第2章 

19 手紙

 パトリシアが捕まって数日後のこと。

 ベルベティーンはウルフハウルにある一室にいた。その部屋は多くのギルドメンバーが集まる騒がしい場所とは違い、静かだった。


 さらに家具は傷がほぼなく、ウルフハウルの印象とは程遠いもの。ベルベティーンはそのきれいなソファに座り、向かいに座る相手をじっと観察していた。


 「どうだ、俺と手を組まないか?」


 相手はフッと笑う。そして、ティーカップを手に取った。


 「ウルフハウルに入ったばかりの君と?」

 「ああ、そうだ。あんたはそのためにここに来たんだろ?」


 すると、ベルベティーンはニヤリと口角を上げる。


 「俺はナターシャがほしい。一方であんたは―――――――がほしいんだろ? そうなんだろ?」

 「………………………………いいだろう」




 ★★★★★★★★




 「え? パトリシアがもう牢屋から出た?」


 声を上げるシュナ。彼女が手にしていたカップのお茶が大きく揺らぐ。

 俺たち、シルバーバレットはギルマスのエステルに誘われ、例の銀薔薇の庭でお茶をしていた。最近はどうもお茶に誘われることが多く、お茶の飲み方が徐々に分かってきていた。


 まぁ、気品さはあまりないわね、とエステルに呟かれるが。


 「ええ、そうみたいなの。まだはっきりしたことではないんだけれど、外にいるパトリシアを見かけたと言っている人がいたのよ」

 「禁忌魔法を使えば最低でも1年は収監されるんだよな」

 「そうよ。世間知らずのスレイズもそのことは知っているのね」

 「そのくらいは知ってるだろ。新聞にも載るし」


 「ま、そうよね」と言って、シュナは紅茶を飲んだ。コイツの立ち振る舞いはなんだかんだ優雅なんだよな。戦闘もそうだけれどさ。

 その一方で、メイヴは考え込んでいるようで、


 「何か裏がありそうな予感がする…………」


 となどと呟いていた。

 俺たちは世間話をしつつお茶を楽しんでいると、受付嬢のベルと1人のじいさんがやってきた。ベルはじいさんを連れてくると去り、じいさんだけが俺たちのところに残される。


 ん?

 このじいさん誰だ?

 じいさんは燕尾服をまとい、髪もきっちりとまとめていた。

 貴族の方…………ではないよな?


 訝し気な目を向けていると、じいさんは俺たちに一礼した。そして、エステルにも深く一礼する。

 もしかして、このじいさん、エステルの執事とかなんかか?

 エステルの本来の姿は公爵令嬢。なくはない話だろう。

 

 「オリバー…………」

 「エステル・アメストリス様に手紙をお届けに参りました」


 と言って、じいさんは1通の手紙をエステルに渡す。

 エステルは手紙を読み始める。彼女の顔は険しい顔になっていく。


 「考え直していただけませんか…………エステル様…………」


 と呟くじいさん。

 それはエステルにも聞こえていたようで、さらに険しい顔をさせていた。

 手紙の内容は一体どんなことが書かれてあるんだ?

 俺はそっーと覗こうとする。すると、俺の体はエステルとは反対側へと引っ張られた。


 「ダメだよ。人の手紙を盗み見るなんて」

 

 ナターシャがぷくぅと頬を膨らませている。「つい好奇心で、ごめん」と俺は小さく謝る。


 「謝るなら、私じゃなくてマスターにだよ」

 「ああ、そうだな。すみません」


 すると、エステルはフフフと笑い、


 「この手紙には大したものは書かれてありませんから。大丈夫ですよ」


 と言って、じいさんの方に顔を向ける。その彼女の顔は真剣そのものだった。


 「オリバー、あなたの気持ちは分かります。ですが、私はここにいて、ギルドを守っていきたいんです。祖父が大切にしていましたからね」


 じいさんは徐々に悲しそうな表情になっていく。

 エステルは家のことで何かあったのか? もしや、家督のことか?

 でも、家はお兄さんが継ぐって聞いていたんだが。


 俺はそのまま黙ったまま、エステルに耳を傾けた。


 「何度も言っているとは思いますが、もう1度殿下にこうお伝えください。『私は一生をシルバーローズに捧げるつもりです』と」

 「エステル様…………」


 「え?」


 あれ? 

 今、殿下って言った?


 ナターシャたちも気づいたようで、困惑な顔を浮かべていた。

 俺は「どういうこと?」と言わんばかりにナターシャに訴えかけるも、彼女は肩をすくめるだけ。そりゃあ、知るわけないよな。


 でも……………………エステルって殿下との婚約を破棄されたんじゃなかったか?

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