第10話 ちょっと一息

「あー、買いすぎたなぁ……」


休憩がてら、近くの店に入って席に座ると思わずそう呟いてしまう。


やはり現地を見て回ると、色々と欲しいものが見つかってしまい、ついつい買い込んでしまう。


空間魔法で別空間に保管できるとはいえ、少しは自重しないと。


ちなみに、空間魔法で使用する別空間はお約束というか、特別な力によって物の存在を固定することにより、腐ることも錆びることもなく、出来たてのものを入れればホカホカに、冷え冷えのものを入れれば冷え冷えにという感じの素敵な便利魔法であった。


まあ、冷蔵庫とかみたいに入れたものを冷やすとかは無理だからそこは少し不便かもだが、出来たてやキンキンに冷やしたてを入れれば問題はないか。


どうしてもって時は、得意な水系&氷系魔法でも冷やせるしそこまでデメリットもない。


温かいものもまたしかり。


容量の限界も無いから気にしなくてもいいのだろうが、使わないものをストックしても仕方ないし、ある程度は絞ることも覚えよう。


ちなみに、俺が空間魔法でストックしてあるもので1番容量が大きいのは水と氷だろう。


自分の魔法で生成したものと、若干オアシスの水も少量づつ分けてストックしてある。


無論、家族や領民が困るほどにオアシスから水を取ることはしない。


少し質は落ちても、俺は自分で水を作れるので優先すべきは家族と領民だろう。


そんなに水をストックして意味があるかと聞かれるかもしれないが、水や氷は無駄にはならないし、それに魔力の容量を増やす意味でも毎日水や氷を作るのが日課になってたりする。


水とは本当に素晴らしいものだ。


「殿下、本当に私達もご一緒でよろしいのでしょうか?」


有料の少しぬるい水を、魔法で冷やしながら楽しんでいると、俺の向かいに座ったグリスがそんなことを聞いてくる。


むぅ、ぬるくなってもこの味わい……流石、オアシスの水だ。


「うん、分かる人には分かりそうだけど、変装としては親子のフリっぽいでしょ?」


他の変装の騎士達は別のテーブルか、外で見張りをしてる人も居るが、折角なのでいつも俺の護衛をしてくれるグリスといつも俺のお世話をしてくれるメルには同じ席に座ってもらっていた。


まあ、王族と相席なんて普通に不敬罪とか言われかねないけど、今の俺はお忍びなので気にする体面もそんなにない。


「好きなの頼んでいいよ。奢るから」

「いえ、そういう訳には……」

「メルにもグリスにも、いつもお世話になってるし、こういう時くらいはね」

「殿下……ありがとうございます」


少しうるっとしたようなメルだが、グリスも一応受け入れてくれたようなので好きに注文をしてもらう。


俺?俺は、2杯目の水のお代わり。


ぬるいオアシスの水もなかなかに味わい深く、白湯にした時とは違った良さがあった。


劣化してる感も無くはないが、程よい口当たりは悪くないし、魔法で少しづつ冷やして飲むと何段階かの変化があって楽しい。


「殿下は、本当に美味しそうにお水を飲みますね」

「そう?まあ、美味しいからね」


生きるのに必須でありながら、前世では触れることすら叶わなかったその存在の尊さは、本当に慈しむレベルで俺の心を占領していた。


やはり水とは素晴らしいものだ。


「お待たせしました」


看板娘らしきお嬢さんが、水のついでに頼んでいた料理を持ってきてくれる。


少し高めのサンドイッチだが、多分そこそこ高い香辛料が僅かに入ってるからの値段であろう。


じゃあ、いただきます。


大きめのサンドイッチ1口。


「……おぉー」


なかなか美味しい。


でも、これって……


「お姉さん、この中身の黄色いのって……」

「あ、えっと、ますたーど?という、ソースだそうです。何でも最近広まってるそうですよ」


俺が誰なのか察してそうな看板娘さんは、俺の質問に少し驚いてから、そんなことを教えてくれた。


そういえば、前に作ったなぁ。


マスタードというものもこの世界には無かったので、材料を揃えて、気まぐれで作ったのは少し前のこと。


珍しいことにマルクス兄様がどハマりしたらしく、商品化される事になるとは聞いてたがもう領民にまで広まってるのか……恐るべきは、出入りの商人の手腕か、それともどハマりしたマルクス兄様が頑張ったのか……まあ、何にしても俺にも開発者としてお金が入るらしいし、別にいいか。


個人的にはそんなにマスタードはそんなに好きではないが、辛いものは水との親和性が高め(偏見)な印象だからついつい作りたくなる。


この歳までにそこそこ前世の知識でアイディア料を貰ってるのだが、その額がかなりのもので、正直先駆者とは本当に稼げるのだなぁと、ビクビクしながら貯金してる俺は小市民なのだろう。


まあ、あって困るものじゃないし、前世で伊達に引きこもって本を読んだりネットで調べたりして知識だけは無駄にあるので試す意味でも使うのは良いことだろう。


そんなことを思いつつ、サンドイッチを頬張ってから水を飲む。


うむ、美味しい。
















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