第2話 ルビン商会

 さて、何から手をつけよう?とりあえずさっき考えたように金目のものを売り払ってしまうか。


「ルビン商会に引き取ってもらうか。相場を調べて高いところに持って行くのは時間が惜しい。ルビン商会なら前々から付き合いがあるからぼったくられることはあるまい」


 早ければ早いほど余裕ができるのは間違いない。相場を調べるのに時間がかかって戦争が不利になるのは優先順位の問題としておかしいからな。


「ルビン会長はいるか?」


 ルビン商会を訪ねた。所持品を売り払うだけなら店員さんに預けて後日お金を受け取ればいいだけだが一応相談があるので会長がいるか聞いた。


「おや?ルークス様ではないですか。何かお探しで?」


 恰幅のいい四十代くらいの男性が奥から出てきた。自分の体型も似たり寄ったりだが。


「良かった、いた。ベン・ルビン会長。今回は買取りなんだ」


「ルークス様が?珍しいですな」


「さすがに昨日の今日だから聞いてないか。学園を追放になってローラント地方に行くことになったのでな」


「何ですと!?」


「というわけで相談に来たんだ」


「戦争に参加すると?」


「……まだ他には言うなよ。まぁ秘密にしといて自分だけが変化に対応した方が利益になるだろうから、言わなくても秘密にするだろうけど。後、質問の回答としては指揮官に任命されたよ」


「……ルークス様が指揮官に?」


「まぁ疑問に思うよな。おそらくだけど勝利は期待されてないな。何か失敗するのを待って、適当な口実を設けて処刑か国外追放でもするつもりなんだろう」


「……確かに学園を追放されたばかりで、16才になったばかりのルークス様を指揮官に任命するのは不自然ですが……」


「……今、思いついたが、これで私が失敗した後に、後任が成功すれば……」


「……後任者は素晴らしい人物と評判になりますな……」


 しかし、そんな評判を得たところで利益は出ないはず。戦争の失敗を後で挽回するのは困難だ。その困難を請け負いながら、得られるものが評判や尊敬と言った抽象的なもの?さすがに割りに合わないんじゃないか?


「ルークス様」


「なんだ」


「一人います。その評判が利益になる人物が」


「……え?」


「……王位継承権第二位の第二王子のエリック様です」


「あ、そうか。第二王子のエリック様がこの戦争で活躍できれば跡継ぎを第二王子にする可能性も出てくるのか」


「……少なくとも重要な役職には就けるでしょうな」


「……これ以上はここで考えても結論が出ないな……現状では予測というか推理であって事実は不明だからな」


「そうですな。ところで相談とは具体的に何を?」


「そうだった。贅沢品を売り払うのはいいとして、ローラント地方に食糧や武器防具を出荷して欲しい」


「ああ、指揮官になるのなら必要ですな。さっきの分析を考えると国の補給は期待薄でしょうから」


「まぁ、あからさまに食糧補給を止めたりはしないだろうけど。激戦区にもなろうものならそれを理由に補給を遅らせる可能性はある」


 軍の指揮官になるのなら食糧、武器防具の補給は絶対条件だ。


「国の補給が遅れるなら当然戦場では食糧は値上がりしますな。今のうちに王都周辺だけでも食糧……特に保存の効くものを買い占めましょう」


「利益を出すために買うのだから相場より高いやつまで買う必要はないぞ」


「承知しております。保存が効き、手に入れやすいとなると大抵小麦粉になります」


「まぁ食糧に関しては任せる。武器の件だがクロスボウと長弓ロングボウとそれに使う矢をできる限り集めて欲しい」


「剣や槍ではなく?」


「剣と槍は他の商会でも勝手に持ってくるだろ。別に剣と槍を持ってきてもいいが、他の商会と競合するから多分だけど大した利益にならないと思うぞ」


「なるほど。剣や槍は余裕があったらにしましょう」


「後、スコップと桑や鋤も頼む」


「……必要なので?」


「……多分だが長期戦になると思う。それに軍事衝突でも使うつもりだ。自給自足も視野に入れている」


 商会としては用途はどうあれ売上になるなら問題ないはずだ。


「商会としては利益になるなら売りますが……」


「ゴルゴダルラ軍の主力は騎兵だったよな?」


「はい。ゴルゴダルラ軍の騎兵による突撃は各地で評判になっております」


 騎兵相手に有効な戦術を考え始めるルークスであった。

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