終端の王、始まりの物語
NAOTO
第1話
アルドは竜が大海を羽ばたく大地、蛇骨島を訪れていた。
旅の仲間のギルドナとアルテナの兄妹と共に蛇背ガバラキからコニウムに続く獣道を歩いている。
草木の葉を揺らし、皆の頬を撫でてゆく潮風。海と土の匂いを感じながらアルドは沈まぬ夕陽を肩越しに眺めた。
(風が気持ちいいな。)
真っ赤な太陽がアルドの瞳に吸い込まれ、青と赤が淡く混ざりあって濃い紫色へと変化させる。
「何をしている。さっさと行くぞ。」
少し先を歩いていたギルドナが絶望の剣を肩に掛けながら向かってくるのを目の端に捉えると、アルドは視線を向けた。
「って、いつの間に魔物なんか狩ってたんだ。」
ギルドナの少し後ろを見遣れば、アルテナも弓を傍に置き、ナイフを手にし猪の魔物の血抜きをしていた。
妹の見事な手捌きを見つめ、少し幼さの残るその顔はどこか誇らしげにしながら土産だとぼやいた。
「どうせなら旨いものを食いたいだろう?」
「そうだけどさ。」
急ごしらえ過ぎではないか、とアルドは心の中で突っ込まずにはいられなかった。
だが、この島ではこれが当たり前なのだという。
自然と共に生き、その日生きる分だけを恵みから頂いている。
そうやって、この蛇骨島に住まう魔獣たちは生きてきたのだ。
多くは望まぬ生活は窮屈で苦しいものだが、質素で慎ましながらも穏やかで豊かな暮らしをしている。
そんな魔獣の民たちにアルドは親近感を覚えている。
(コニウムはバルオキーに似てるんだよな。)
のどかで、温かくて。美味い空気と水があって。自然豊かで村と言えども活気もあって。
アルドはそんな村を誇りに感じていた。だからこそ自警団の仕事も大変で辛くとも懸命に熟すことが出来ていた。
ギルドナもそんなコニウムを大切な場所だと思っているのだろう。
生まれは違えど、故郷だと認識する程に。
「兄さん、処理が終わったわ。」
「ふっ、上手くなったものだな。これならば祭りに出しても問題ないだろう。」
ギルドナは解体された肉を見ながら満足気に微笑んだ。普段鋭い眼孔は、妹に向けられる時だけ優しい光を灯す。
アルテナも尊敬する兄から褒められたからか嬉しそうにしている。大きな葉に肉を包む手さばきがまたその高揚感を表しているかのようだった。
「それにしても、オレみたいな人間が村の祭りに参加していいのか?よくわからないけど、伝統的なものなんだろ?」
アルテナの作業を手伝いながらアルドは少しばかり喉につかえていた言葉を吐き出した。
旅の途中でヴァレスから連絡があり、急遽コニウムまで戻る事になったが・・・そこでまさかこの兄妹から誘いを受ける事になるとは露ほども思わなかったのだ。
「私たちも初めて参加するからね。今は身を寄せているけど、蛇骨島の出身ではないし。」
「お前が居ようが居ないが、同じことだろう。」
「もう!兄さんなんでそんな言い方しか出来ないの!」
「う・・・む・・・」
アルドの事をふてぶてしく鼻で笑いのけたギルドナだったが、アルテナに叱りを受けると途端にしゅんとしてしまった。
いつの時代も、どこの兄妹も妹には勝てないらしい。
アルドがその光景を微笑ましく思い笑い声を上げると、ギルドナが目の端を尖らせて視線をぶつけてきた。
気にせずに満面の笑みを浮かべながら、歓迎されている事を素直に嬉しく思った。
「せっかくお呼ばれしたんだし、手伝えることがあれば何でも言ってくれ。」
「もちろん!ふふ、楽しみね。」
アルテナが年相応の少女の顔をして、鈴の音のようなころころとした声で笑えばギルドナも穏やかにそれを見守った。
流石に余計な一言は漏らさず、包み終えた肉を全て持ち上げると「行くぞ」と短く発してコニウムへの道のりを歩き出す。
アルドとアルテナは顔を見合わせて吹き出すと、素直ではないギルドナの背を追いかけていった。
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