masked portrait

@502_bad_gateway

第1話 I see children

子供のころは早く大人になることが正しいと信じていた。

同級生のやることはどこか子供っぽく、

先生から「大人だね」といわれる自分はどこか誇らしかった。

先生から言われるから、「そう」してきた。

「そう」して、生きてきた僕にとっての「自分」はなくて

主体のない「声」は周りには響くことはなく、

本当に伝えたい「正しさ」は伝わらない。

どこか上から目線な僕の周りにはいつも冷たい空気ばかり広がっていた。


そんな僕の安息地は図書館だった。


司書さんにはいつのころだろうか、他愛無い挨拶だけでなく、

いろいろなことを聞かれるようになった。

「本の世界はいつでも僕を迎え入れてくれる」

この主語は建前である。

心配して話しかけてくる司書さんには、大体こういうことを言うと受けがいい。

本当の主語は図書館の雰囲気なのだ。

上級生は静かに本を読む。一番の若輩者である僕は「大人しく」ふるまえる。

僕以下の子供はいない、そんな空間は非常に居心地が良かった。


「周りに子供がいない」ことにどこか特別感を覚えていて、

自分を認めてくれてくれる人がいて、

「大人」でいることが「正しい」ことだと思えたからだ。

周りとは違う「僕らしさ」を演出するには、図書館は画期的な舞台だった。


しかし、そんな舞台も長くは続かない。

とある寒い冬、もうすぐ小学3年生というところで、唐突に終わりを迎えた。

いつも通り、「廊下を走らず」落ち着いた足取りで図書館の引き戸を開けた。

上級生しかいないはずだった。私が一番の若輩者だったはずなのだ。

しかし、多くの自分以下の「子供」が群がっていた。

目の前には、石油ストーブが煌々としていた。


あいつらは授業があるときでさえ、しゃべりだす連中だ。

もちろん、僕はいつも通り注意をした。いつもより大きな声で。

でも、それ以上にあいつらの声は大きかった。

僕の声はもちろん、司書さんの声も知らんぷり。


僕は怒りたかった。でも、そのまま怒りぶつけることは決してできなかった。

もどかしくて、苦しかった。でも、変わることはもっと許せなかった。

だって、「自分」らしくなくなるから。


常連の兄貴やお姉さま方も、そそくさと場を後にしている。

司書さんは、あきれて担任の先生を呼びに行く。

怒られると察した子供たちは「楽しそう」に舞台を去っていく。

その「舞台」に取り残されたのは「無力」な僕だけだった。

いや、その舞台に意味なんてなかったのだろう。

寂しさやこんな怒りを感じているのはきっと僕だけだったのだろう。

僕しかいないこの舞台はストーブがついているのに、

ひどく寒い場所になってしまった。

それ以来、図書館には足を運ぶことはなくなった。



「今年の冬からは図書館にはストーブがつく」

ほんの些細な環境の変化で僕の信じた「正しさ」は変わってしまう。

子供ながらその一端に気づけたことが幸いだったとそう納得させて。

無難が一番というように過ごすようになった。

良くも悪くも無個性な「僕」は周りに溶け込むことが得意なようで、

きまってどこから見ても同年代らしい「自分」の仮面をかぶるようになった。

きっと、鏡合わせには玉虫色の百面相が見えるのだろう。

月日は流れ、小学校卒業の年となった。

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