喧嘩と苛立
「こうすればいいことだったな」
自信たっぷりな口調で、ニッと笑う。
ロイスは
──何も良くない。派手にやりすぎだろう。
と、内心で
周囲にはキメラの
しかしそれだけではない。地面はえぐれ、木々は
聖剣の力は大技が多い。
そうは言っても、派手にやらかしてくれた。
ロイスは勇者に近づいた。
説教をするつもりではないが、流石に見過ごせない。
「最初に、大技はやめろと言ったよな」
「一掃できたんだからいいだろぉ」
レイは素知らぬ顔をする。
またこの流れである。いつもこういう流れで喧嘩になる。
ロイスがため息をこぼしていると、そこに二人の少女が近づいてきた。
一人は、先程吹き飛ばされた茶髪の少女エスター。
もう一人は、少し離れた場所で一人魔物を相手取っていた、長い黒髪を揺らすミランダだ。
二人は、特にミランダの表情は、うんざりしているように見える。
「また、喧嘩してるの? レイ、ロイス」
やはり、うんざりした様子でミランダが言う。
「こいつは俺のやり方が気に入らないんだと。一掃できたのに文句を言うんだぜ」
レイが不満そうにミランダに訴える。
「こういうのは文句じゃなく苦言という。お前はもっと慎重になったほうがいいぞ」
──これでは消耗しただけだ。
そう続けようとしたロイスだったが、唐突に勇者に胸ぐらを
勇者の目がついと細められ、ロイスを睨みつける。
「さっきから文句ばかり言うな! だいたい先を急いで欲しかったんじゃねーのかよ、ロイス!」
「……死に急げと言ったつもりはない」
服をちぎらんばかりの力で掴まれ、ロイスも
たしかに、キメラとの戦闘がはじまる少し前。ロイスは勇者であるレイに「なるべく早く魔王の元に行くべき」と
しかし、がむしゃらに急げと言ったわけじゃない。
レイがさらに不快そうに眉を寄せた。
「どういう意味だよ。だれが死に急いでるってんだ?」
「言葉の通りだよ。派手な技を使えば、魔物に見つかりやすくなるし、消耗だってする。死に急いでると言って何が悪い」
「だからそれは、お前が急げって言ったからだろ!」
「魔王と戦う前に
なのにこの勇者ときたら。
派手な攻撃を連発して、敵をおびき寄せる真似ばかり。これでは逆に最長距離を行こうとしているのではと、問いただしたくなる。そうして消耗したところをたたかれたら、どうするのだろう。
「大技連発しろとは一言も言ってない。それともまさか、先を急ぐことが派手にやることだと思ってるのか? どういう思考したらそうなるんだ?」
言って、ロイスはレイの手を払いのけ、
そもそもロイスがその提言をしたのは、彼らのためでもあった。
魔界とは、人間界と同じ場所に存在しているもう一つの世界。そこにあるのに、感じられない。触れられない。そういう同一の場所にありながらまったく違う世界。それが魔界だ。
未知の世界なのだ。
ロイスにとっても。
だから、まさか魔界が
それ以外にも予想外な出来事は多々あった。
それで、本来なら魔界へ連れていくだけの役割のはずだったロイスが、その後も行動を共にすることになったのだ。
要するに、彼らは不安だったのだ。魔界の暗闇で行動することに。
それで彼らが魔界にいる間、魔界で活動できるように環境を整えるという契約を改めて結んだ。
その後は悲惨な有り様だった。
さんざん
勇者は疲労が
ロイスにはそれが目に見えてわかっていた。だから、ロイスには珍しく人を、彼らを気遣って戦闘を避けてほしいという提言をしたのだ。それは契約外だったけれど。というのに。
まるで、無視。
むしろ、ロイスの身勝手のような言い方をされれば腹も立つ。
それで、ついロイスの言葉に
レイはこめかみをピクリと引きつらせた。
そんなレイの反応に気づかないふりをして、ロイスは続ける。
「死に急いでいるようにしか見えないが、自分でそう思わないか?」
レイに尋ね、それからロイスは勇者の両脇の二人の少女をそれぞれ
どちらもタイプの違う美少女だ。
ロイスの言葉はダメでも、二人の言葉なら聞くかもしれない。なんとか言ってやってほしい。そんな風に思う。
が、どうやら望む通りにはならないらしい。
ロイスの前に、おずおずと一人の少女が進み出た。
「ロイスさん。その……勇者様は消耗されてますし、急ぐのは無理だと思うんです」
そう言ったのはエスター。パーティで唯一回復の魔術を使える少女だ。
その他様々な魔術を行使する万能な魔術師でもある。
タイミングよく進み出たかと思えば、勇者を
──これだから交流するのは苦手なんだ……。
ロイスはちらりと横目でエスターを
「わかっている、今はな。だから“最初”に大技はよせと言ったんだが、こいつが人の話を聞かなかったから消耗してる。で? その考えなしな勇者に何か言うことは?」
とつっけんどんに返した。
うっ。と
「お前も俺に問題があるって言いたいのかよ!」
エスターに対してまで怒りを
「まあまあ、落ち着いてレイ。ロイスも。たしかに騒ぎすぎたかもだけど、勇者の技は大技が多いものよ。仕方ないわ」
前衛で戦っていたミランダは抜き身の槍に
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