詐欺と商人
言われて、初めて注意深く前方に視線を向ける。じっと目を細めてみれば、たしかに遠くに何かの影があった。
ロイスには
そんなことを思いながら、このまま行けばすれ違うだろう人に、「ここはどこですか?」と
少し前に、
流行ったというか、それにひっかかる奴がいたというか。
その流れはこうだ。まず「記憶がない。ここはどこか」と尋ねられる。場所を教えてもまったく
これに
つまり最近商人は「ここはどこですか詐欺」に対する警戒心が強い。
馬鹿みたいだが。
──いきなりそう話しかければ警戒されるだろうな。
そんなふうに思ったロイスだった。
近づいて見れば、一頭の馬が小型の
一人旅の商人だろうか。
互いの年齢がなんとなくわかるだろう距離にきた頃、ようやく年老いた商人はこちらの存在に気づいたように顔をあげ、「あっ」と声をあげた。
普通なら
「失礼。商人とお
とロイスは足を止めて話しかけた。
「…………」
商人はすこし
詐欺が
「次の街にたどり着く前に食料が尽きてしまいそうなんだ。なにか扱っていたら売って欲しい」
相手の反応を待っていると、やはりどこか
──はて、以前にあって
そんな経験を何度かしたことがあるので、そんなことありえないとは
──これは情報をもらえないかもしれないな。
そう思った矢先、ひょっこりとロイスの後ろからカレンが顔を出した。
商人がギョッとした様子でカレンを下から上、上から下と
カレンも特に気にした様子はなかった。
カレンは商人をじっと見つめると、にっこりとわらってロイスの袖を引いた。
「食べ物がないんじゃ、このままじゃ
──こいつ……いや、なるほど。俺一人より、カレンがいた方が相手も警戒を薄めるかもな。
「こう相方も言ってるものでな。やれやれ、困ったお嬢さんだ」
「あら、失礼しちゃう。お腹すいて倒れても助けてあーげない」
そんなカレンの
──わかっててやってるのか? 策士だな。
思わずカレンの顔を見てしまった。しかしそれ
それから困ったように
「悪いね。衣服を扱っていて、食料は自分の分しかないんだ。分けられないよ」
「そうか……それは仕方ないな」
と残念そうに答えてみる。
こう言いつつも、ロイスはこの商人が食料を扱っていてもいなくても、どちらもでよかった。目的は別にあるからだ。
うんうん。と頷いて。ロイスはキョロキョロと周囲を見渡すそぶりをする。
「それなら──実はこの辺りは初めてで……一番近い街までどのくらいかかるだろうか」
商人は再び顔を
やっと本題に入った
ロイスは苦手な上に下手くそな笑顔を浮かべた。
「距離だけ教えてくれればいい。遠いのなら、
あきらかに自分は詐欺目的ではないと
「エヴンズベルトなら、徒歩だと二、三時間ってとこだと思うがね」
──エヴンズベルト……そんなところだったか……。
予想外の地名に、ロイスは驚いて目を丸くした。
一番行きたくない街と言ってもいい。
「それどんな街なの?」
「え?」
商人が驚いた様子でカレンを
何を馬鹿なことを言っているのかと思われても仕方ない。
ロイスは
下手な言い訳はしないほうがいいだろう。
「そうか。ありがとう」
ロイスは商人に手短に告げると、あとは何も言わずにその横を通りすぎた。しかし。
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