第2話末っ子の幸福

 魔術師・アマリオがとあるカフェで一服していると、地味な十八歳の少年を見つけた。着ている服も古く、活力が無い印象だ。その少年に目を付けたアマリオは、声をかけた。

「何か悩み事ですか?」

「ん・・・どちらですか?」

「私はアマリオ、魔術師です。」

 少年は驚いて椅子から転げ落ちた。

「あの・・・噂のアマリオ・・・。」

「どうやら、私の噂は結構広がっているようですね。」

「それで、僕なんかに何の用?」

「あなたが思い悩んでいるようなので、どうしてそうなのか聞きたいのです。」

 すると少年はアマリオに悩みを話し出した。

「僕は三人兄弟の末っ子なんだ、だから貰った者は兄のお下がり。最初は良かったけど、そろそろ自分だけのものみたいなのが欲しいんだ。でも両親は兄二人ばかり可愛がって、僕の事なんか見向きもしないんだ・・・。」

「なるほど。では例えば何が欲しいのですか?」

「そうだな・・・、ユリさんかな。」

「ほう、女の子かい?」

「うん、みんなに好かれているきれいな人なんだ・・。」

 少年の顔はユリを思い浮かべて、にやついている。

「ほう、それなら悪魔と契約してみてはどうでしょう?」

「ええ!!悪魔と契約・・・。」

「それなら確実にユリをあなたのものにできます、ただ契約する場合は人の命が必要です。」

「そうだよね・・・、やめとくよ。」

 少年が諦めて立ち去ろうとした時、アマリオは言った。

「私が立ち会えば、悪魔に払う命を選べますよ・・・。」





 数日後、アマリオはユリと歩く少年を見かけてた。少年はアマリオに気付いて声をかけた。

「この前はありがとうございました。」

「どういたしまして、ところで名前を聞いていませんでしたね。」

「僕はクリというんだ。」

 あの時クリがアマリオから聞いたのは、悪魔と契約する際に払う命を選べるというもの。それによりクリは一番上の兄の命を払って、シトリーという悪魔と契約した。そのシトリーの力で、ユリの心をクリに向けさせたのだ。

「ねえねえ、この人誰?」

「アマリオだよ、魔術師なんだ。」

「嘘!!本当にいたんだ・・・。」

「凄いだろ、アマリオのおかげで僕はとても幸せなんだ。」

「へえ、私も幸せになりたいなあ。」

「それならアマリオの仲介で、悪魔と契約したらどうかな?」

「悪魔と契約・・・、凄く怖そう・・・やめとこうかな。」

「最初は僕もそうだったけど、やってみたら案外いいものだよ。始めてみようよ!」

 クリはユリに熱心に勧めた。

「そうね・・・、じゃあやってみようかな。」

「ありがとうございます。ところでクリさん、イダ(クリの兄弟の長男)はご健在ですか?」

「ああ、十日前に死んだよ。なんか急に死んだみたい。」

「そうですか・・・。」

 その後クリとユリは手をつなぎながら去って行った、そのラブラブな後ろ姿にアマリオはほくそ笑んだ。






 それから数年の間、クリとユリは色んな悪魔と契約したことで、豪華で充実した生活を手に入れた。結婚して子供も生まれたクリとユリは、幸せの絶頂にいた。そんなクリとユリの様子を、アマリオと悪魔達は見つめていた。

「アマリオ、最高のお得意様を見つけてくれてありがとう。」

「いえいえ、こちらもあなた達の力を借りる事ができてよかったよ。」

「それにしても稀に見る強欲な者だぜ。」

「ああ、そうだな。このご時世悪魔が疎まれるのはもちろんの事、無欲な人間が増えて契約がしにくくなったからな。」

「全くそうです。しかし人間の欲望は本能的なもの、理性で完全に押さえつけることはできません。」

「そういえばクリから新しい契約を受けたんだ、俺は仕事に行ってくるぜ。」

 そう言うと悪魔の一人が、仕事へ向かった。

「でももうすぐクリとユリの身近な人たちが全員いなくなります、その時はどうするのでしょうか・・・?」

 アマリオは子供と遊ぶクリとユリを窓から眺めながら、静かにほくそ笑んだ。



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