Age of Different World

@kaki0412

全ての序章

ファフィ島紛争

第1話

ミストラル王国水軍 哨戒艇


小さな帆船が帆を一杯に広げながら海を進んでいく。


その先には巨大な鉄の船。


船長は恐怖に駆られながら、使命感を胸に近づく。


これがアメリカ合衆国ーーー地球圏とのファーストコンタクトととなった。


ゼレル暦5680年4月

ミストラル王国 王都ミスト


きらびやかな装飾に彩られたこの部屋では貴族たちが激しい議論を繰り広げていた。


その議題は数時間前に接触してきたアメリカという国についてだ。


「本当なのか?」

「我々を侵略しに来た訳じゃないよな」

「とにかくあってみるべきじゃないか?」

「いや!我々より奥地から来たのだ、本当の意味での蛮族ではないのか!?」

「そうだそうだ!聞いた話によると、奴らは魔力を持っていないと聞くぞ!」

「しかし、彼らの船は列強に匹敵する大きさだと聞いているぞ!」


ここマンター大陸は世界の中心といわれているリアリクトン大陸から離れた非文明圏として扱われている世界だ。


機械文明圏からは資源の眠る土地のため、これからの発展が期待されているが、世界の中心とされる魔術文明圏からは技術も実力もない蛮地とされる。


さらに地球の4倍近い面積の惑星である上に非文明圏は広いので、一万を越える国家がひしめいていた。


「陛下、私内務大臣はこのような提案をいたします」


この地域では高価なメガネをかけた一人の男が部屋の奥に座る大男に羊皮紙を差し出す。そこにはこう書かれている。



アメリカに対する要求案


一つ、アメリカの王には我が国の王族を招くこと。


二つ、アメリカにおいて、我が国の民は特権を有する。内容は他に定める。


三つ、アメリカは、我が国に求めに応じ、資源や人的資源を差し出すこと。



いわゆる服従要求である。内務大臣はアメリカという国が新興国だと考え、地域大国の自国の要求を簡単に飲むと思っているのだ。


しかし軍務大臣が反対する。


「奴らは魔術文明圏や機械文明圏しか持たぬ鉄の船を持っているのだぞ!そんな要求を突きつけたら、戦争になる!負けるぞ!」


「何をいうのです。恐らくその鉄の船は重すぎてろくな武器を搭載できていないでしょう」


「そもそもあれだけの鉄の船を作るだけの鉄を生産できるのだぞ!これだけでも十分国力差は大きい!」


「しかし」


「もうよい!」


内務大臣の言葉を遮って奥の大男が声を出す。


「とにかく、彼らに会ってみなければなにもわからんだろう。外交大臣!」


「ハッ!」


「彼らはと話をし、彼らの要求を聞いてこい、それでまた会議を開こう」


外交大臣と呼ばれた男はそそくさと立ち去り、他の者たちもゾロゾロと動き出す。


(はたして、どうなることやら、、、)



ミストラル王国 港町サンス


(こ、これは、、、!)


外交官アドルフォは驚愕していた。彼は列強相手の交渉もしたことがある優秀な外交官だったが、彼にとって目の前にある'現実'は彼にとって到底受け入れがたい内容だった。彼の眼前にあるその巨大な鉄の船。


その名はワスプ級強襲揚陸艦、全長257.3m、全幅42.67m、満載排水量41,684tの大型艦であり、アメリカ軍の強襲揚陸艦の主力となっている艦艇だ。


ワスプ級はアメリカ合衆国で開発された強襲揚陸艦の一種だ。タラワ級が当時開発されていたLCAC-1との適合性に問題があったことから計画、建造された。地球世界ではそこまで珍しいものではなかったが、まだ帆船が幅を利かせているこの世界においては異常な大きさと見た目だった。


「どんな要求をされることやら、、、」



港町サンス 領主館 迎賓室


「信じられないかもしれませんが、合衆国は異世界から転移してきたと考えられています」


「転・・・移?」


「我々が恐れているのは、貴国を含めた近隣諸国との偶発的な衝突です。国交もない中、漁船が間違って領海に深く侵入、たまたま対立国の偵察船と間違われドカン・・・」


「それは・・・見たくない光景ですな」


「そのような事態を未然に防ぐために」


アメリカ合衆国の外交官はバッグから書類を取り出し、アドルフォに差し出す。


「我が国は貴国との国交の開始と関連条約の締結を望みます」


差し出された書類は国交に際してのことやら、いくつもの関連条約についての事やら、様々な事が書かれていた。


アドルフォは震えながら声を出す。


「こ、これは、、、」


怒りに震えているわけではない。彼らほどの力を持つ勢力との交渉で、このような事初めてだったからだ。


聞いた話によれば、世界の中心、魔術文明圏の列強、神聖ケール王国が我が国が成立した頃に世界の守護者として我が国に国交を求めた際には、最初から領事裁判権はもちろん、貴族は人を殺そうが、我が国民を勝手に奴隷にしようが、何をやっても罪にとらわれないという条文まで入っていた。


