魔術師・アマリオ

読天文之

第1話暴力親父の勇気

 ある町の片隅に、アマリオという魔術師がいた。天変地異かつ奇想天外なあらゆる術を使い、冥界や天界・悪魔などにも精通しているという噂もある、謎多き魔術師である。そんなアマリオがある日、町の公園で俯きながらブランコをこぐ十歳の男の子を見かけた。

「どうして落ち込んでいる?」

「え・・・?」

 少年は見上げてアマリオの顔を見た。短髪で無表情な青年の顔である。

「どうして落ち込んでいる?もし、話せるのなら教えてくれ。」

 少年はアマリオの不思議な雰囲気に、不思議と心が開いた。

「・・・僕に勇気が無かったから、妹を救えなかったんだ・・・。」

「妹に何があったの?」

「先週、妹とかくれんぼで遊んでいたんだ。それでもう帰る時間になって妹を捜したら、廃墟で妹が軍人二人にいじめられていたんだ。僕は軍人が怖くて助けられなかったんだ・・・。」

「そうか・・・。」

「それで妹は助かったけど・・・、「なぜ妹を助けなかった!!」って父さんに殴られるようになったんだ。」

「は?それは訳が解らんな・・・。」

「そうだよ、軍人の息子が恥ずかしいって。僕は軍人じゃないのに・・・。」

 少年は不満を呟いた。するとアマリオは少年の胸に暗示をかけた。

「もし助けが欲しければ私を思い出して、何時でも来るから。」

 少年がブランコから立ち上がった時、アマリオの姿はすでに消えていた。




「この臆病者!!だからお前はダメなんだ!!」

 その日の午後六時、少年は父親に突き飛ばされた。これから一時間、少年は父親から「教育」という名目の暴力に耐えねばならない。

「お前は軍人の息子だ、たとえ相手がどんなのであっても立ち向かっていかなければならない!なのにお前は、怖くなって逃げ出して妹を見捨てた!!お前は息子失格である!!」

 憤怒の表情でまくし立てる父親、その迫力に少年は何も言えない。それが父親の癪に障った。

「お前!!情けない自分に何も感じてないのかあああ!!」

 父親の拳が少年の顔に当たる直前、少年はアマリオを思い出した。するとアマリオが現れて、父親の手首を掴んだ。

「来たんだ、アマリオ!!」

「誰だお前!!」

「私はアマリオ、魔術師である。」

 アマリオは父親の手首から手を離すと、父親に言った。

「息子の臆病さがそんなに許せないか?」

「そうだ、勇気が無いのは恥ずかしい事だ!!」

「しかし子供が軍人に立ち向かうのは、大したことだと思うが?」

「うるさい!!勇気があるはずの俺の息子が、妹を救助せずに逃げ出したのが許せないのだ!!」

「じゃあ、お前を試してやろう。」

 すると家の中から、アマリオと父親の姿が消えた。




 


 アマリオと父親がいたのは妹が軍人二人にいじめられている廃墟の前、時間は一週間前である。

「ここはどこだ!」

「ここはあなたの娘がいじめられている時間と場所です。あの中にあなたの娘がいます。」

「何だと・・・。」

「覗いてみてください。」

 アマリオに言われて父親が廃墟の中を覗くと、確かに娘が軍人二人にいじめられていた。しかも娘をいじめている二人を見て絶句した。

「そんな・・・あの二人が・・・。」

「おや?もしかして、知り合いですか?」

「マッド長官とグニ司令官だ・・・。」

「ほう、それで助けに行くのですか?」

「え・・・?」

「言ったでしょ、あなたを試すと?あなたに勇気があるのか見せていただきたい。」

 父親は身震いした。娘を助けたいが相手が上司二人と知った以上、後でどうなるかわからない。そんな父親にアマリオは言った。

「もし助けられなければ、元の場所に戻ってから息子にこれまでの暴力を謝ってください。」

「ぐうぅ・・・。」

 父親は拳を握りしめていたが、意を決して廃墟の中へ駆け込んだ。そしてその勢いで、マッドに体当たりした。

「あ!!お前は!!」

「逃げろ!!」

 父親は驚いている娘に叫んだ。

「早く逃げるんだ!!」

「貴様、長官に対しよくもやってくれたな・・・。」

 マッドとグニが父親を攻撃している隙に、妹は廃墟から脱出した。





 あれから妹は家に駆け込み、母親に経緯を報告。母親は警察に通報して、通報を受けた警察は廃墟へと向かった。マッドとグニは児童虐待と殺人で現行犯逮捕、父親はマッドとグニに撲殺されていた・・・。アマリオが元の時間に戻ると、少年は勇ましくなっていた。妹を救った父親を見習うことを誓ったと少年はアマリオに言った。

「亡くなってしまったのは残念です、でもあなたの勇気は息子さんに届きました。」

 アマリオは亡くなった父親の墓前で言った。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る