2021-11-28

 ある田舎町に美しい銀色の髪の娘がいました。

 この娘は孤児でしたが、田舎町を統治する領主にその美しい銀色の髪を見初められ、養子として受け入れられたのでした。

 領主にはすでに二人の娘がいて、この二人の娘たちも気立ての良いこの子を末の妹として可愛がりました。

 それは寝起きの身支度をどちらの姉が行うか競い、たまに喧嘩になるほどでした。


 時が流れて三人の娘たちが年頃になると、その関係に不穏な空気が流れだします。

 末の妹と一緒にいると明らかに末の妹に視線が集まり、憧れの男の子も二言目には末の妹の話を持ち出してきます。

 それは母親も同じで、夫の視線が末の娘を追っていることに気付き、何度か声を掛けましたが止むことは無かったからです。

 やがて様々な催し物に、末の娘を連れて行くことが無くなってしまいました。


 一人で過ごすことの多くなった末の娘は、目立たない地味なローブで身を隠しながら、館の裏に広がる森へと通うようになっていました。

 きっかけは、執拗にスキンシップを求める養父である領主から逃れるためでした。

 しかし森の中で過ごすことに慣れてくると、森の動物や植物が厳しくも優しい友人のように感じるようになっていました。

 そんなある日のこと、王国のすべての領主たちに手紙が送られました。


 手紙は国王からのもので、内容は「王宮で催されるパーティにすべての子女を招待する。」とのことでした。

 国王からの招待となれば、人目にさらしたくない末の娘でも連れて行くしかありません。

 隠せば国王の言葉に従わないと判断されて、処刑されるかも知れないからです。

 領主とその妻、さらに二人の娘はそろって知恵を絞り、長女は末の妹に熱湯をかけて火傷を負わせました。


 火傷は、末の娘の美しい顔の半分の皮が剥がれ落ちるほどのひどいものでした。

 パーティまでに治ることは無く、見るに堪えない姿を王宮の臣下にも確認してもらい、末の娘は欠席を認めてもらったのでした。

 領主とその妻と二人の娘は王宮へと出発して、一人になった末の娘はいつもの通りに森へ向かいました。

 森の動物たちは末の娘を心配するように火傷を舐めて治そうとしましたが、治りが早くなったとしてもパーティには間に合わないでしょう。


 森で動物と植物に囲まれて細やかな幸せに和んでいると、末の娘の前に小さな老婆が現れました。

 小さな老婆は末の娘の火傷をみて悲しい表情を見せた後「娘が王宮のパーティーに参加するなら火傷を治す。」と言いました。

 末の娘は断りますが小さな老婆は時間をかけて説得し、パーティーへの参加を納得させると魔法を使って火傷を治してしまいました。

 もとの美しい顔立ちに戻った末の娘は、小さな老婆が魔法で用意した馬車と御者、護衛の騎士とともに、約束通りパーティへ向かいます。


 馬車はできる限り急いだのですが王宮はお城にあって、そのお城は大きな町の中にあったので、魔法の馬車でも時間がかかってしまいました。

 末の娘が王宮に着いた頃にはパーティは終わりの時を迎え、国王はパーティ会場から出て住居へと向かうところでした。

 パーティの終わりを告げられ少しだけがっかりしていた末の娘は、国王のために道を開けることを守衛に命じられ素直に端へ下がって頭を下げます。

 衛兵に囲まれて会場を出てゆく国王の目の端に、頭を下げた末の娘の明るく輝く銀色の髪が止まりました。


 ここはただ人が出入りするだけの場所で明かりは十分にありますが、床と壁は石材そのままの暗い灰色になっていました。

 明かりを当てても薄暗く感じるそのような場所に、美しく輝く銀色の髪を持つものが畏まっているのですから目立たないはずがありません。

 国王は足を止めて輝く銀色の髪の主に声をかけます。

 末の娘は言われるがままに顔を上げて国王を見上げました。


 末の娘が見上げた国王の瞳には大粒の涙が光っていました。

 なぜなら王妃が里帰りの時に野盗に襲われて、だた一人死体の見つからなかった娘が目の前にいるのですから。

 国王は偶々この国にやってきた旅の魔女に金貨を積んで娘の居所を占ってもらっていました。

 魔女は「探しても見つからない。この日に国中の娘を集めればその中にいる。」と言い、木の板にその日付を書き記してそのまま国を去ってしまいました。


 末の娘は王女として迎え入れられ、田舎の領主には娘を保護してもらった礼金が支払われました。


 領主の長女は、火傷の事がばれるのではないかと不安のあまり大きな禿が出来てしまいました。


 火傷の確認をした臣下は、王女様が一切そのことを喋らないし火傷そのものが無くなってしまったので黙っていることにしました。


 小さな老婆は、娘が間に合ってホッと胸をなで下ろすのでした。



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