その7

 


        3 エイブラハム・フレイザー




「実は今日、こちらの方が転校生で私の講堂にいらっしゃって。それで、仲良くなったので、エイブラハム様にも紹介しようと思って、特別に中庭まできたんです」


 エイプリルが言い、シルヴィア殿のほうをむいた。シルヴィア殿が笑顔で俺たちに会釈をする。


「なるほど。そういうことか」


 俺はうなずいた。――気がつくと、メアリー様とエリザベス様のふたりが、キョトンとした表情で俺とエイプリルを見ていた。


「ああ、これは失礼をいたしました」


 メアリー様たちに謝罪し、俺はエイプリルにむき直った。


「私からの紹介でよろしいかな? それともご自分でなされるか?」


「では、私から」


 エイプリルが言い、少し前にでた。


「どうも、はじめまして。エイプリル・バイロンと言います。こちらのエイブラハム様とは、小さい頃からよく遊んだ仲で。それから、私も見ての通りの魔族ですが、べつに何か悪いことをしようとは思っておりませんので。以後、よろしく」


「はあ。あの、メアリー・クレメンスと言います」


「私は、エリザベス・バーネットです」


 エイプリルの自己紹介に、メアリー様たちも同じように自己紹介をした。俺が視線を変えると、エイプリルの後方に立っていたシルヴィア殿が俺を見て笑いかける。


「では、私も自己紹介をして構いませんか?」


 断る口実が俺には見つからなかった。


「もちろん構いませんが?」


 ここで、どういうわけか、メアリー様の顔色が少し変わったように見えた。なぜだろうか。旧知の仲だと聞いていたのだが。シルヴィア殿が気にした風もなく、俺たちに会釈をする。


「はじめましての方も、そうでない方も。私はシルヴィアと言います。今日、この学園に入りまして。午前中にエイプリル様といろいろ話をしたのです」


 この自己紹介に、なぜかほっとした顔をするメアリー様だった。


「ファミリーネームはなんと言うのでしょうか?」


 エリザベス様が質問してきた。シルヴィア殿がエリザベス様に笑いかける。


「実は、私の家系には、ファミリーネームという風習がないのです」


「あら、そうだったのですか」


 シルヴィア殿の説明に、ちょっと意外そうな顔でエリザベス様がうなずいた。シルヴィア殿が笑顔のまま、つづけて口を開く。


「ただ、こちらにくる以上、こちらの風習に合わせるのが礼儀だとも思いますので。――そうですね。これからは、シルヴィア・チャーチと名乗らせていただきます」


 チャーチ。教会か。なるほど、女神の眷属が帰る家にはふさわしい名かもしれない。エリザベス様が感心したような顔をする。


「きっと熱心な信者様なのでしょうね」


「いえいえ、私なんて、立場としてはかなり下です」


 と言ってから、シルヴィア殿がエイプリルのほうをむいた。


「私などより、こちらのエイプリル様はすごいのですよ。魔界の宰相である、オーガスト・バイロン様のご息女ですから」


 笑顔で説明するシルヴィア殿だった。そういえば、そのことは言ってなかったな。一瞬置いてから、メアリー様とエリザベス様が目を見開く。


「「そうなのですか?」」


 メアリー様とエリザベル様が同時に訊いてきた。エイプリルがうなずく。


「その通りです」


 同時に、俺の横で、ああ、という声がした。


 アーサーだった。目をむけると、こちらも驚いたようにエイプリルを見ている。


「そうか。どこかで聞いた名前だと思っていたが。これは驚いたな」


 と言ってから、急にアーサーが紳士的な顔つきをした。


「これは失礼を。私はアーサー・レッドフィールドと言います。違う講堂で授業を受けていたので、いままで縁はありませんでしたが。以後、お見知りおきを」


「レッドフィールドですか」


 アーサーの自己紹介に、エイプリルが小首をかしげた。どこかで聞いた名前だけど、なんだったかな、という顔をしている。


「かつて魔界大戦で魔王様を倒した六大勇者の家柄だそうだ」


「――ああ、そういえば!」


 俺の説明に、エイプリルが驚いたようにアーサーを見つめた。


「そうですか。あなたのご先祖が魔王様を」


「ええ、その通りです」


 アーサーが笑顔でうなずいた。

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