12 ギルドマスターとパーティーリーダー

 えーと…………この状況はどうしたらいいのか。

 目の前には綺麗なお姉さんが、俺の首に刃を向けていて…………なんか不機嫌そうにしていてるんだよな。

 うーん。


 すると、そのお姉さんは隣のナターシャの方に目を向けた。


 「あなたがナターシャ?」

 「は、はい!」

 「私、あなたの手紙を受け取ったのだけれど、パーティーメンバーは女の子3人と聞いていたわ…………彼は一体どなたかしら?」

 「せ、先日加入した者です!」


 ナターシャはいつになく緊張しているようだった。

 そりゃあそうか。突然、メンバーが殺されかけているのだから。

 すると、お姉さんの瞳から鋭さが消えていく。優しい目に変わっていた。


 「ウフフ、こんなに驚かれるなんて」

 「…………?」


 お姉さんはゆっくりと俺の首元から剣を離す。

 次は何が来るんだ? 戦闘か?

 しかし、お姉さんは微笑んだままで、言った。


 「びっくりしましたか?」

 「え?」


 そりゃあ、うん…………もちろんびっくりした。

 いや、びっくりどころじゃなかったな。恐怖を感じたぞ。


 「恐怖を感じました…………」


 正直に答えると、彼女はフフフとまた笑みをこぼす。


 「フフフ、それはよかったです。あなた、名前は?」

 「あ、スレイズです。よろしくお願いいたします」

 「スレイズ…………ですね。分かりました」


 俺はとりあえず頭を下げる。

 銀髪に青眼。この気品さ。

 もしかして、この人は…………。

 

 「私はシルバーローズのマスターをしております。エステル・アメストリスと申します」


 シルバーローズのギルドマスター。

 その人はシルバーローズの創設者の孫であり、またアメストリス公爵家の令嬢であることを聞いていた。


 あと王子殿下との婚約を破棄されて、このギルドのマスターとなったことも。


 「あの…………なんで俺のレベルを知っているんですか?」

 「フフフ、あれは女の勘ですよー。女の勘。なんとなくあなたのレベルが異常なまでに高いかも、と思っただけですよ」


 え? 女の勘?

 鋭すぎないか? こわ。


 俺はさらに尋ねる。


 「あの…………なぜ俺に剣を向けたんですか? 気を悪くするようなことをした覚えがなくて…………」


 大体、ギルドマスターに会うのは今日初めてだ。


 「ああ、あれですか? いつも新人さんには挨拶に来てもらって、さっきみたいに驚かしているんです。マスターとしての威厳を示すためというのもありますが、大半の理由は私の趣味です」


 うっわ。

 なんとも趣味が悪いギルドマスターだな。


 さらに俺は引っかかっていることも尋ねてみた。


 「あと、さっきウルフハウルの連中みたいだって…………」

 「ああ、あれですか? あれはこう言ったらもうちょっと面白い反応が見れるかな、と思って好奇心のままに言っただけですよ。もちろん、ウルフハウルにはレベルが高いだけで協力性のないやつが大勢いますが————」


 エステルさんは俺たち4人にゆっくりと目をやる。


 「あなたはどうやら彼らとは違うような気がします」


 彼女は、「レベルが高いとはいえ、スレイズはヒョロヒョロですから、ウルフハウルというよりシルバーローズの人間ですね」と付け加え、ウフフと笑う。

 

 やっぱ俺、ヒョロヒョロなの? もうちょっと鍛えないとな…………。


 俺は苦笑いをしながらも、エステルに目を向ける。

 この人について何も知らなかったら、ギルドマスターというより、やはり貴族の令嬢って勘違いしていたかも。


 …………まぁ、いい人ってことは分かっているんだが、さっきのことのせいでどこか怖いんだよな。

 また剣を向けてくるんじゃないかって。

 そこらへんは令嬢っぽくないな。うん。


 「ところで、パーティーリーダーはナターシャですか?」


 とエステルさんは尋ねてきた。


 そうですよ。われらのリーダーはナターシャですよ。

 とナターシャの方に顔を向ける。

 すると、ナターシャは…………。


 「いえ!」


 と元気よく返答。


 え? はぁ? ナターシャじゃないのか?

 もしかして、一番年上のシュナに変更になったのか? 俺の知らない間にそんなことが話し合われていたのかよ。ベルベティーンたちの時と一緒じゃないか————。


 「パーティーリーダーは彼です」

 「!?」


 え? はぁ? 俺?


 「ナターシャ? 何言ってるんだ? お前がパーティーリーダーだろ?」


 いきなりリーダーと言われたって、心の準備が。

 すると、エステルさんが首を傾げた。


 「あらあら? あなたがパーティーリーダーじゃないのかしら?」

 「いえいえ、違いますよ。ナターシャがリーダーですよ」

 「いえいえ、違いますよ。リーダーはスレイズです」


 「いえいえ、かなり前からリーダーはナターシャです」

 「いえいえ、今日からリーダーはスレイズになったんですよ」

 「おい! 俺がリーダーだなんて聞いていないぞ!」

 「えへへ。今決まったことだもの」

 「今決まったこと!?」


 なんでそんなことを言いだしたんだ!? ナターシャ!?

