第3話 ダグラスの思い
「おい、昨日の店員はどうした?」
「今、使いに出しておりますので、居りません。その代わりに、事情を伺っております私が接客させていただきます。」
男はダグラスの言葉を聞いて、少し黙り込んだ。何か考えているのだろうか。
「まぁいいだろう…… それで、剣はどうなんだ?」
ダグラスは勇気を振り絞って、嘘の説明をする。
「お客様の剣はこちらでしたよね? 査定をさせて頂きましたところ、一般的な剣のお値段が妥当かと……」
「そんなはずはないだろ! あれは…… いや…… 何でもない。」
男は明らかに何かを隠している様子である。
ダグラスは事実を明らかにさせる為に、話を続ける。
「失礼ですが……剣はどういった経緯で手に入れたのですか?」
「いや……もういい。帰らせてもらう!」
怪しげな男はしばらく黙り続けた後、理由を話すことが出来ぬまま、語気を荒げた。
「もしかして、他の方の剣ではないのですか?」
「お前には、関係ないだろ!」
男は偽物の剣を手にした。片手で乱雑に扱う姿を見て、ダグラスは自分の行動が間違ってないと思った。
その後、偽物の剣を手に持ったまま扉を開いて、逃げるようにして店から出ていった。
男が帰った後、資料室に隠れていたカイルがダグラスの前に現れた。
「ダグラス、素晴らしかったです!」
「あぁ、本当はこんなことをしてはいけないんじゃが、剣が盗まれたものだと分かったからの…… 素直に盗んだものであること、返しにいくことを約束してくれたら、ここまではせんかったよ!」
ダグラスは会話を続けながら、近くにあった椅子に座り込んだ。
「さて、カイルよ…… ここからお前には、大事な話をする。 その剣を持って、王国に剣を返しに行くのじゃ。」
「ちょっと待ってください! これまで近くの村ですら訪れたこともないのですよ。それに国宝品ですよ…… どうして僕が行かなくてはいけないのですか?」
「わしには、もう王国まで行く体力は残ってない…… それに長い間、店を放っておくわけにもいかない。この場所を必要としてくれている人達がここにいるのは、お前もよく分かったはずだ。」
カイルは、昨日の店番を頼まれた時の様子を思い出した。店がこの村の人達にとっての生活の一部であることを実感していた。
「それじゃあ、王国の使いの人に頼むというのはどうでしょう?」
「近くの町であれば、来てくれる可能性もあったかもしれんが…… ここは田舎じゃからな。イタズラだと思われるか、無視をされてしまうかじゃろうな……」
カイルは王国に行くという覚悟ができたのか、ダグラスの言葉に反論することは無かった。
「分かったよ…… でも、僕に出来るかな?」
「今は、難しいじゃろうな…… じゃから、力をつけるのじゃ! 傷つける力でなく、守れる力を……」
そう言うと、ダグラスは店の倉庫に向かった。しばらくすると、一本の剣を持って来た。
「これは、わしが友人に貰った剣なんじゃが、お前が持っていくといい! 王国の剣を使わせるわけには、いかないからな。」
「ありがとう、ダグラス。大切にするからね! ……昔の剣みたいだけど、手入れされていて、なんだか不思議な感じがするな……」
王国に行くことが決まってから、カイルはダグラスに対して日常会話で話をしている。
けれども、昨日とは違って不安や怖さというよりは、寂しさという気持ちからこのような話し方をしているようだ。
カイルは、旅に出る準備を進める。とはいっても、持っていく物はあまり無かったため、それほど時間はかからなかった。
「とりあえずは、ここから一番近い村へ行くのじゃ。その村は昨日、わしが訪れた場所でな…… お前の足なら、すぐに着くじゃろ。それと、この手紙を村長に渡すと良い…… きっと力になってくれるじゃろ!」
ダグラスは、村長に渡す手紙と一緒に地図も手渡した。旅をする人々にとっても地図は便利な物であるが、それ以上に、カイルは外の世界をあまり知らない為、道に迷わないようにというダグラスの優しさも込められていた。
「ダグラスの思いに応えれるように、頑張るよ。」
「気を付けるんじゃぞ。」
ダグラスに別れを告げたカイルは、新たな一歩を踏み出して村を後にするのであった。
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