ぼくらの異世界制作の方法

@fulidom

プロローグ

 痒みのような騒がしさに目が覚めた。うるさい音が聞こえるから騒がしいのではない。もぞもぞと何かが這い寄り近寄ってくる感覚が騒がしい。我は目を開ける。ぐるり見渡す。壁のような崖に囲まれた谷の底、大きな壷ような窪地の底は、薄暗い。岩壁にヒビが入ったような崖の隙間は暗く、まだ何も見えない。まだ何も見えないが、この隙間から何かが近づいて来る。我は首を真上に持ち上げて、空を見上げた。丸く青く見える空が昼間だと教えてくれる。

 ああ、眠い。我は顔を伏せて両目を閉じる。眠いのに、少しずつ痒みのような騒がしさが近づいている。喧しい。やがて、カチャカチャと金属音が聞こえてきた。今も聞こえるこれは、少しずつ大きくなる金属音だ。もぞもぞと這い寄ってくる喧しさは、もう近い。

 シュリィィッと金擦れ音に、我は左目を開けた。岩壁の隙間から出たすぐのところに、二脚二腕の白と赤に彩られた全身鎧が立っていた。両手で銀光を放つ剣を持っている。その体は小さく、我の片手ほどだ。この匂い、ヒト種か。剣も鎧も、どこかで見た記憶がある。だが寝ぼけた頭では思い出せない。はて、それを見たのはいつだったか。

「邪悪なる龍よ、セイダンの国の名に覚えはあるか! お前が滅ぼした国の名だ!」

 ヒト種がか細い声を上げた。我は「知らん」と答える。ヒト種は剣を我に向けてから、低く下段に構えた。その剣はどこで見た剣だっただろうか。気になる。思い出せないのは気持ちが悪い。眠いが気になる。

「ここより西方、正義を司るニイヤマ神の血を受け継ぐ者の国だ!」

 我が友の名に、記憶と思考が少しずつ結びつく。

「おお、思い出した。ゆえにその剣と鎧か。懐かしい」

「善なる始祖竜様と聖なる蜘蛛神様が、邪悪なお前を滅ぼすために作った武具だ!」

「ほほう、そのような伝承になったか。なるほどなるほど。アミの喜びそうなことだ」

 我は両目を開けて真上を見る。空に浮かぶ雲が眩しい。他のみんなは、今頃どこにいるだろうか。そも、我はどれほど眠っていたのだろうか。

「いと小さき者よ、我は今まで眠っていたのだ。お前の国を滅ぼしたのが我であるはずがない」

「偽りを言うな! 嵐で国ごと水に沈めるなどお前以外にない!」

「ほほう、あの国が嵐で水に沈んだか。なれば、お前の国を滅ぼしたのは自然現象の嵐だ。我と関わりなどない。そも、溢れやすい湖であるゆえ水を引くなと忠告があったはず。その湖より水を引いたゆえ、沈んだのだ」

 ヒト種は「黙れ!」と声を上げて我に向かってきた。速い。ヒト種にしては驚異的な速さだ。そのまま我の纏う暴風の魔力に触れて吹き飛ばされる。その吹き飛ばされて倒れたヒト種に我は告げる。

「いと小さき者よ。ここに争う相手はいない。去れ」

 しかしヒト種は立ち上がり、か細い雄叫びを上げて向かってくる。我が何もせずとも弾き飛ばされ吹き飛ばされ、そのたびに立ち上がって向かってくる。愚かしくも健気なヒト種だ。微笑ましくさえ思う。

 しばらく何度も同じことを繰り返すヒト種を眺めていたが、また眠気が押し寄せてきた。眠い。

 同じことを繰り返すヒト種に、我は長指の爪で触れる。バチッと小さく光って、剣と鎧が弾け飛ぶ。そして、カランカランと転がり落ちる。もうそこにはヒト種はいない。転がった鎧の内側に黒い汚れが残っているだけだ。

 我は首を丸め、また目を閉じた。もう少し眠りたい。起きて何かをするのは、それからでいいだろう。


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