砂漠の国の第2王子〜スローライフな日々をお求め〜
yui/サウスのサウス
第1話 水アレルギーなんてクソ喰らえ!
水アレルギーというのもをご存知だろうか?
近年は認知されてきているが、まだまだ知らない人も多いこのアレルギー。
水といえば、人が生きる上で無くてはならない大切なもの。
それがアレルギーになるとはどれほど苦しいのか?
まあ、皆そんなの嘘だって思う人も居るようだが、本人からしたら本気で死活問題だ。
じゃあ、水も飲めない人はどうやって生きてるのか?
まあ、色々あるが、例えば牛乳や果実100%のジュースなんかが例になるかな。
お風呂や顔を洗うのだって、人によって困難だったりする。
更にもっと問題なのは、汗とかだろうか。
運動なんかも出来ないし、少し汗をかくだけで痒くなるなんてこともある。
まあ、そこまで重度の人はそうそう見かけることはないだろうが、俺はその条件に当てはまる人物を知っていた。
誰であろう――そう、俺です。
……うん、悲しいことに生まれつきのものでね、普通に水飲んだり、お風呂に長く入ったり、汗かくようなことは何も出来なかったんだ。
ずっと、部屋で読書やネットを使った知識の収集くらいしか出来ないし、そんな俺は当然ながらぼっち歴はそこそこ長い。
いじめ?
勿論あったよ。
まあ、人間という生き物は自分と違うものを拒否るし、偏見で人を見たりすることもあるのだから仕方ない。
とはいえ、クラスメイトの前で水をかけられて全身に蕁麻疹が出た時は流石に皆考えを改めてくれたようだけど。
教師ですら疑ってそんなことをするのだから、生活にはとにかく気を使った。
とはいえ、そんな俺にも一応高校時代に友達が出来たのだが……まさか、その友達に裏切られるとは思わなかった。
高校の卒業旅行として、海に連れてかれて、ドッキリと称して海に突き落とされた時は本気で友情は消えたよね。
初めて海に飛び込んだ瞬間の心地良さと、その後に出てきた皮膚の痒みや痛み、勢いが良かったために海水を飲んでしまい、塩水のしょっぱさと呼吸出来ないほどの猛烈な痛みに天国が見えたのだった。
(あぁ……死ぬんだろうなぁ……)
暫くして、感覚すら無くなってきてようやく海から引き上げられたが、元友人はそこでようやく自分がやったことが分かったのか泣いてるのが見えた。
まあ、それに免じて呪うのは止めておくよ。
消えていく意識の中で、最後に思うのは、先程感じた海の水の心地良さをもっと味わいたいという気持ちと……次があるなら、普通にお水を飲んだりお風呂に入れる生活を送りたいという願いだけだった。
……と、言う訳で、俺は本当に死んだらしいと、目の前の神様に言われたのだった。
白髭が似合う素敵なご老人。
俺も将来はこんな風に老けたかったと思わせるお爺さんは俺に聞いた。
「そんな訳でな、お前さんは友人のイタズラ心に殺された訳じゃ」
「えっと……それは分かってますが、何故俺はここに居るのでしょうか?」
神様に会えるような信心深い人生では無かったと思うが……
「まあ、あれじゃよ。お前さんが死んだことで、あの友人はアレルギーというものを見つめ直すことになって、どん底からその手の研究に熱心な学者となって世界を大きく進めたのだ。その切っ掛けには救いが無いとな」
へー、まあ、俺の死で少なからず影響を受けたのなら、多少は許せる気もする。
まあ、殺されたし恨んでもいいのだろうけど、やってしまったものは仕方ない。
俺の最愛の人を殺した!とかじゃないし、そんな最愛の人とか居るほどリアルは充実して無かったので、それ程未練もない。
ただ……強いて言えば、普通に水を飲んだりお風呂には入りたかったかな。
「そこで提案じゃ。お主を元の世界には戻せないが異世界で幸せに暮らすのはどうじゃ?」
「異世界ですか?」
それってあれかな?
ネット小説とかでよくある、俺TUEEEE!みたいな。
無双ハーレムひゃっほい!みたいな?
「うむ、望みがあれば少しなら叶えるぞ?」
「じゃあ、お水が飲めてお風呂に入れる健康な体を下さい!」
思わずそう強く願ってしまった。
「う、うむ。もう少し欲を出してもいいんじゃぞ?」
俺の勢いに引き気味の神様だが、これだけは譲れない。
「とにかく、普通に生活したいんです!」
「ふむ……まあ、とりあえず分かった。ではの、とある国の本来なら生まれぬはずの第2王子に転生させるとしようかの。憑依や乗っ取りは魂の移動先に制限があるしの。あと、魔法の才能は全属性揃えておくが、後は努力次第じゃな」
「ありがとうございます!」
思わず深々と頭を下げていた。
魔法ってことは水魔法とかも使えるんだよね?
水の球体とか魔法で作りたいなぁ。
「……なんじゃか、変なベクトルに曲がっておるのじゃなお主。まあ、良い。その世界での人生は前世での働きの褒美みたいなものじゃ。好きに過ごすといい」
そんな神様の言葉で俺はゆっくりと、意識が沈んでいく。
いざ!水が飲めて、お風呂に入れる世界へ!
そんなワクワク顔か心が読めたのかは分からないが、神様が苦笑してるだけは見えた。
そうして、俺は異世界へと転生するのだった。
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