第15話
ロシア連邦 モスクワ
ドラゴネストを除く機械文明圏(ドラゴネストは正確には機械文明圏ではないが)の主要国と国交を成立させたロシア連邦外務省の仕事は、もっぱら他の地球圏国家の仲介であった。
一方、兵器輸出を担う軍産複合体は大忙しになっていた。
それもそう、機械文明圏向けに輸出される兵器は2次大戦時の物を改良した物のみに限定すると決定されたため、古い設計資料を引っ張り出したり、日程の確保に明け暮れていていた。
今回は機械文明圏への輸出実験的な意味合いも含め、前々から兵器輸出の打診をしていたスチームー向けに改良が施されることとなった。
輸出する兵器にはスチームーとの対話から空中目標を迎撃する物が望ましいとされ、戦闘機と対空機関砲が選定された。
戦闘機担当の統一航空機製造会社はLa-7の改良、対空機関砲担当のデグチャリョーフ工場は61-K 37mm高射砲の改良を行った。
La-7はエンジンをASh-82FNから、新規にブラックボックス化、デチューン、機械的信頼性の向上などが行われたASh-82FNBに換装、機体各所の構造を全金属製にした上で簡素化し、格闘戦性能の低下と引き換えに整備性を向上させたLa-7Bして完成した。
61-Kは砲身を2.7mから2mに短縮、各所を軽量化し重量を2.1tから1.8tに、砲機構を簡素化し、射撃速度が毎分80発から毎分60発に低下したものの、信頼性を向上させた61-Fとして完成した
また、砲弾の小型化も行われ、射程が短くなったと引き換えに生産性と運用のしやすさを優先した37×216mmSRBが使用砲弾となった。
双方が共に国際軍事展示会においてスチームーに提案され、シベリアの訓練場で試験が行われる事となった。
シベリア 訓練場
晴れた日の午前から始まった試験の様相にスチームーの軍人達は圧倒されることになった。
標的機という存在はヒコウキという物がある以上すんなりと受け入れられたが、その無人の標的機をまるで人が動かしているように飛行させていた事に彼らは心底驚いていた。
こんな技術を確立させるまでどれだけの時間がかかっただろうか。
そして飛んでいる2機の標的機が、61-F 37mm対空機関砲の上空に向かう。
ダンダンダンダンダンダンダン!!
毎分60発という未だ大砲技術の発達中であるスチームーとしては物凄い発射速度で発射された37mm砲弾は、第2次世界大戦時より洗練された照準器や、砲そのものの精度向上とあいまって2機の標的機La-17UMのうち、1機を打ち落とす。
「凄い!あの速度の物体を打ち落とすとは!」
通常の単発式の砲に比べて複雑な構造の機関砲を作れず、近接信管も時限信管も存在しないため、簡単な構造になる大口径の高射砲も対空能力が見込めないとして作れなかったスチームー。
そんな彼らからすれば、目の前の61-Fは非常に有効な対空兵器に見えただろう。
何発も外れているとは言え、竜よりはるかに高速の標的機を数発当てただけで打ち落としている。
また、当たった時の爆発は竜を十分損傷させることができそうである。
もう1機も、2回避けられたものの撃墜し、その有効性をスチームーの軍人たちに示した。
「凄いな・・・しかも、まだヒコウキはでていない」
そう、これで終わりではない。まだ後ろにヒコウキのデモンストレーションが控えているのだ。
「おっ!あれか?」
数分後、訓練場の上空にLa-7BがLa-17UMと共に現れ、様々な戦闘機動を見せた後に、標的機とのドッグファイトを開始した。
ブゥゥゥゥン・・・
重いエンジンの作動音をかき鳴らしながらLa-17UMを追い回すLa-7Sには原型と同様のB-20 20mm機関砲が搭載されている。
ダダダダダダダダダン!!
