している貴族だ。
爵位は伯爵位で、人となりは我が父も認めるところであった。
何故そんな人と食事をしてるのか?
まあ、王位は継承しないとはいえ、滅多に外出しない第2王子と会いたいう貴族も居ないことはない。
特に俺は、知識チートっぽく色々と作ってお金を稼いでるので、目ざとい貴族は繋がりが欲しいのだろう。
そんな汚い大人達の居る場所を避けつつ、タイミング的にも他の貴族としても、諦めざるおえないルートを選んだ父様だが、唯一デルゾーニ伯爵には会う機会を用意していた。
彼の人柄の良さもあるのだろうが……それとは別に父様なりの狙いがあるのだろう。
「殿下は、先代の王妃様に良く似ておられますな」
今世の祖母のことだろう。
現在は先代の国王である祖父と田舎で隠居している。
俺自身は赤ん坊の頃に1度しか会ったことはないが、真っ白な美しい髪と、綺麗な白い肌の女性だった。
「そう?」
「ええ、見た目もですが……」
チラッと視線を後ろに控えるアイリスとトールに向けるデルゾーニ伯爵。
「……何より、人柄の良さでしょうな。人間以外まで魅了するところは特にそっくりに思えます」
どこか微笑ましそうにそんなことを言われる。
そんな話は聞いたことないので少しびっくりした。
祖母も亜人の人を側に置いてるのかな?
俺が会ったのは一回きりだし、見た覚えはないが……そういえば、ウチの家族もやけにあっさりトールやアイリスを受け入れてたけど、元々の性格の良さだけじゃなくて、祖母のお付きの人に亜人が居たからすぐに順応出来たのかな?
「デルゾーニ伯爵は祖母と面識が?」
「ええ、先王陛下と一緒に何度もお世話になりました。恐れ多くも、私は先王陛下に友として接して頂けましたので、先代の王妃様とも何度もお会いしております」
懐かしむように言うが、祖父の友人だったのか。
「初めて知ったよ。あまり父や母からは祖父と祖母の話は聞かないしね」
「陛下も王妃様もお忙しいですから、あまり話されないのでしょう。まあ、あとは陛下は先王陛下が少し苦手のようですからね」
「そうなの?」
「先王陛下は少し変わっておられますからね」
父様が苦手とは……赤ん坊の頃に会った印象的には普通に優しそうな祖父に見えたけど、何かあるかな?
「そっか……何にしても、今度会いに行こうかな」
「ええ、是非そうなさってください。先王陛下も喜ばれます」
自分の事のように嬉しそうに頷くデルゾーニ伯爵。
なるほど、この人柄の良さを祖父は気に入ったのかもな。
父様もこういう人だから信頼してるのだろう。
「時に殿下。明日にはご出発と伺ってますが」
「うん、もう少し観光してみたい気もするけどね」
「でしたら、是非またいらしてください。お待ちしております。それと……こちらは断って頂いても構わないのですが……」
少し言いづらそうにするデルゾーニ伯爵。
何となく内容が予想がつくので聞いてみる。
「祖父母のことかな?」
「ええ。陛下より、殿下は転移の魔法が使えると伺っております。もし機会がありましたら連れて行って貰えたらと」
「うん、その時は誘うよ」
祖父母の隠居先はそこそこ遠いので、デルゾーニ伯爵としても会える機会が少ないのだろう。
割と早めに王位を父様に譲った祖父だが、デルゾーニ伯爵曰く、『夫婦でのんびりと過ごしたい』という希望からやる気満々な父に世代交代したそうだ。
「陛下の次はマルクス殿下が跡を継ぐでしょうし、我が国も安泰そうで、私としましても肩の荷がもう少しで降ろせそうです」
確かに、父様とマルクス兄様は優秀だし、この国は大丈夫だろう。
俺が呑気に過ごせるのも、マルクス兄様が跡を継ぐのが明白だからこそだし。
暇な第2王子という凄く嬉しいポジションと言える。
普通なら上の兄と王位継承権を争いそうだが、俺には王になる素質もやる気も微塵もないので、その必要性がない。
まあ、父様に側室が居てその子が優秀で俺が本妻の子供だったら俺の意志とは無関係に争いそうだけど。
それが貴族や王族にとっては割とポピュラーらしいし。
何が悲しくて王様を目指すのやら……王様はマルクス兄様みたいな出来る人がやるべきだよ。
民を愛し、民に愛され、家族を大切にして、家族に大切にされ、人の痛みを理解できて、それでも自分の国を守るために頑張れる人。
……改めて考えると、責任が重すぎる。
そんな重たいもの持つと考えると、王様ってやっぱり凄く大変そうだ。
それは、領民という民を守る貴族も同じ。
ただ民衆からお金を集めるだけでは、統治とは言えない。
なるほど、王や当主になるために学ぶべきことが多いのも頷けるというものだ。
「殿下もどのような道を進まれるにしても、是非後悔のなきよう」
「うん、そうするよ」
年上からの助言のようなものを聞きながら、俺もこういう事を言えるような渋い男になりたいものだと思いつつ、水を飲むのであった。
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