第7話 ちーちゃんのお母さん
祈莉とは途中まで電車に乗ったところで別れた。そのまま五駅ほど言った先が俺の最寄り駅になる。
すると、後ろから肩をたたかれた。誰かと思いゆっくりと振り向くと、そこには夢で見たちーちゃんの面影を残した女性。
「ゆきちゃん、元気?」
ち-ちゃんの母親だった。
俺は心臓が止まりそうなくらい驚いてしまった。それは突然肩をたたかれたことではなく、昨日夢で見た人が目の前に現れたと思ったからだ。
母親の方とは会うこともあるし、昔から家に遊びに来ることも多かったので気軽に話していた。
今まで気付かなかったけれど、夢とは言え本人と出会った後に母親を見るとここまで似ていたことに驚いてしまう。
「え、あ、うん……元気です」
「どうしたの、そんなに驚いて」
普段通りなら気さくに話しているのに、なぜか喉から声が出ない。
「あ、ううん、別に、急に驚いちゃって」
笑いながらごまかすように言った。
それでもちーちゃんの母親は何を疑うわけでもなく、話を続けてきた。
「これからこの子とおじいちゃんのところ行くところでね。なんか見覚えある子が電車乗ってるなと思ったら、ゆきちゃんだったから」
ちーちゃんの母親の左手に幼くて可愛らしい女の子がいることに初めて気付いた。
「あれ、その子……」
「あぁ、ちーちゃんの上の子。そっか、会ったのは初めてだっけ」
上の子。この前聞いた、二人目が生まれるという話はどうやら本当らしい。
その子を覗き込むように見ると、恥ずかしそうに母親の後ろに隠れる。
「あ、まだ恥ずかしいのかな」
子供を見ることで、緊張の糸が解けていく。
「まだこの子恥ずかしがり屋でね。親しくなるとなついてくるんだけどね」
ちーちゃんの母親は自分の孫の頭を撫でて言った。
「あの、ち……ちーちゃんは元気ですか?」
他意はない。昔から知っている仲ではある。だからこの質問には何も意味はない。ただ同級生の近況を聞いているだけだ。そうやって心の中の自分に言い訳をしながら言った。
「あぁ、もうすぐ生まれるとこだからね。ちょっとナーバスになってるけど元気よ」
特に何も不思議に思わず質問に答えてくれる。意識しているのは自分だけだと思い少し恥ずかしくなってしまった。
「そうですか。元気ならよかったです」
そう、この子と新しい子、もう幸せに過ごしているんだと思い安心した。
だからこそだろうか、あの時こうしていれば、あの時話していれば、と過去の自分を思い返してしまう。
そこから数分間同じ車両に乗っていたのだが、会話をほとんど覚えていない。
頭の中では昨日の夢のせいか、未練のようなものが絡みついているような気がする。
そんな中身のないような会話に相槌を打つのも疲れた頃、目的地である最寄り駅へと到着した。
「あ、ここで降ります」
そう言って小さくお辞儀をした。
「そっか、じゃあまたお母さんによろしく言っといてね。あと、ちーにもまた会ってやってね」
「え、あ、はい……」
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