第11話 腹ぺこさん

「……ん?」


お昼も食べたし、さてもう少し見て回ってから帰ろうかなと思いながら席を立つと、ふと視線を感じて店の入口に目をやる。


すると、そこにはこの暑い中フードを深く被った子供が店の入口付近で伺うようにこちらを見ていた。


「殿下」

「いや、待って。……お姉さん、ちょっといい?」


少し警戒気味にグリスが他の騎士に合図を送るのを制してから、俺は近くで給仕している看板娘さんに声をかける。


「はい、なんでしょう?」

「あそこに居る、入口に立ってる子って……」

「え?ああ、また来たんですか」


看板娘さんの口振りからして、初めてではないらしい。


「近くにある孤児院の子供ですよ。たまに来て、あそこに居るんですけど、居るのにも気づかない位なので放っておいてます。まあ、たまに店長はお客さんの残り物をあげてるみたいですが……」


孤児院……そういえば、この街にもあるという話は聞いてたな。


どこの世界にも、無責任な親というのはどうしても存在するようで、何とも悲しい話だが孤児院というものは必要なのだろう。


望まずに身篭ってしまうということもあるし、どれだけ技術が進歩しても人間とはそう易々とは本質を変えられないのだろう。


まあ、それは置いておいて。


俺は子供に向けて手招きをする。


「殿下、危険では?」

「大丈夫だよ。少し気になることがあるしね」


心配気味のメルを宥めていると、子供は俺の手招きに少し迷ってから、ゆっくりとこちらに近づいてきた。


「君、お腹空いてるの?」

「……うん」


キュゥ〜、という可愛らしい音がお腹から聞こえてくるくらいには空腹らしい。


「お姉さん、追加の注文いいかな?」

「はい」

「殿下、それは流石に……」


孤児院の子供に俺が勝手にご飯を与えるのはマズいと思ったのかそう声をあげるグリス。


「まあ、言いたいことは分かるけどね」

「でしたら……」

「ただ、少し気になることがあったから、それを確かめるための必要経費だよ」

「……分かりました」


グリスを落ち着かせてから、俺はメニューを渡そうとして、少し考える。


まず、読み書きが出来るかに関して。


昔よりも孤児院への援助は増えてるらしいし、教育にも力を入れてるとは聞いてるが、この子が読めるのか分からないので、それを聞くのが先か。


「文字は読める?」

「……少し」

「じゃあ、食べたいもの好きに頼んでいいよ」

「え……?いいの……?」

「うん、勿論」

「……でも、私……」

「分かってるよ。多分沢山食べないとダメなんだよね?」


その言葉に首を傾げるメルとグリスだが、その子……どうやら女の子らしいその子は、俺の言葉にフードを深く被り直す。


「……私のこと、分かるの?」

「まあね。出会ったのは初めてだけど……」

「あの、殿下どういう……」

「ん?ああ、この子多分亜人だよ」


少し声のトーンを落としてそう答える。


その答えに驚くメルとグリスだが、それも仕方ない。


亜人――即ち、人間に近い姿ながらもどこか別の生き物が混じったようなそんな種族。


この世界の現代において、数がかなり少なく、一部の国では差別の対象にもなってるらしい彼らに会えるのはかなりレアなケースと言えた。


まあ、亜人側が人間をあまり好いてないのでひっそりと暮らしてるケースが多いからとも言えるが。


悲しいことだが、皆が手を取り合って暮らせる世の中とは夢物語なのだろう。


人間同士でさえ争うのだから、他種族なんて以ての外とも言えたが。


無論、そんな差別意識を我が父や兄が持つわけもなく、うちの国ではそんな悪しき風習は無かったりする。


……と、俺の答えに女の子が少し縮こまってしまったので、俺はその子の頭を撫でてなるべく優しい声音を意識して言った。


「大丈夫、そんなことで差別したりしないから。それより、話をしたいんだ。ついでにお願いもかな?でも、まずはお腹を膨らませないとね」


その言葉にこくりと頷く女の子。


まあ、まだ完全には信用されないのは仕方ないか。


看板娘さんに注文をして、ついでに水も頼むことを忘れない。


食事にはやはり水こそ至高。


異論は認めるけどね。


















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