34 悪魔の封印者 前編

 「はぁ? 遊ぶ?」

 「そうじゃ。大人の遊びぐらいお前にも分かるじゃろ?」

 

 そう言って、メイヴの体のナアマは口を近づけてくる。

 コイツ、急に何なんだよ。

 俺はそいつを押しのけた。ナアマの体はベッドから落ちる。

 

 「…………」

 「お前、悪魔だか何だかしならないけどな。メイヴの姿をしてうろつくんじゃねーよ」

 「メイヴこやつの姿? いや、この体はメイヴこやつの体じゃぞ」

 「何?」

 

 悪魔がメイヴの体を乗っ取ったっていうのか?

 

 「なら、尚更。お前、メイヴの体から出ていけ」

 

 俺がそう言うと、ナアマはハハハと大笑い。

 何がおかしいって言うんだ?

 

 「出ていけ? 出ていけるのなら、我もそうしたい」

 「は?」

 「だがな、我はメイヴこやつの体から出ていけぬのじゃ。困ったものだろう」


 そう言って笑みを浮かべるナアマ。

 出て行けれない? 


 「それはつまりメイヴ自身がお前を引き止めているということか?」

 「そうじゃのぉ。こやつが自身の体で我を封印していると言ってもいいな」

 「マジか……」


 メイヴ自身が自分の体に悪魔を封印。

 なんてことをしているんだ。

 ……………………俺に言えなかった話はこのことか。

 

 俺は冷静にメイヴの体を乗っ取ったナアマを観察する。

 乗っ取ったとはいえ、封印が完全に溶けたわけではないのかもしれない。

 封印が解けたのであれば、メイヴの体から出て、ナアマは自身の体をもとに戻すのではないだろうか。

 

 ナアマは完全封印解除ができない限り、メイヴの体から出ていくことはできない。

 どうしたものか。

 すると、ナアマは体を起こし、立ち上がる。

 彼女の顔には笑みが浮かんでいた。


 「それはそうと、貴様は我を拒んだな?」 

 「…………それがなんだよ」

 「はっはっは。我を拒んだからには消えてもらおう、スレイズ」

 

 ナアマは俺の方に人差し指を伸ばす。

 

 「さらば」

 

 その瞬間、その指から黒い光線が放たれる。

 俺の体は吹き飛ばされ、壁を貫き、通りへと落ちる。

 

 「くっ」

 

 急に攻撃しやがった!

 光線を受けたものの、道に無事着地。

 まだ夜が明けていないのか、外は若干暗い。


 宿の壁の方を見ると、開けられた大きな穴からナアマの姿が見えた。

 

 ――――――――――――こっちに来る。

 

 俺はそう察し、とりあえずその場から逃げる。

 逃げた瞬間、俺が立っていた場所に闇の玉が投げられていた。

 

 クソっ。

 悪魔はおろか、大悪魔なんて相手にしたことないし、しかも悪魔がメンバーの体を乗っ取っている状況。

 

 ナアマを殺すことはメイヴを殺すことになってしまう。

 どうすればいい?

 光魔法で対処すればいいのか?


 「スレイズ、白魔法を使って!」


 そんな声が上の階から聞こえてくる。そこの窓にはナターシャがいた。

 

 「白魔法!? 俺、白魔法なんて知らないんだけど!」

 「なら、対悪魔用の光魔法!」


 と言って、上の階から、降りてくる。


 「ナターシャガキが来たか」

 

 ナアマはナターシャが邪魔そうに見つめた。

 ナターシャはナアマの攻撃をかわしつつ、俺の隣にやってくる。

 そして、俺は走りながら、ナターシャに尋ねた。


 「今まで、メイヴがこんな風になったことはあったのか?」

 「まぁ何度かあるけど、その時はなんだかんだ対処できた」

 

 しかし、隣のナターシャは「けど」と話を続ける。


 「昔、弱体化していたナアマは、今は力を取り戻しつつあって。封印が弱まれば、メイヴは封印をかけ直して、なんとかナアマの封印を保持していたの。でも、今回はどうか分からない。最悪、封印を解いて、ナアマを倒すしかないと思う」


 でも、できればここでは倒したくない、というナターシャ。

 俺は少し考え、こう答えた。


 「それでいいじゃないか?」

 「え?」


 よく考えたら、なぜメイヴは自分の体にナアマを封印した?

 ナアマを利用したかったから?

 自分の体を乗っ取られるリスクがあるのにも関わらず?

 

 そう考えると、倒す方が一番いいと思う。

 俺がそう答えると、ナターシャは驚きの声を上げた。

 

 「ナアマを倒すのっ!?」

 「そうだが…………何か問題があるか?」

 「いや、ナアマってめちゃくちゃ強いからね。倒せないと判断したから、メイヴはせめての思いで自分の体に封印したんだよ」

 「そうなのか?」


 利用するつもりはなかったのか。


 「そうだよ。一回ナアマを倒そうとしたけれど、私たち3人でも倒せなかったんだよ?」

 「マジ?」

 「マジ」


 メイヴは1人はともかく、ナターシャたち3人掛かりで倒せなかったってよほどだな。

 倒せる…………か?

 徐々に自信がなくなっていく。


 「それに、スレイズ。ナアマの誘いを断ったでしょう?」

 「ああ」

 

 当たり前だ。

 そう答えると、ナターシャは苦笑いを浮かべた。いや、困惑の顔か?


 「ナアマの誘いを断ったらね…………彼女はその男を殺すまで追いかけてくるの。ほら――」

 「小僧よ、待たんか。殺してやる」

 

 こっちに向かって全力疾走で来るナアマ。

 誰が待つかよ。殺されるのに。


 俺とナターシャは相手の攻撃を避けながら、逃げた。

 一方、ナアマやつはなりふり構わず、闇の玉を投げてくる。俺は様々な魔法を駆使し、ガード。

 そして、とりあえず光魔法を放つ。


 道には人が少しいたので、ジャンプをし、屋根へ移動。

 ナターシャは俺の右を走っていた。

 しかし、ナアマやつは難なくついて来ている。いら立ちの含まれた笑みを浮かべていた。

 アイツ、俺を本気で殺すつもりだ。


 「ナアマの封印はどう解くんだ!?」

 「解除系の光魔法を使って解くの!」

 

 光魔法なのか。

 てっきり、黒魔法とか古代魔法を使うのかと思った。

 俺が光魔法を放とうと構えると、ナターシャが声を上げる。

 

 「……………………え? もしかして、スレイズ、本当に封印解除して、ナアマを倒すつもりなの!?」

 「それしかないだろ!」

 「でも!」

 

 きっと大丈夫。

 俺は覚醒状態。ナターシャもスキルでステータスも上がっている。

 シュナはいないが、俺たちなら倒せるだろう。


 ――――――――――――まったく、シュナのやつはどこ行ったのか。


 俺たちは、街から浜辺の方へ走り、移動する。

 朝早いおかげか分からないが、幸いそこには人が見当たらなかった。

 ここなら、ナアマの封印を解いてもいいだろう。


 と再度光魔法を放つ構えをしていると。


 「あんたたち、何してるの?」

 

 背後からそんな声がした。

 ちらりと背後を見ると、そこにいたのは水着姿のシュナさん。

 彼女の片手にはサーフボードがあった。


 「シュナ! お前、サーフィンなんてしてたのかよ!」


 こんな時に!

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