その4
「そんな、あっさり簡単な調子で、俺は勇者の子孫として生まれたのですか?」
「あ、いえ、さすがにこんな簡単には話は進みませんでした」
相変わらずの調子でシルヴィア様が返事をした。
「ただ、ざっくりと会議の流れを説明すると、要するにそういうことがあったってことなんです。本当は、もっと反対意見がでたりとか、いろいろあったんですけどね。天界の元老院も、全員が全員、同じ考えってわけでもありませんし」
「はあ」
「で、とにかく、いまのあなたがあるわけです。実は私、ほかにも転生した魂の担当をしてまして。いま、こっちでいろいろ仕事をしてるんですよ。その流れで、アーサー様にも、そろそろ過去のことを思いだしてもらおう。今後、どういう方針で行動するのか、その確認をしようと思いまして」
ここまで言って、シルヴィア様が口をつぐんだ。俺の返事を待っている感じである。――どういう方針も何も、決まりきったことではないか。
「俺は人間です。それも、魔王を倒した勇者の家柄の。これからも勇者として生きていくしかないではありませんか」
俺の返事に、シルヴィア様が笑顔でうなずいた。
「はい、ありがとうございます。想像通りのお答えでした。皆さん、大体同じことをおっしゃいますねえ」
どこの誰かは知らないが、ほかの転生した連中も、皆、こんな感じだったらしい。それはいいんだが。
「あの、シルヴィア様? それで、このことは」
「あ、はいはい。安心してください。父の名に誓います。誰にも言いません」
シルヴィア様が右手を上げて宣誓した。で、少ししてから右手を下ろす。
「でも、そんなの気にしなくてもいいと思いますけどね。天界の元老院がいいって言って、あなたの魂を勇者の一族に転生させたんですから。いまのあなたはいまのあなたでしょうに」
「人間はそういうふうにものを見ないのですよ」
どうやら、シルヴィア様が女神の眷属だというのは事実のようだった。普通に会話をしているが、本当のところでは、人間の心が理解できていないらしい。――魔族が生まれ変わって勇者の一族に籍を置いているなんて話、普通に聞いたらスパイが潜り込んでいるって誰でも判断する。この俺が聞いてもそう判断するはずだ。こんなことがバレたら俺は国を追放どころか火炙りにもされかねない。
「いや、それだけではないぞ。奴がなんと言うか」
昼間、決闘の約束をした魔将軍家のエイブラハム。奴がこんなことを知ったら俺を嘲笑するに決まっている。「なんだかんだと偉そうなことを言っておきながら、おまえも元は俺と同じ魔族だったのか。いや、魔将軍の俺よりも下の立場なのだから、同じではないな。これからは俺の意のままに行動してもらおう」――こんなことを言いだしてくるはずだ。いや、それどころか、魔将軍の力にものを言わせて、俺を本当のスパイに仕立て上げるかも。
「あー、それはないと思いますよ」
またもや俺の考えを読んだらしく、シルヴィア様が眉をひそめて言ってきた。今回はさすがに笑顔ではない。
「あの方の性格だと、むしろ、尊敬するか歓迎してくるんじゃないかって思いますけどね。卑怯なことはお嫌いみたいでしたし。だから、あなたとの決闘も、正々堂々と受けたんでしょうから」
「――ああ、なるほど。そう言われたら、そうかもですな」
「ただ、水汲みにきた村娘を殺して食べたって話を聞いたら、かなり複雑な表情はされると思いますけど。というか、ヘたをしたら、ただ勝敗を決めるだけの決闘が、命懸けの殺し合いになるかもしれません。これは私の個人的な意見ですけど、あれは口外するべきではないですね」
「わかりました」
シルヴィア様に返事をしてから、俺はあることに思い至った。このとき、俺はどんな顔をしていたのだろう。
「すると、この世で一番の卑怯者は、この俺だったのですか」
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