学園を追放されたけど総司令官になりました?

柊谷

第1話 任命



「何故だ、何故……今このタイミングなんだ……」




 その時、私は追い詰められていた。




 空虚な廊下の真ん中で、虚な目のまま誰に向かって言うでもなく、一人そんなセリフを吐いてしまうぐらいに。




 ああ、つい昨日までは、この世界の全てが輝いて見えたというのになぁ……。




 はぁ、本当に一体、何故こんなことに……。




 これは失礼、お見苦しいところをお見せ致しました。




 皆様、初めまして。




 私はルークス・アトカーシャと申します。




 取り敢えず冷静になる為に自室に戻ろうと考えて、今に至るのです。




 はぁ、本当、なんて馬鹿なことをしてくれたんだ、昨日までの自分……。



「何も学園追放のタイミングで前世の記憶が戻らなくても……もう少し早ければまだいくらか選択肢があったものを……」




「婚約者のラファ嬢を虐めていることが発覚して学園追放か………それと今後ラファ嬢に近づかないことが今回の判決というか罰則だったな」



 ラファ嬢に近づかないのはいい。私の意識ではなかったとはいえ、今後再会したところでお互い気まずい思いをするだけだろう。学園で実家の威光をかさにきて威張り散らしていたから学園も追放になったし。



 さて、とりあえずこれで学園に通うことはなくなった。となるとこれからどうする?どうすると言ったけど指示に従う以外の選択肢はないからどうなる?と言うべきか………。



「私の学園での悪評を考えると、王都特に学園近郊での就職は絶望的だろう……かといって16才になったばかりの私に父親が領土を継がせるとも思えない……」



 となると、紛争地域に左遷されるか?この場合左遷とは言わないか。



「今現在この国トリスタニア王国は隣国のゴルゴダルラ王国と戦争中だ。……もしかしたら最前線に送り出されるかもしれない。……というかその可能性が最も高いな。……よし、ならそれに向けて準備しよう」



 一応貴族のはしくれだからある程度財産を持っている。しかし、あくまでも生存してなければ使えない。特にかさ張る飾りものは売り払ってしまおう。芸術に興味や関心が無いと言えばさすがに嘘になるが現状では後回しだ。




「現状の目標はこの戦争が終わるまで生き残ることだな。例え今回最前線送りにならなかったとしても、私の考えが正しいなら現在では国力は我々の方が劣っているはず」



 学生でなくなった今、無関係ではいられない。……別に学生でも無関係ではないか。……ただ徴兵されないだけで。国力で負けている以上自分が生まれ育った領土まで攻撃される可能性はある。戦争と言ってもこの世界の戦争は剣や弓、槍が中心だ。重火器は存在しない。少なくとも確認できるところでは存在しなかった。



「うーむ、そう考えると今の肥満気味の体格はなんとかした方がいいな。体格というより体型という方が正確かな?」


 自室にこもり、考える。戦時中に限らず平時でも肥満は解消した方がいいだろうけど。


「ルークス様?旦那様がお呼びです」


 メイドのレザレスが呼びに来た。


「わかった。すぐ行く」


「書斎でお待ちです」


「書斎だな」


 レザレスが不思議な表情をしている……。ああ、そうかこの場合は大抵癇癪を起こして逆らっていたな。素直にすぐ行くなんて言ったから驚いているのか。


「お呼びでしょうか?」


「来たか」


 我が父ながら表情が読み取れない。私の不始末を聞かされたばかりだろうから機嫌は良くないだろうけど。


「……ルークスさすがに今回の件は庇いきれないぞ」


「……ということは何か命令が下ったんですね」


 父親が驚いた顔をした。今までと態度が違うからだろう。


「…ルークス、お前にはローラント地方の指揮官を命じる。これは王命である」


 …………はい?最前線であるローラント地方に行くのは予測できた。しかし、なぜ指揮官?少なくとも学園を中退した人間に任せることじゃないはず。なんだ?何がどうなってる?しかも王命だと?……しかし疑問に思ったところでこの命令に逆らう選択肢は存在しない。


「わかりました。お受けします」


「……そうか、これは噂だが一月後にゴルゴダルラ軍が大軍を率いてくるらしい」


 それでか、指揮官のなり手がいなかったのか。他の貴族の連中は我が身可愛さに傍観を決め込んだな。敗北すれば責任を問われるし、相手が大軍となれば勝っても命の保障はない。……あ、いや違う今現在はシドル将軍が任命されているはず。出会ったことがないから本人の性格は知らないが特に目立った悪評や失策は聞こえてこない。そのシドル将軍と指揮権を交換?行くとしても援軍ではなく指揮官として任命……やはり不自然だ。

 …学園を中退した私ならこの命令は断れないし、敗北した場合は責任を追及しやすい。……学園での悪評を考えると私が勝つと考えるのは少数派だろう。……待てよ学園での悪評?……学園ではかなり自分勝手な行動してた。………私をゴルゴダルラ軍に殺させようとしているのか?最前線で自分勝手な行動をすれば捕虜になる確率も高いし、捕虜にならなかったとしても失敗や敗戦をすれば責任を追及するだけか。


「おい、何をぼうっとしている?」


 おっと、会話中に考え込んでしまった。


「……噂では一月後ですね。わかりました、すぐに準備します」


 そう言って会話を終わらせた。さて、何から手をつけよう?

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