第26話 ラクダラ
本日も晴天なり。
ご機嫌なほどに照らす太陽の下、旅行に行くのを楽しみにしている俺はきっと、旗目から見ても子供らしい子供だろう。
使用人さん達が荷物を積む中、俺はその生き物と見つめ合う。
「ぶもぉう」
まるで、ミノタウロスのような顔つきのその生き物は、ラクダラという名前らしい。
ラクダのような見た目で、でも、ラクダより一回りか二回りくらい大きな体つきをしており、一見すると魔物にしか見えないが、これが動物というのでびっくりだ。
性格は温和で、人を乗せるのが好きらしい。
砂漠での主な移動手段の1つだが、魔法がある俺は使ったことがないので、初めての経験にちょっとドキドキだ。
「よろしくな、タウロス」
「殿下、その子はメスです……」
「すまんかった、みのりん」
なんか凛々しい顔つきでオスにしか見えなかった。
ごめんな、みのりん。
「ぶもっふ」
謝罪を受け入れてくれたようで、俺の手に頬をスリスリしてくるみのりん。
なんか、可愛い。
「……エル様、乗りましょう」
そうして、みのりんと戯れていると、少し不機嫌そうなアイリス。
みのりんから手を離し、何となく頭を撫でると、少し機嫌が良くなったのでヤキモチかと思われる。
動物にヤキモチとは珍しい……まあ、愛でるジャンルが違うからヤキモチなんて必要ないよ。
そんな思いを込めつつ撫でる。
「ぶもう」
すると、対抗するようにみのりんからオネダリされる。
結局、右手にアイリス、左手にみのりんを撫でる両手に花状態へと移行する。
うむ、これがモテ期か。
「……何してるんです?」
美少女と動物を両手で愛でる王子というのはさぞかし不思議に見えたようで、訝しむような視線を向けてくるトール。
「見ての通り、モテてる」
「見ての通り……?」
「なにさ?」
「いえ……なんでも」
首を突っ込むべきではないと判断したように引き下がるトール。
まあ、トールの場合は一生を通してモテ期だから、初めてのモテ期の俺の気持ちは分かるまい。
こんな小さな規模でも、どんな形でもモテはモテ。
正直、そこまでモテたいとは思わないが、和む光景は見てて微笑ましいので推奨しよう。
「むぅ……エル様は私のですよ?」
「ぶもるぅ」
素直に撫でられていたアイリスから、そんな不満が上がるとそれに答えるように鳴くみのりん。
言葉が分かるのだろうか?
そういえば、亜人の中には動物や魔物と話せる人も居ると聞いた事があるな。
アイリスとトールはかなり力のある亜人だし、動物と話せても不思議はないか。
そう考えると、本当に優秀な子を拾った俺は運がいいのかもしれない。
まあ、前世のマイナスを取り戻してるだけにも見えるが……普通に考えて前世よりプラスになってるので神様に感謝しておく。
どうも、ありがとうございます。
「殿下、お気をつけて……」
「メル、大丈夫?」
「すみません、あんまり気分が良くなく……」
わざわざ見送りに来てくれた俺のお世話をしてくるメイドさんのメルは妊娠初期のようで、体調は悪そうだ。
「ゆっくり休むんだよ?」
「お供できず申し訳ありません……」
「いいんだよ。メルは元気な赤ちゃん生むことだけ考えなよ。メルも元気で赤ちゃんも元気に生まれることが俺にとっては一番嬉しい事だからね」
「殿下……」
少しうるうるするメル。
「殿下、お気をつけて」
そして、そんなメルを支えながらも、心配そうに俺にそう言うのはメルの夫で、いつも俺の護衛をしてくれるグリスだ。
俺が妻のために残れと命じたので、心配してるのだろう。
「トール、しっかりと殿下をお守りするんだぞ」
「勿論です」
トールにも一応言い含めてるようだが、そのトールは特に気負うことなく頷いていた。
「しっかり守ってくれたまへよ、トールちゃん」
「いえ、そんなキャラじゃないですよね?」
「まあね」
ちゃん付けした瞬間鳥肌が立ったので、今後は呼ばないだろう。
……にしても、俺はいつまでアイリスとみのりんを撫で続ければいいのだろうか?
会話しつつ、両手で異なる存在を撫で続けているが、傍から見たらシュールに見えてそう。
喜んでるうさ耳美少女と動物を両手で撫で続けるのが少し疲れてきたが、アイリスの嬉しそうな顔と撫で心地でやめ時が見つからない。
少しでも手を緩めると途端に顔が悲しそうになるので、つい……みのりんの方も、オネダリが激しくなりそうだし。
「ふむ……とりあえず、グリス。奥さんのこと以外で一つだけ任せてもいい?」
「はい、なんでしょう?」
「この子俺が買い取るって、父様に伝えておいて」
そうして、俺専用のラクダラを一匹買ったのだが、まあ、お金はかなりあるし、少しは使って経済を回さないとね。
溜め込みすぎてもあれだし、使いたいのだが、中々使おうとしても減らないからつい、貯めてしまうのだ。
むしろ、自分で作り出してるせいか懐に入る額が多すぎて、死後に財産で身内で争わないようにしておかないと、相続争いとかアホらしいし。
そんな感じで少し想定外のことが起こりつつも、無事俺は旅行に出発するのであった。
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