第21話 ちょっとした事故
翌朝、目を覚ますと見慣れぬ天井に戸惑う俺。
いつもなら、そこそこ見慣れてきた自室の天井と、窓に視線を向けるとオアシスが見える素敵な部屋のはずが、何処か別の部屋に居るように思えた。
はて、俺は一体……?
そんなことを思っていると、ふと隣で柔らかいものを触った気がする。
「うぅん……」
……何やら悩ましげな声と友に。
それは、よく見ればアイリスの白い尻尾であった。
肌に吸い付くような、素敵な感触だが、なんかイケナイことをしてる気になるのは気のせいだろうか?
んー、少し待って。
30秒でいいから。
確か、昼寝のし過ぎで夜中に起きてしまって、それでたまたま廊下で会ったアイリスとニラせんべいを作って食べて、アイリスの話を聞いて、部屋に運んで……
と、そこまで思い出して、理解する。
「なるほど、寝落ちか」
部屋に運んだアイリスだったが、俺の手を離してくれなくて、無理やりほどいて起こすのも可哀想なので解けるまで待ってたら、俺も寝落ちしたという訳だ。
……やってしまったが、まあ、仕方ない。
まだアイリスは起きてないようだし、今のうちに抜け出せば、問題あるまい。
そろりと脱げたそうと体を横にスライドさせると、まるで毛布が消えた時のように自分側に引き寄せようとするアイリス。
結果、先程と同じような体勢に戻ってしまう。
これは、起きて貰わないとダメかなぁ……
「アイリス、アイリス」
軽く揺すってみる。
すると、何故か俺を強く抱きしめてくるアイリス。
うーん、これ何をしても悪化するのだろうか?
「こんな所トールに見られたら斬り殺されるなぁ……」
「既に見ておりますが」
その声に視線を向けると、どこか呆れたような表情のトールが立っていた。
「あれ?鬼のような顔して剣を振りかざしてるかと思ったけど……落ち着いてるね」
「人を何だと思ってるんですか?全く……殿下のことですから、夜中にお腹空かせたアイリスに何か作ってくれたんですよね?それで、寝落ちした妹を部屋まで運んでくれたんじゃないんですか?」
凄い、寸分違わずに言い当てよった。
コヤツ……エスパーか!?
「いえ、普通にそれくらいしか思い浮かびませんよ」
「そう?」
サラリと心を読まれて、流されるとなんかヘコむ。
まあ、トールからもそこそこ信頼されるようになったのだろう。
良い事だよね。
「そんな訳で、ピッタリ賞に景品をあげよう。ニラせんべいだよ」
「どんな訳ですか」
空間魔法で別空間から、昨日作って保存していたストックからニラせんべいを取り出すと、首を傾げるトール。
ニラせんべいの匂いで忘れてた何かを思い出そうとしてるように見える。
まあ、昨日の話からして、母親のことかもだけど。
「それ、もしかして……」
「むにゃ……おかあしゃん……」
何かを言いかけたトールだったが、その前にニラせんべいの匂いで若干目覚めたように体を起こすアイリス。
「んん……エル様?」
「おはよう、アイリス。よく眠れた?」
「はぇ……え!な、なんでエル様がここに……」
混乱して、色々と豊かな妄想をしてそうなアイリス。
そんな微笑ましいうさ耳美少女に俺はこの言葉を送ろう。
「アイリスはもふもふしてて気持ちよく寝れたよ」
「ふぇ!?」
「誤解を解く方が先じゃないかと……」
赤面してあたふたするアイリスと、それを見て苦笑するトール。
なんとも、賑やかで良い事だ。
「それで?何を作ったの?」
カツアゲでもされてるような気分になる。
普通に、寝落ちして部屋に運んだことを話してアイリスの誤解は解けたが、その後に俺はもう一つの事故に出くわしていた。
それは、朝食前に食堂に行く途中で出会ったフレデリカ姉様との出来事。
挨拶をして一緒に食堂に向かおうとする俺から、先程取り出したニラせんべいの匂いが僅かにしたとかで、夜食のことがバレてしまったのだ。
しかも、フレデリカ姉様に……
気分はさながら、不良にお小遣いを強請られてる気弱ボッチの気分だ。
え?素で完璧だって?
うるさいよ!転生してもボッチの呪いはそう易々とは消えないのだ。
まあ、うちの家族では俺以外は皆陽キャっぽいけど、それはそれ。
「えっと、後で作るので良かったら……」
「うん、それなら許すわ」
フレデリカ姉様は、食べるのが好きだし、隠れてこっそり作ったものは許せないのだろう。
本当は別空間にストックがあるのだが、どうせなら作り方を料理人に教えて後々俺が楽出来るようにした方が効率がいいだろう。
それに、作りたてを保存してても、やっぱり気分的にはその場で作った作りたての方が美味しく感じるものだしね。
「でも、本当にエルは料理上手よね。将来騎士と料理人のどっちになるの?」
何故かその2つで絞られてしまったが……いや、何故に?
騎士なんて無理だし、料理人なんてもっと無理な気がする。
趣味で店を出す……みたいなのなら、なんとか。
ガチで採算とる店は、やる気にならないんだよねぇ。
料理はしたい時にするのが1番。
毎日はしなくていいや。
騎士?いや、それはフレデリカ姉様とトールに譲るよ。
「まあ、おいおい決めます」
「じゃあ、お昼から稽古ね!」
嬉しそうにそう言いながら、食堂に向かうフレデリカ姉様。
なんというか、フリーダムな姉で微笑ましいです。
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