第55記:暗鬼

 施錠後、自室を離れた。歩数計の付属時計が「朝の5時40分」を示していた。この季節、夜明けを迎えるのは、電車の中だ。暗い歩道を進み、一番近い駅を目指した。俺の頭上に冬の月が浮かんでいた。


 扉が閉まり、電車が動き出した。くじら雲追跡編に収録されている「秋田の海辺をジグザグ北上」を読み終えた。本を閉じ、瞳も閉じた。今朝は眼が冴えていて、眠りが訪れることはなかった。

 終点到着。駅から職場まで、徒歩で移動した。あまり寒さは感じない。坂道を登っていると暑いぐらいである。かなりの勾配があるのだ。


 売店に行き、朝食を買った。広場に行き、卓席に座った。菓子パンに齧りつく前に、おにぎりを食べた。期待を裏切る味だったが、一応、空腹は緩和された。食後、コーヒーを飲みながら、ラジオの情報番組を聴いた。今日の話題は「最新式カプセルホテルについて」であった。ラジオの電源を切り、怪魚伝、第8話「捕食者」を読み始めた。


 午前業務終了。食堂に行き、券売機でAランチを買う。今日のAは鶏の空揚げとギョーザの盛り合わせ。味はさておき、珍しく食い出があった。いつもこうだと良いのだけど。水分補給後、休憩室へ向かった。

 俺の脳内に「先週耳にした不気味な噂」が再浮上していた。あれはいったいどうなったのか?誤情報であったと思いたい。身内を疑うような真似はしたくない。それでなくても、俺は猜疑心が強い人間なのだ。〔25日〕


[シンカワメグムさんのコメント]

カプセルホテルかあ~家の掃除をあんまりしないダメ人間なので、

このサイズで自分には十分かと。なんか、宇宙艦で暮らしてるみたいで

憧れがあります。空調設備にテレビ完備、防音も完璧とか。良いですねえ~


不気味な噂。むう…トラブルの予感がしますな。闇塚さんにとって近しい人

ではありませんよう。闇塚さんの生活の平穏をお祈りいたしておりますぞ!


[闇塚の返信]

俺も泊まったことがありますが、なかなか快適でしたよ。おっしゃるような宇宙艦っぽい雰囲気も楽しめますし。


御心配をおかけしております。無論断言はできませんが、直接的被害が俺に及ぶということはないと思います。

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