いぬのフレンズたち
なのさP
ep1 ドール
巨大セルリアンがようやく討伐され、ジャパリパークに再び平和が訪れた。そして、巨大セルリアンで得られたデータを基に研究スタッフたちは新たな調査を行い始めている。僕は探検隊の隊長として前線にいたため、当事者として様々な報告書を作成して、調査に協力している。しかし、拠点のデスクにずっとしがみついて報告書を作るのは疲れる。少し休憩しようと席を立ったそのとき、聞き慣れた声が外から飛び込んできた。
「たーいちょーさーーーーん!!!!」
探検隊の副隊長、ドールが笑顔で拠点に入ってきた。後ろに見える尻尾は左右に揺れている。
「隊長さん!見てください!とても良い天気ですよ!」
そう言われたので、外に出てみた。確かに凄く良い天気だ。雲一つない青空が広がっていて、心地良いそよ風が吹いている。
「あの、もし隊長さんがよろしければ、みんなでピクニックに行きませんか?」
「ピクニックいきたい!」
マイルカもやってきた。すでに目がキラキラしている。よっぽどピクニックに行きたいのだろう。
「そうですわね、たまにはみんなでピクニックというのも悪くないですわね」
ミーア先生も外に出てきた。教材を持って出てきたあたり、マイルカに勉強を教えていたのかもしれない。
「隊長さん、最近ずっと何か作業しててすごく疲れてますよね?」
副隊長には僕が疲れていることもお見通しのようだ。
「こんな良い天気の下でピクニックしたら、隊長さんもリラックスできると思うんですけど、ダメですか…?」
お見通しなだけじゃなく、気を遣ってくれる。この副隊長は本当にみんなのことをよく見ている。ここまで言われたら行くしかない。
「わかった。今日はみんなでピクニックに行こうか」
「では、ハクトウワシさんとライオンさんを呼んできますわ」
ミーア先生が二人を呼びに行った。
「ドール、マイルカ、今から準備するから手伝ってくれる?」
「もちろんです!」
「はーい!」
三人でピクニックに必要なものを準備しに、一度拠点の中に戻った。
十分ほどして、みんなの準備が整った。今日のピクニックは拠点の近くの広場に決まったのでスタッフカーは要らない。このスタッフカーもそろそろ整備しなきゃなと、思った。
「隊長さん!行きましょう!」
ドールが言った。手にはバスケットを持っている。きっとみんなで食べるパンとかが入っているのだろう。
満面の笑みで歩き始めた彼女は、やけに眩しかった。
広場についてからまずは食事にした。僕の予想した通り、ドールの持ってきたバスケットにはたくさんの食べ物が入っていた。ジャパリパン、ジャパリコロネ、ジャパリスティック、ジャパリチップス、いつものピクニックでもお世話になっているラインナップだ。今日はそれだけではなく、ハクトウワシとライオンがジャパまんを持ってきた。なんでも新登場の味らしい。
青空の下、レジャーシートを敷いて、六人で一緒に食べたパンはいつもよりも美味しく感じた。
食事の後は、みんなで遊んだ。今日はマイルカがバドミントンのラケットとシャトルを持ってきていたので、バドミントン大会になった。
「行きますわよっ!」
「とりゃ!」
「ジャスティス!」
「負けないよっ!」
「えーい!」
遊びであっても、みんなは手を抜かない。とても楽しいが、フレンズ相手に遊ぶと体力がすぐに無くなってしまう。僕は水分補給のために一度抜け、ラムネを飲んでいた。
「隊長さん。大丈夫ですか?」
ドールが声を掛けてきた。
「うん、大丈夫だよ。ありがとうね、ドール」
「はい!でも………」
ドールは続けた。
「今までずっと冒険してて、色んなことがあったので、隊長さんも疲れてるんじゃないかなって、私不安なんです」
「そっか、優しいんだね、ドールは」
「ふぇっ!?そ、そう言われると照れちゃいます」
彼女の顔が少し赤くなった。動揺した彼女は思わず、手に持っていた何かを落とした。
「ん?それは?」
「あっ、これ、私の日誌ですっ」
あたふたしながら彼女は答えた。
僕はあることを思いついて聞いてみた。
「ねえ、その日誌、少し読んでみてもいいかな?」
「えっ!?読んじゃうんですか!?」
彼女は驚きの表情を見せた。
「だ、ダメかな…?」
僕は言った。そして、彼女は少し悩んで言った。
「わかりました。でもちょっとですよ!」
「ふふっ。ありがとう」
僕は彼女から日誌を受け取り、ページをめくった。
ドールの日誌には、今までの軌跡が残されていた。僕が初めてジャパリパークに来たときのこと、自分が副隊長になったこと、巨大セルリアンを倒すために出発したこと、色んなフレンズに出会えたこと、みんなの輝きを取り戻すために行動したときのこと、僕の輝きが奪われたときのこと、巨大セルリアンを倒したこと、最後は再びみんなと出会えたこと。彼女の冒険の全てが記されていた。
そうだ、僕は一度セルリアンに輝きを奪われたことがある。襲われた直後に意識を失ってしまったので、定かではないが、今まで見たことがないくらいにドールは錯乱していたらしい。そして、彼女はパークを救うために自らのフレンズとしての体を犠牲にしてハンターセルを倒した。しかし、彼女は、再びフレンズとしての体と記憶を取り戻した。最後には、巨大セルリアンをも倒してしまった。
「ねえ、ドール」
ふと聞いてみた。
「もし、僕やみんなの輝きが、記憶が無くなったら、どうする?」
僕は、再フレンズ化したドールが今までの全てを忘れていたということに気づいたあの瞬間、大きな絶望を感じた。心を抉られるようなあの感覚を忘れることはできない。
「それは、凄く怖いことですね…」
「でも、もしそんなことがあったら、私がみんなの輝きを取り戻します。だって、みんな私の大切な“群れ“ですから!」
「もし私のことが思い出せなくなっても、私は探検隊の副隊長です!」
「だから、そのときは、また私のしょうたいじょうを受け取ってください!」
ああ、そうだ。彼女は、ドールは、強くて優しい子だ。きっと彼女なら、何度だって輝きを取り戻してくれるだろう。これから、どんな絶望が待ち受けていても、彼女なら、立ち向かっていけるだろう。
「ドール」
「はい!」
「これからもよろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
そう言って笑顔を見せる彼女はやっぱり眩しかった。
「ところで隊長さん。そろそろ夕暮れになっちゃいますよ。拠点に戻りませんか?」
ドールに言われて周りを見渡すと、来た時よりも日が落ちているような気がした。ライオンは木の上でお昼寝をしており、ミーア先生とマイルカとハクトウワシもバドミントンをやめてくつろいでいる。どうやら、僕が思っていたよりも長い時間が経っていたみたいだ。
「そうだね、そろそろ戻ろうか」
みんなに声をかけ、帰りの支度をした。
少し傾いた日の下、僕たち探検隊はゆっくりと拠点に歩いて行った。
夜になって、みんなが寝たのを確認してから、僕は日誌を書いた。
隊長日誌 天気 晴れ
今日は探検隊のみんなでピクニックに行った。とても良い天気だったこともあり、みんなも良いリフレッシュになったのではないかと思う。
このピクニックは、ドールが提案してくれたものである。今日は彼女の“群れ“を大切にする気持ちを改めて感じることができた。
僕はこれからも、この偉大な副隊長に付いて行こうと思う。
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