しかし、見た目だけならケール王国より強そうなアメリカ合衆国からの要望は、彼にとってあり得ない内容だった。


すぐに魔術通信で王都へとアメリカの要望は伝えられ、その二日後には再び会議が開かれた。



ミストラル王国 王都ミスト


「なんだこれは!」


「しかし!」


「これでは!」


王城では再び貴族たちが激しい論争を繰り広げていた。

アメリカの要求は彼らにとって(ある意味で)予想外の内容であり、受け入れるかいなかで大論争が繰り広げられていた。


「陛下!彼らの力は強大です!受け入れましょう!」


「陛下!あんな見た目だけの奴らの要望を受け入れる必要はありません!」


陛下と呼ばれた大男は考え込む。彼らの要求を飲めば、この大陸で唯一文明国家として認められている自国の影響力は後退するだろう。しかし、要求を断れば、どうなるか分かったことではない。


「、、、やつらの要望を受け入れる」



アメリカ=ミストラル基本条約


ミストラル王国はアメリカ合衆国と国交を結び、多方面における交流を開始した。


数日後にはアメリカの同盟国とか友好国とかいう複数の国々とも条約を結んだ。


そのアメリカを含めた全ての国家が鉄の船を持ち、馬がいなくとも独りでに走る車を持っていた。


条約締結から一ヶ月後には転移によって行き場を半分失っていたアメリカやロシアの商業船舶が多く訪れ、数ヵ月後にはサンスの港湾設備はこれまでと比較にならないほど進化するという。



「驚いたな、、、一ヶ月でここまで発展するか、、、」


地球人から見れば一次大戦前の風景に見えるだろうが、この世界からすれば限られた大国の人々以外みることのできないはずの光景だった。


一般的に非文明圏の港は大型の帆船が十隻停泊できるだけでも中規模港湾として認識される。


しかし、そこには200mを越える鋼鉄の船が行き来できる巨大な港があった。


平らな黒い地面に、巨大な鉄のクレーン(非文明圏にも木造クレーンがある)、果ては馬なしで動く鉄の車が無数に動いている。


どれもこれもが彼らにとって遥か未来の物だった。



2020年6月

アメリカ合衆国 ワシントンD.C.


「景気はなんとか上向いたが・・・」


転移後、主要な貿易相手のほぼ全てを失った結果、アメリカ経済は大きく落ち込み、失業者も増えてしまっていた。


ロシアなどユーラシア側の同じく転移した国家との貿易を活発化させたことでなんとか落ち込んだ経済を維持していたが、この新世界での外交関係を増やしていく中で貿易相手を増やすことに成功し、アメリカは経済の建て直しに成功しつつあった。


だが、GPSを含めた多くの人工衛星を失ったのは大きく、経済のみならず軍事面等でも大きなな損失となっていることは明白であり、特に多くのシステムにGPS他人工衛星を活用していたアメリカは大きな損害を負っていた。


アメリカ以外も大きな損害を負っており、各国に設置されている宇宙ロケット打ち上げ基地はフル稼働し続け、ロシアではミサイルサイロも動員し、一週間で30基以上のロケットが宇宙へと打ち上げられていった。


「ミストラル王国とやらからこの世界の基本情報は手に入ったが、予想より遥かに歪で殺伐とした世界だな、こりゃ」


ミストラル王国などの地域は非文明圏とよばれており、地球でいえば16世紀か17世紀ほどの文明を持っているが、調査によってより東の機械文明圏と呼ばれている地域の国々は第一次世界大戦頃かそれより少し劣る程度の技術力があり、北の魔術文明圏と呼ばれている地域の国々は戦間期~第二次世界大戦最初期ほど技術力と判明している。


しかし、最も問題なのは・・・。



2020年8月

ロシア連邦 モスクワ


「この世界の国々には野蛮な風習が変わってないのか、ある意味摩訶不思議だ・・・」


ミストラル王国から入ってきた情報によれば、この世界では非文明圏と呼ばれている地域の各国が機械文明圏や魔術文明圏の国々と結んでいる条約はひどい状態だ。


小耳に挟んだことだが、非文明圏国家の一年の最大の目標は国家滅亡を逃れることらしい。


国家規模で食うか食われるかの企業競争染みたことを繰り広げるとは、恐ろしい世界だ。


地球もそれなりに生存競争の激しい時代はあったが、それは本当に文明の勃興期という時代だ。


非文明圏の大半が16世紀程度、少数が17世紀に突入していることを考えると、明らかに文化等が発達していない。


「なめられないようにする必要があるな・・・」


こんな中でなめめられれば、即戦争だ。これまで同等の相手ばかり想定してきた地球圏国家には割に合わない


「核抑止力もすぐには復活させられん」


幸いにも、この世界で最強と呼ばれている神聖ケール王国なる国の技術力は二次大戦初期程度で、もし戦争を吹っ掛けられても確実に勝てる。


これならいざというときは軍事力にものを言わせてこちらの要求を飲ませることもできる。


「忙しくなりそうだな・・・」

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