襲撃と煙幕
「ききたいことができたら聞くわ」
「あのなぁ……」
カレンの返答はロイスの望むようなものではない。
ロイスは頭を抱えた。そんなについてきたいのか。
「……離れたら、例の呪文はいつまでもつの? 私の存在を隠してくれるのはロイスだけなんだよ。それに……」
「それに……なんだよ」
「…………」
沈黙は
「いい加減言え。俺から離れないのは、
カレンは無言を通そうとする。
口をきゅっと結んで一言も発するつもりはないと強く態度にだす。
敵意を索敵魔術が捉え、首筋に嫌な悪寒を感じると共に、あの不快な魔力が、全身をとらえた
「ああ……やっと仕掛けてきたか」
ロイスはついと空を見上げた。カレンもロイスの視線を追う。
直後、上空に向けて結界が張られた。半透明な正方形の結界。これもまた『
見る見る間に巨大な天井へと姿を変えたそれが、完全な状態に展開したと同時に、二人の頭上になにか見えないものが落ちてきた。否、叩き落された。
ズドンッっという音が轟く。
それは圧のような目に見えない面の攻撃だった。
衝撃とでも言えばいいのだろうか、ロイスとカレンを上から押しつぶそうとする。
しかしその間にはロイスが貼った半透明の結界があった。
視界をはずかに乳白色に変える結界。その向こうにチラリと人影が映る。
性別は不明。だが、全身黒の装いは。
「魔術師か」
ロイスの呟きとほぼ同時に、さらに強い圧力が結界を押しつた。
バチバチと、何かと結界がぶつかり反発する音が鳴ち響き。魔力がぶつかり合うことで起きる特殊な光を発生させ、周囲を金色に照らした。その光は美しくすらあって、カレンが「わぁ」と声を上げる。瞬きすら忘れたように空を光を見つめていた。
一方ロイスは冷めた目でぶつかりあう魔術の様子を眺めていた。
光の有り様で上空にいた魔術師の影は見えなくなってしまった。しかし上空に浮遊していた様子から、そうした魔術の系統を使う魔術師であることはまちがいない。
──浮遊魔術なんてものは【青の書】にはない。となれば、空間に足場を作っているなら俺と同じ結界魔術の使い手……あるいは、風か。
ロイスは相手の正体を探りながらにやりとわらった。
どちらにしても楽しめそうな相手である。それほどの威力はこの攻撃にはあった。
とはいえ、異様な音を立ててロイスの結界を削っているようで、実際のところ結界には傷一つ付けることはできない。
結局結界の下に守られているロイスとカレンにはなんの損害も与えることはできなかった。
突然、ぶわりと風が下から巻き上がってくる。
上空でのせめぎ合いの
そうなってようやく、ロイスは眉間に皺を寄せた。
この謎の衝撃は、攻撃のためのものではなく。
──
ロイスは
頭二つ分以上離れた身長差の二人。ぴたりとくっついたその状態に、カレンが困惑の声を上げる。
「え? な、なに?」
「おとなしくしてろ」
言って、即座に周囲を囲う結界をはる。『
カレンもその中に一緒に閉じ込める。
同時に濃厚な魔力の気配を前方に感じた。
──今度は前方?
上空にいる敵と同じ魔力が前から。と思った時には、さらに左右からも魔力の反応があった。なるほどとロイスは頷く。
どうやら、視界を遮っている間に攻撃をいくつも重ね、畳み掛けてこちらの動きをとめる。いや、ロイスとカレンを行動不能にするつもりらしい。そしてそういった多方面からの攻撃が可能な魔術を用いる敵らしいと判断する。
あちこちから魔力気配がロイスに向かう。それが迫ってくるにつれて、ロイスは洪水に飲み込まれるような錯覚を覚えた。それほどに膨大な魔力。
実際に襲いかかってくる様は見えなくとも、魔術であることは明確。
何かがガリッと地面を
ロイスの口元が再び歪む。
──どれほどの威力か、受けてやろう。
好戦的に
目に見える土煙の渦巻く様子と、目には映らない魔力の濃厚な気配で敵の攻撃の──見えない何かの動きをこまかく感じ取ったロイスは、カレンと自分とを包む結界の外側にさらに二枚。つまり三重に結界はった。
「外側の一枚くらいは破ってみろよ」
「な、何言ってんの⁉︎」
ロイスがつぶやき、カレンが驚愕をあらわにしてロイスを見上げる。
敵の魔術が結界に衝突した。
結界が振動する。何かがぶつかった衝撃で一番外の結界がわずかにたわむ。しかしそれでも傷一つつきはしない。さらにたたみかけるように数発くるが、それもやはり傷をつけることはできない。
至近距離の攻撃に、カレンが悲鳴をあげる。
「大丈夫だ」
見えない刃を何度も受け止めた結界だが、こんなものではびくともしなかった。
──なんだ……たいした威力じゃないな。
むしろ拍子抜けしたロイスだったが、まだ警戒を
何度も襲いくる刃が次々と土煙を起こし、さらに周囲の様子を見えなくしていく。どこに敵がいるのかを視認できなくさせる目的ならば、すでに果たしていると言える。
この間に上空から移動した可能性があるが、周囲に魔力が充満していて本人の居場所がわからず、ロイスは舌打ちをした。
「小細工を」
「こうでもしないとあんたには勝てないからな」
上空から、男の声が聞こえた。
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