人質と乱闘
「なんですって⁉︎」
「魔物の襲撃です。それも地下から!」
「地下だと⁉︎」
──地下。さらに地下?
檻の外で慌てふためく司教らを睨みつけ、ロイスは叫ぶ。
「ここから出せ!」
「な! そ、それはならん!」
「そんなこと言っている場合か? 魔物の襲撃を受けているなら、その対策に人手がいるだろうが」
「な、ならん!」
「っ! それなら強引にでも……」
「そうか! 貴様の仕業か⁉︎ これは!」
──はあ?
ロイスは思わず呆れて、檻に、その向こうの司教に詰め寄った。
「違うに決まってるだろうが!」
しかし、タイミングが良すぎるのも事実。ロイスにとって良いか悪いかはわからないが。
「そこのお前!」
「あ、え! あ、私⁉︎」
ロイスに指名されたのは報告に来たまだ若い司祭だ。
慌てふためく彼に、ロイスは端的に問う。
「ここより下、地下に何がある!」
「ち、地下には、魔族どもが……」
「司祭!」
思わず答えた若い司祭を、司教が怒鳴りつける。
しかしそれだけで、ロイスは十分だった。
先程の話の続きだ。酷使され続けた魔族が地下にいる。それも何人も。ロイスが感じていた奇妙なか細い魔力は全ては地下に封じられた魔族たちのもの。そして今、足元から立ち上ってくるこの異様な魔力は全て、魔物のもの。そこから導かれるのは……。
「罪人に情報を与えてどうするのです!」
「し、しかし、地下の魔族どもが謀反を起こした可能性が……」
「だからなんだと言うのです!」
地下にいた魔族たちが、境界を開いたのだ。
──何を呑気な!
ロイスは怒鳴りつけたい気持ちをおさえつけて、座り込んでいるカレンを強引に立たせた。
このおぞましいほどの魔力。魔界との境界がまさにこの足元、地下に開いて、そこから魔物が大量に地下に、そして地上に、この街に溢れようとしている。
こんなのところに閉じ込められたまま、魔物の大群と戦う趣味は、生憎となかった。
同じようなことを思っていたのだろうか。司教の後ろに突っ立って、ロイスと同じように足元から上がってくる魔力に戦々恐々としていた魔術師も、青ざめた様子でいる。
すぐにでも逃げ出さなければならない。という顔だ。
その時だった。
力なく腕を引かれて立ち上がったカレンが、檻にむかって駆け出した。拍子に帽子が脱げる。
「──馬鹿っ!」
「なんてひどいことをするの⁉︎ 境界をひらくことがどれだけ危険か、魔族だってわかっているのよ! それなのに、それなのに、そうするしかないほど、追い詰めたというの⁉︎」
悲痛な叫びに一瞬司教は
「魔族! そうか貴様の差し金か!」
「違うわ! あなたたち人間が、魔族に酷いことするから!」
カレンが叫ぶのと、檻の鍵が開けられるのは同時だった。
そして、魔術師が檻の中にはいりこんで、ロイスを押さえつけるのと、司教がカレンの腕を掴むのもまた、同時に起きた。
「ぐっ!」
両手を繋がれたままで身動きの取れないまま、おもいっきり床に叩きつけられ、ロイスは苦悶の声を漏らす。
「いや! 離して!」
カレンが悲鳴をあげる。強引に檻の外に連れ出されようとするカレンが、ロイスに手を伸ばした。
反射的に、繋がれたままの両手をカレンの方に伸ばす。しかし、それは魔術師に踏みつけられて叶わなかった。
「仕返しだ!」
こんな状況だ。当然青ざめながらも、魔術師が愉悦に歪んだ表情で言った。
──こいつ! 頭おかしくなったのか⁉︎
そうこうしている間も、カレンは檻の外に連れ出されようとしている。本来なら、檻の外に出ることは喜ばしいことだ。しかし。
「地下へ来い! お前が境界を閉じるのだ!」
などと、外聞もへったくれもない怒鳴り方をする司教に強引に連れ出されるとなれば、カレンも全力で抵抗していた。
こんなことをしている間にも境界からは魔物が溢れえてきているのだろう。魔力がどんどん増えていくのがわかる。
今は争っている場合ではないと、ロイスに訴えかけるように。
──魔術を使って、司教と魔術師を吹き飛ばす。
一瞬そんな思考が過ったが、次の瞬間には動きを読んでいたように、司教が徐にナイフを懐から取り出し、カレンの首元に当てた。
流石にカレンの抵抗も止まる。
「よし、そのままついてこい。魔術師ロイス! 魔術を使えばこの魔族は殺すぞ」
などと言われれば、うまく動くこともできやしない。
──くそっ。
ロイスの背中に膝を乗せた魔術師が、ロイスに全力で体重をかけてくる。肺がおしつぶされるのがわかって、ロイスは「うっ」っとうめいた。
「やめて! ロイスに酷いことしないで!」
もはや混乱状態だった。その中で、カレンが叫ぶ。
その声にまるで促されるように、魔術師はさらにロイスの首を後ろから掴んでしめあげようとする。
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