数度の射撃の後に全機撃墜し、La-7Sは離陸した飛行場へと去っていった。
「ヒコウキは戦略兵器とも言えるな・・・コール大陸の情勢を塗り替えるぞ」
61-FとLa-7S、対空機関砲とヒコウキはこれまで圧倒的な航空戦力を有するドラゴネストを押さえ込む事ができるだろう。
これまで受け続けた苦渋を奴らに返す事ができ、更に国境の強化も図れる。
買わない選択肢はなかった。
試験後、スチームーは統一航空機製造会社とデグチャリョーフ工場と協議を重ね、スチームー帝国陸軍は61-Fを200基発注、新設予定のスチームー帝国陸軍航空隊向けに50機とスペアパーツをパイロットの訓練と合わせて発注した。
最終的に13ヶ月後にはすべての納入が終了予定である。
ドラゴネスト 第2空中都市
多くの上層民が暮らすこの都市の領主の住む城であるブロンカック城では、老齢で動けない天帝ドラクマに代わってドラゴネスト天上国の実質的な政権を持つ王女ダランマが部下の報告を聞いていた。
「ほう、例の噂は本当だったんじゃな?」
「はい、地球圏はヒコウキというモノで空を飛んでいるとのことです」
「ふむ、神に逆らうとは・・・罰さなければな」
空を支配する権利を神から授けられていると本気で思っている上層民は、地球圏のヒコウキの存在を自分たちに許可をとらず空を飛んでいるばかりか、異世界から来た等という戯れ言を言って竜族の神聖なる権利を犯している事をなんとも思わない。
神に選ばれた種族の1つであると自負する彼らからすれば、無礼どころではすまない程の罪深いものと脳内で処理されていた。
「第7竜士団を地球圏へ送れ、全てのヒコウキを破壊し、ヒコウキの周りの建物を破壊し尽くすのじゃ」
広い地球圏で、さらに膨大な数のヒコウキをどう全て破棄するのか、と思うだろうが、ダランマ含めこの情報を知る竜人は全員が神の力を借りず、自力で空を飛ぶヒコウキは非常に高価で、更に使用する魔石は短い距離の飛行であっても膨大であろうと考えていた。
その為、ヒコウキは少数しか存在しないと考えられていたのだ。
スチームー上空 第4竜士団
スチームーに対空能力が無いのを良いことに、ドラゴネスト竜士団は飛行距離の節約のため堂々とスチームー上空を飛んでいた。
『団長、今回はどんな相手でしょうか?』
『我らの神から与えられた神聖なる権利を犯した奴ららしい。全くバカな連中だ』
『なるほど・・・』
第4竜士団は10個分隊50の団員を有するドラゴネスト主力部隊の1つである。
ここコール大陸では竜人1人居るだけで膨大な戦力として機能する。そんなのが50も居るというのはこの世界の普通の国家からすれば恐怖以上の何者でもない。
そして途中のドラゴネストの従属国で休憩を挟みつつ、スチームーが61-FとLa-7Sの採用を決めた頃、地球圏に最も近い従属国の島を飛び立ち、アルメニアとアゼルバイジャンへと向かっていた。
アゼルバイジャン空軍
「レーダーに謎の機影、距離294、方位2-4-6、IFF応答なし!」
「IFF応答なしだと?どういうことだ」
「電波も発していません。IFFどころかまともな電子機器も載っていないようです」
「まさか・・・ワイバーンか?確認するぞ、戦闘機を飛ばせ」
「アルメニアに連絡は?」
「必要ない、どうせあっちも探知してるだろうからな」
謎の機影・・・ドラゴネスト第4竜士団をレーダーで捉えたアゼルバイジャン空軍は、ワイバーンである可能性と、もしそうであった場合は追い返さなければならない為、確認の為にMiG-21を2機、謎の機影の元に向かわせた。
「司令部、司令部、こちらスクランブル、目標をレーダー及び視認で確認した、目標50、ワイバーンより明らかに大きい。指示を求む」
『こちら司令部、接近して警告を発しろ、知性のある連中なら反応があるはずだ。反応がないか攻撃してきたら武装の限り撃墜しろ』
「了解、接近して警告を発する」
MiG-21は少しずつ50体の目標に向け接近する。
しっかりと視認できる距離まで近づいたその時。
ボォッ・・・
「ブレイク!ブレイク!」
50体のうち1匹が2機にMiG-21の方に進路を変え、火炎弾を発射した。
2機のMiG-21は、火炎弾を回避すると、攻撃体制に転じる。
「攻撃を受けた。反撃する!」
バォォォォォォォ!!
MiG-21bisのGSh-23Lが23mm弾が大量に竜に命中すると、身体中から血しぶきを上げ、力無く落ちていった。
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