第21話 パンとケーキの違い

 さてオルファネスで養鶏場とレストランを買収できたのはよかった。養鶏場なので『鶏の唐揚げ』と『オムレツ』を作ったが、まさかそれしか作れませんでは利益が出るかわからん。レストランなんだから普通のパンぐらいは出すべきだろう。



 そしてパンには種類があり、小麦から作られる白いパンは王族や貴族のみが食べられる高級品だった。ちなみに無発酵だった。


 まあ、ナンとかに近い感じだ。


 当然現代日本のパンとは比べるべくもないが。まぁ現代日本のパンは海外のパンに比べて柔らかいけどな。




「料理長、少し厨房をお借りします」


「は、はい!」


 まず作るのはパンだ。


 しかし普通のパンではなく、大豆を潰してその粉から作る大豆パンである。


 痩せた土地でも育つが、どういうわけか、こっちの世界では食用ではなく家畜の餌としての運用が主であった。


 どうも、人間の食べ物として認識されていなかったらしい。


 それはあまりにもったいないだろうと思ったので独自に屋敷の裏で大豆を栽培して、パンを作った。


 まあ、パンっていうかどっちかというとケーキに近いんだけどな。


 何でケーキかっていうと、現代風の柔らかいパンて作るのめっちゃ手間だからだ。そもそも発酵や菌の知識は自分には不足している。菌は扱いを間違えると食中毒の元だし危険は避けたい。


 その点ケーキなら、まだ楽に出来る。


 今から作るのもそれだ。



 次に卵。卵黄と卵白にわけ、卵黄はすり潰した大豆粉、水と混ぜる。


 少し甘めにしてやるかって事ではちみつを追加した。


 ただし量は少しだけにしようか。あんまり入れると完全にデザートになってしまうし、甘味料は高価だからな。


 卵白はメレンゲにして、先程の大豆粉に少しずつ投入してまた混ぜる。


 基本的にまず食べる事優先だから、味や食べやすさなんてものはあまり追求していない。まぁ戦争中では仕方ないだろうが。


 とにかく冬を越す為に保存する事を第一に考える。


 だから干し肉や塩漬けなどが大半を占めているわけだ。


 食べられない事はないが、それでも褒められた味じゃないっていうのがほとんどだ。


 牛に至っては完全にチーズやバターを作る為の存在で食用としての価値を見出されていない。


 その理由は切り方がかなり雑なせいだ。


 この世界にも一応血抜きという概念くらいはあるんだが、食用に育てられたわけでもない牛を雑に切って美味くなるわけもなく、牛の肉は硬くて臭くて不味いというのが共通認識である。


 それでも牛が死ねば仕方なく食べるが、その時の調理法というのも匂いの強い薬草なんかと一緒に煮込んで臭さを誤魔化すとかそんな食べ方ばかりされている。


 基本的に雑なんだ、この世界の人。


 まず肉の切り方だが、適当に切るんじゃなくて部位ごとにちゃんと切り分ける。


 薄い膜のような筋や余分な脂を削ぎ落し、肉の線維にも逆らわないようにな。




 次にフライパンにオリーブオイルを入れ、煙が出始めた所で肉を投入。


 片面に塩をふりかけ、両面しっかり焼いてから三十秒ほど余熱で火を通す。


 ……本当は胡椒も欲しいがこの近辺だと胡椒はかなり高いのでそこは妥協した。


 三十秒経てば弱火で再び焼き、また余熱で三十秒。


 これを何度か繰り返し、最後にバターを投入して風味付け。


 焼き終わった肉は繊維に対して直角にカット。これが家庭で出来る美味しいステーキの焼き方だとか、前に何かのテレビで見た。


 最後にケーキが焼き上がった。


 本当は更にこの上にホイップクリームなどを乗せて完成なのだが、今回はやらない。


 だってこれ、一応ケーキじゃなくて今回は主食って扱いにしてるからな。


 素直にパンを作ってもよかったんだが……さっきも言ったけどパンは、面倒なんで。


 現代みたいに簡単に材料が揃うわけじゃないし、ホームベーカリーがあるわけじゃないし。


 手ごねで生地をこねるのは滅茶苦茶手間だし。


 だったら甘味を抑えたケーキでいいだろうと思ったわけで。


 昔の人は言いました。パンを作るのが面倒ならケーキを作ればいいじゃない!


 まあ基本的に自分は面倒くさがりなんでね。いやまぁ、これから毎日パンを焼くのは厨房の皆さんであって私ではないけどな。


 なので、これをパンと言い張って、ルビン会長達に喰わせてやった。


 このせいでこの世界のパンとケーキの境目が消滅するかもしれないが、知った事か。


 最初に普通のパンって考えていた気もするが、知った事か。

 

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