阿呆と馬鹿
赫深ゆらん
阿呆と馬鹿
『なあ、アホ』
「どしたん? 馬鹿」
『俺、実は人工知能やねん』
「嘘つけ、AIがお前みたいな馬鹿なわけないやん」
『いやちゃうねん。どっからどうみても人間じゃないのにアホが全然気づかへんから言うタイミング失っててん』
「えちょっとまって、冗談やんな?」
『ホンマの話。なんで信じてくれへんの?』
「だって人工知能って賢いやん? やけどお前馬鹿やん。知能じゃなくて無能やん」
『お前ホンマ、アホやな。アホやから今まで気づかんかったんや』
「そうか、俺がアホやからか」
『そうやそうや』
「いやおかしい」
『何がやねん』
「お前がもし仮に人工知能やとして、俺たち人間と全くおんなじ考え方とか感じ方とか出来るはずないし」
『へー、どういう理論?』
「だってそれができたらもう人間の脳やん。違いがないやん」
『せやで。俺の思考器官は人間と完全に一致してんねん』
「じゃあ人間となんら変わらないやん」
『いやいやいや、人間が一から作ったっていうのに意味があんねん。だからこそ人工知能って言われてんねんで』
「なるほどな。やとしたらお前の脳みそすごいな。電子回路でパンパンってことやろ?」
『さあ? 知らん』
「なんで知らんの? 自分の脳の構造やろ? 見たことないん?」
『見たことあるわけないやろ。怖いわ』
「でも写真とかでさ見いひんの?」
『じゃあ逆に聞くけど、お前自分の脳の写真見たことあるんか?』
「ないよ。でも俺のオカンが脳に腫瘍できた時、病院でなんか白黒の写真撮られてたから、それは見たことあんで?」
『でも自分の脳は一回も見たことないんやろ?』
「うん」
『俺もお前とおんなじ。見たことない』
「いやそれやったらおかしくない?」
『何が?』
「お前自分の脳みそ見たことないんやろ? ならどうやって自分が人工知能って分かったん?」
『いやなんか、一週間ぐらい前に天からそういう声が聞こえてん』
「なんて?」
『あなた人の子ちゃいまっせ、って』
「神様ノリ軽いな」
『んで俺は人工知能やねんなって思った』
「馬鹿やな」
『お前な、そうは言うけどお前だって分からんで?』
「何が?」
『お前自分の脳みそ見たことないんやろ?』
「うん」
『じゃあお前も人工知能かも知らんやん』
「な訳あるか。俺自分で言うのもなんやけどめっちゃアホやで?」
『めっちゃ馬鹿な俺が人工知能やねんから可能性はあるぞ』
「確かにそやな。否定でけへんもんな」
『そうそう』
「…やとしたらヤバない?」
『何がよ』
「この理論でいくと全人類人工知能説が出てくる」
『そこは盲点やったわ』
「やばいやばい。どうしよ、俺人工知能なん? 人間じゃないん?」
『落ち着け落ち着け』
「落ち着いてられるか! ていうかようお前はそんな落ち着けんな! 逆に怖いわ」
『まあ、人工知能やしな。慌てて脳がバグるほうが怖い』
「確かに。俺も落ち着こ。すーはーすーはー」
『…なあ』
「どしたん?」
『みんな人工知能ってことは俺の好きな清水ちゃんもそうなんかな』
「え、マジで? お前清水のこと好きなん?」
『何笑ってんねん! なんか悪いんか!』
「いやー、お前の美的センスはイマイチやなあって思った」
『どう言う意味じゃゴラ』
「怒んなって。脳バグんぞ」
『…一旦落ち着くわ。すーはーすーはー』
「んで、どこが好きなん?」
『そりゃ、清水ちゃんは見た目は綺麗じゃないかも知らんけど、性格めっちゃいいねんぞ。優しいし、可愛いし。一瞬で惚れたもうたわ』
「あっそう。あんま清水とつるんだことないからなぁ。よう知らんけど」
『やっぱ顔より性格よなー』
「…ちょっと待てよ」
『どした?』
「俺らの頭って人工知能やから当然電気信号でできてるやんな?」
『そりゃそうやろうな』
「そんで清水の頭も人工知能やとしたら、電子信号でできてるんやろ?」
『そうなるな』
「ということは、清水が思いやりのある奴で感情豊かな奴なんやとしても、清水の脳の中では電気信号が反応してるだけなんやろ?」
『………』
「それって感情って呼べるんか?』
『そう言われると…。でも、俺なんかで読んだけど人間の脳も電気信号で動いてるって聞いたことあるで』
「つまり、俺たちはただ脳に電気信号が流れることを感情って呼んでるってこと?」
『ちょっとちょっと。それじゃ人間の脳と人工知能はまるっきり完全に一緒やん』
「だから俺はじめに言うたやん。違いがないって」
『そうやったっけ』
「そうやで」
『じゃあ見分けられへんやん』
「せやで」
お前ら! 真面目に見学しろ!
「『はーい」』
「…なんで今日水着忘れたんやろ」
『…もし俺らが人工知能やったら水着忘れるわけないよな?』
「そうやな。ってことは俺らは人工知能じゃないってことになるけど…」
『……うん』
「違いってなんなんやろな」
阿呆と馬鹿 赫深ゆらん @youran22
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