第27話 不自由も自由

パカパカと足音を立てながら、俺とアイリスはラクダラのみのりんの背中に乗って砂漠を横断中だ。


眩しい日差しも、焼けるような暑さも、オアシス周辺よりも断然過酷そうな環境だが、俺は同行者全員に魔法で温度調節をしているので、昼間の移動にも難なく耐えられた。


「揺れますね……」

「まあ、仕方ないよ」


俺に後ろからしがみつくアイリスだが、もふもふした感触が心地よい。


なるほど、これがラッキースケベとか役得というやつか。


ちなみに、トールは1人で別のラクダラに乗っている。


アイリスは最初、てっきりトールと一緒に乗るのかと思っていたのだが、誘ったら当たり前のように俺と一緒にみのりんの上に乗ったので少しびっくりした。


兄離れも近いかもなぁ……


「殿下、その目はなんですか?」

「いや、お互い大変だな」


シスコン同盟(勝手に思ってるだけ)の盟友であるトールは俺の視線に物申したかったようだが、軽く受け流す。


「というか、何故わざわざラクダラ使うんですか?殿下なら、どうせ抜け出して近くの街まで転移出来ますよね?」

「あ、そういえばそうですね」


おっと、トールには見抜かれていたか。


まあ、実を言うと、目的地に一番近い場所まで転移して向かう方が早く着くのだが、それを言い出すと、俺一人で何日かかけて魔法で移動した方が早かったりもするので、あえて言わなかったのだ。


「まあ、出来なくはないけど、こういうのは色々と体面も大事なんだよ」


せっかく父が移動の手配をしてくれたのだから、使わないのは勿体ないし。


それに……


「旅先で色々見てこそ旅行だもの、過程を楽しまなきゃね」


どうせ暇な第2王子なのだから、この位の時間のロスは許容範囲内だろう。


「そんな訳で、楽しもうよ2人とも」

「はい!エル様!」

「まあ、殿下が良いならいいですけどね……でも、こんなに魔法使って平気って凄いですよね」

「今更だねぇ、チミ」

「エル様は魔力量が多いですしね」


あまり魔法に関して詳しくないトールだが、流石に俺の魔力消費量に関して無関心なくらいの魔法の乱発に今更ながらびっくりしてるようだ。


魔法を教えているアイリスは、割と初期からそのことに気付いていたようだが、どのくらいの魔力量なのかは把握してないといったところかな?


自分でも、かなり魔力量には自信があるのだが、まあ、これは無限に水魔法と氷魔法で水と氷を作るために増やしているだけなので、自慢する気は無かった。


案外、井の中の蛙で、都会に行けば俺よりも圧倒的に才能のある魔法使いとか居ても不思議じゃないしね。


あとは、同じような異世界からの転生者とか転移者かな?


そういえば、シンフォニア王国では転生者に会ったことないなぁ。


俺という前例がある以上、普通に何人か紛れててもおかしくないが……目立つようなことしてる人は居ないから分からないんだよねぇ。


チート無双ハーレムやっほい!みたいな分かりやすいのが居ないから、本当に俺以外にも居るとしたら皆、どれだけ巧妙にスローライフを楽しんでるのやら……羨まけしからんな。


「アイリスも、最近魔法使えるようになってきてますけど、殿下が教えてくれてるんですよね?」

「まあね」

「エル様は、凄く分かりやすく教えてくれるんだ」


えへへ、と微笑むアイリス。


人に教える経験はほとんどないのだが、初の教え子は才能があるから直ぐにそれを実践できて優秀だ。


人を育てるというのも案外面白いかもしれない。


まあ、とはいえ、教師とかは俺には無理そう。


子供は可愛いと思うけど、教えるのにはそこまで向いてないので、たまにアドバイスする程度が丁度いいか。


「まあ、単純にアイリスは覚えも早いし、教えてて楽しいよ」

「そ、そうですか?」

「うん、風魔法なんかは、そのうち俺を超えるかもね」


無論、水魔法は誰にも負けないけど。


水と氷の魔法に関しては、誰にも負けたくない。


だからこそ、日々俺はその魔法の研究を頑張っているのだ。


……と言いながらも、まあ、俺としてはもし負けてたら負けてたで、追いつけるように努力するくらいはするつもりだけど。


でも、やっぱり1番は水に触れられて、飲めればそれだけで満足かな?


「さて……おやつでも作るか」

「え?ここでですか?」

「うん、かき氷だよ。アイリス食べるよね?」

「食べます!」


元気に挙手するアイリス。


うん、素直で宜しい。


普通なら、途中で止まって作ることになるが、俺は魔法が使えるし、空間魔法でいつでも皿などを取り出せるので問題は無い。


空間魔法で別空間から皿を取り出して、そこに氷を生成してフワフワに削る。


そして、シロップを取り出してかければ……完成!


「はい、どうぞ」

「はわぁ……おいひい……」


相変わらず美味しそうに食べるアイリス。


やっぱり食べてる姿が可愛くていいね。


「トールもどう?」

「いえ……この揺れで食べるのは……」


トールの乗ってるラクダラは個性的な動きをしてるからか、食事は遠慮するトール。


これは、ご飯は止まって食べないとダメかもね。


そんなことを思いつつ、いちご味を一口。


うん、やっぱりかき氷いいね。








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