第27話 新しい婚約者
ルークスは父親と会話をしていた。
「ルークスよ、アトカーシャ家の紋章を使うなとは言わんが、特許登録するなら連絡をしろ。リバーシを初めて見た時は何事かと思ったぞ」
そう言えば父親に連絡をするのを忘れていたな。
「申し訳ありません。二度の防衛戦で手一杯で連絡する余裕がありませんでした」
「むっ」
どうやら、特許が本題ではないらしくそれ以上の追及はされなかった。まぁ防衛戦とはいえ戦争しながら特許登録している時点で言い訳としては破綻している気もするけど……。
「新しい婚約者?」
ルークスは疑問の声をあげた。
「そうだ」
おかしい。学園では私は悪評でいっぱいだ。国内で簡単に私のところに来る人間などいないと思っていたが。ローラント地方の人間ならわからないがだったら父親ではなく自分に直接連絡が来るだろうし、二度の防衛戦でほとんどの家庭が復旧最優先で婚約者探しなど後回しだろう。
「そうだ。国内の人間じゃない」
はい?
「おい、入って来ていいぞ」
入って来たのは銀髪でセミロングの少女だった。一見して文学少女というかおとなしいタイプのように見える。少なくとも容姿からはそう見える。ただ表情からは不安と決意が感じられる。……?私の評判を聞いていれば不安なのはわかる。しかし、覚悟を決めたような表情はいったい?もちろん婚約者の形でここに来たからには決意を持って来ていてもおかしくはない、おかしくはないが……なぜか婚約と違うところで決心をしているように見える。悲愴な決心の目だ。………学園に出回る私の評判を聞いていての表情?……だとすれば不安か、恐怖の表情だと思うが。
「ヴェズーバ国の第三王女シルヴィアと申します」
「……」
「……あ、あの」
「…ああ、すまない。色々と予想外なことが起こってぼうっとしていた」
というか色々とおかしいぞ?何で小国とはいえ一国の王女が私の婚約者になるんだ?……普通は打診が先ではないのか?見る限り侍女が1人いるだけだ。もしかしたら見えないところで待機しているだけかもしれないが、普通なら護衛を兼ねて複数人いるはず。
「……シルヴィア王女」
「は、はい、なんでしょう?」
「あなた、何か決心して……ううん違うな。覚悟を決めてここに来ましたね?」
「ルークスよ、婚約者になる決心ではないのか?」
父親に質問されたが。
「……いえ、そういう決心ではなく。シルヴィア王女…あなた私の婚約者になるのを失敗というか断られたら自殺するつもりではありませんか?」
「…な、なぜ?」
シルヴィア王女はあきらか狽の表情を浮かべた。
「なぜって?……いやぁ上手くは説明できませんが勘のようなものですよ」
シルヴィア王女は今度は驚愕の表情を浮かべた。
「その表情を見る限り当たりですか……自国で何か探るように命令されてここへ来た感じか」
さて、となれば現状では突き放すのは得策ではないな。初対面の人間とはいえ特に嫌いでもない人間を自殺に追い込むのは寝覚めが悪い。とりあえず婚約は受け入れる方針で動いて……ん?
「私どうしたら……」
「何か思い詰めた表情をしているけど、拒否するつもりはありませんよシルヴィア王女」
「え?」
「侍女が1人いるだけで実質単身で来るだけの度量がある人間を逃がしたくはないのですよ。まぁシルヴィア王女の方が私の相手は嫌だというのであれば仕方ありませんが……」
「そんなことは」
言いながら、婚約の打診に来た人物が自分から拒否するのは変な話だなと思った。
「とりあえずローラント地方の領主の館なら部屋が空いてるからそこで過ごしてもらいましょう」
「えっと、ふつつかものですがよろしくお願いいたします」
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