 俺たちはリーダーについて言いあいを開始。他の2人は苦笑いを浮かべて居るようだが、黙ったまま。

 すると、エステルさんがパンと手を叩いた。


 「じゃあ、このパーティーで多数決をして、リーダーを決めましょう」

 「え?」

 

 4人で円を作り、他の人間の顔をうかがう。

 シュナたちはナターシャをリーダーにするよな? な?


 「準備はいいですか? 行きますよ…………せーの!」


 エステルさんの掛け声とともに、俺はナターシャに真っすぐ指す。

 あとは、他の3人次第だ。

 どうだ?


 3人が指した方向を見てみる。

 すると、全ての指先の方向には俺がいた。


 「な、な、なんで俺なんだよ!?」


 シュナは、この前宿でナターシャが永遠のリーダーだって言ってたじゃないか。

 と話すと、シュナはぷいっと顔を背け、


 「固有スキル『信頼』持ってるから、あんたがいいんじゃないかなと思ったのよ」


 と言う。

 いや、固有スキルを持っていると言ってもリーダーの素質とは関係ない気が…………。

 メイヴもシュナと同意見らしく、結局パーティーリーダーは俺になった。


 うーん。

 こうなったら、頑張るしない。

 でも、リーダーなんてできるのだろうか? こういうことをやったことないからな…………うーん。心配だな。


 リーダー変更だけじゃない。その日は今までなかったパーティー名までも決まった。


 銀の弾丸シルバーバレット

 

 それが俺たちのパーティー名だ。ナターシャが提案した名前である。


 「なんとも物騒な名前だな」

 「え? そう? 格好いいと思うけれど」

 「私も。なんでも討伐できそうな気がするわ」

 「同意見」

 

 リーダー変更とパーティー命名を終え、ギルドマスターに再度挨拶を行うと、宿へと向かった。


 今日一日でハラハラさせられた。疲れた。

 でも、冒険者って感じがする。

 一切戦いはやっていないけどな。

 まぁ、明日からきっとクエストを受けることになるだろう。


 そうして、翌日。

 王都の宿代もバカにならないので、次の日から早速クエストを受けることになった。


 しかし、討伐クエストに向かった俺たちはあっという間に倒してしまい。

 1週間で50つものクエストをこなしてしまっていた。


 クエストクリアするたびに、何人からか細い目で見られたけれどな。

 仕事やりすぎたのか?

 …………まぁいっか。


 討伐を早くしないと、困る人たちがたくさんいるんだ。

 あ、でも仕事を取り過ぎると、それはそれで困る人がでてくるのか。


 そのことをナターシャたちに話すと、


 「じゃあ、報酬が多い難易度が高いものに挑戦してみようよ!」


 と言われたので、あまり受けたがらない高難易度のクエストに挑むことにした。

 モンスターが出現する場所は王都から少し離れた森。俺たちはそこへ移動し、一時歩いていると、目的のモンスターと出くわした。


 今回の討伐モンスターは、簡単に言えばデカいムカデ。俺たちよりずっと大きな体を持つムカデだった。このムカデはモグラを食すのだが、そのモグラを追っている最中に、畑を荒らすらしく、農家の人たちが困っていたのだそう。


 しかし、このムカデは体が大きいわりに、動きが機敏で討伐する者を苦戦させていたとか。

 機敏さがある俺たちには取っておきの討伐モンスターだった。


 そのモンスターに対し、俺は火属性の魔法と剣を、メイヴはお得意の光属性の魔法を、元暗殺者のシュナは闇魔法を、そして、ナターシャは水属性を使って戦闘を開始した。


 それにしても、コイツ、気持ち悪い動きをするな。

 くねくねと動くムカデ。俺たちが敵だと分かると、酸のようなものを吐いてきた。

 しかし、この前よりも時間はかかったが、問題なく討伐はできた。


 目の前には八つ裂きになったムカデ。意外にもやつの体は美味しそうな肉に見えた。


 いやぁ。

 このパーティーであればどんな敵であっても、あっという間倒せそうな気がする。


 「このままじゃあ、まずいわよ!」


 俺はムカデを運ぶ方法を考えていると、そんな声が耳に入ってきた。

 近くに他の冒険者がいるのか?


 「倒さないとクエストクリアにはならないぞ!」「でも、今の私たちじゃあ、無理よ! 私たちが先にやられちゃう!」「死にたくない! 死にたくない!」


 なんか結構困っているような声が聞こえるなぁ。助けに行ってやろうか。


 「確か、コイツの体、食べれるんじゃなかった?」

 「へぇ、そうなの? まぁ、一度ギルドに持っていて報告した後に、一部分だけもらって食べてみたらいいのかもね」


 そんなことを話しているシュナとメイヴのところへ、ナターシャも寄っていく。

 あの3人はムカデの体で楽しそうにしているし、俺、1人で行ってくるか。


 「ほんとだー。スレイズもこっちに来て来てー? あれ? どこに行くの、スレイズ?」

 「ちょっと向こう」

 「ちょっと向こうって…………え? あ? ス、スレイズー! どこ行くのー!?」


 声が聞こえる方へと、俺は真っすぐ走り出した。

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