10 上昇してるんだけど 後編

 それで…………それから、私とその子で戦闘になったんだけれど。

 その子、紫のオーラ放ってたから、これは怪しい、闇魔法に違いないと思って、本気で戦うことにしたの。


 ……………………あー。


 確かに、闇魔法は別に珍しいってだけで危険ではないよ。

 そうなんだけれど、その時の私は珍しくて、危ないのは闇魔法って勘違いしてて…………本当は黒魔法が危険なんだよね。分かってる。


 あー、メイヴ、ため息つかないでよ。あの時の私は闇魔法が苦手科目だったの。

 

 えーと。話を戻すよ。

 勘違いした私は本気で戦っていたんだけれど、結構あっさり終わっちゃって。

 全力の魔法を使ったら、すぐ勝っちゃって。

 

 もうダメだと判断したのか、その子は主人の部屋に向かうことなく、すぐに逃げていったの。

 その後、『なぜ捕まえなかったのか!』ってその主人には怒られたんだけどさ、アハハ。

 

 それで警備の仕事を終えた私たちはある飲み屋に行ったわけ。お疲れさまってことでね。

 あ、私はジュースだよ…………もちろん。実質飲んでいたのはメイヴだけだよ。安心して。

 私とメイヴは飲み屋の隅っこで静かに飲んでいたんだけれど。

 

 『あ、あ、あんたぁ————!!』

 

 っていう叫び声が突然聞こえてきて。

 誰のことを呼んでいるのかなぁと思ってみたら、その叫んだと思われるツインテールの女の子が私のことを指してたの。

 

 『え? 私?』

 『そうよ! あんたよ! よくも私の仕事の邪魔をしたわねぇ!』


 って言って、その子がこっちに寄ってきたの。口からアルコールの臭いがしたから、結構飲んでいたんだと思う。

 酔っているせいで絡まれたのかなと思ったのだけれど…………。


 『仕事の…………邪魔? なんの話かさっぱり…………それよりもあなた何歳? 小さな子が飲酒なんてしたらダメだよ』

 『小さな子ですって!? 私は立派な大人よ。とっくに成人してるの! う゛ぅ! もうそんなことはどうでもいいのよっ!』

 『うーん…………まぁ、こっちに来てちょっと落ち着いたら? お水あるよ』


 メイヴが提案してくれたおかげで、一時はその子落ち着いていたのだけれど。


 『私たちってどこかで会った?』

 『はぁ? 忘れたの? ブライズ家で会ったじゃない。私はブライズの主人アイツらないといけなかったのに、あんたたちが邪魔したせいで失敗したのよ、ったく』


 『いやぁ…………私たちもあれが仕事だったんだけれど』

 『そんなのぉ、知るもんですか!』


 その時、女の子がバンと机を叩いて、こう言ったの。


 『ええいぃ! こうなったら勝負しなさい!』

 『えぇっ!?』

 『私は仕事を失ったも同然なの! 私が勝負に勝ったら、私にもらえるはずだった報酬分のお金を貰うわ! 勝負は1対1で、先に動けなくなった方が負け。魔法も武器もなんでもありよ』


 私が悩んでいたら、メイヴが『1回勝っているんでしょ? 少しだけ相手してあげたら?』って言ってきたの。

 まぁ、確かにね、と思って。

 それで勝負を了承したの。


 『じゃあ、もし私が勝ったら、あなたは私のパーティーに入ってもらうから!』


 という条件を加えてね。




 ★★★★★★★★




 「それで、シュナが負けて、パーティーに入ったってわけか」

 「そういうことー」


 すると、黙って話を聞いていたメイヴはニヤリと笑って、付け足すように言った。


 「シュナ、ナターシャに負けた後も、私に勝負を吹っかけてきたんだけれど、結局シュナちゃんは負けたわよね。懐かしい」

 「あんたたち、いい加減にしなさいよ………」


 「でも、良かったじゃないか。失業してたんだろ?」

 「ええ…………そうよ。暗殺の仕事を失敗すれば、普通であれば私は殺されていたの。でも、依頼人とか関係者に顔を見られず、素性も教えてなかったから、殺されずにすんだわ。でも仕事は無くした」


 シュナはふぅと息をつき、話を続ける。


 「それで嫌になって飲んで酔っているところに、ナターシャたちがまた現れた。ある意味私は運が良かったのかもしれないわ…………どうせあんたもナターシャに拾われた身なんでしょ?」

 「…………ああ」

 

 図星だ。

 ナターシャがいなかったら、キスで覚醒することもなかったし、パーティーに入ることも冒険者の夢を叶えることもできなかった。

 

 そういったことを見え透いた上で、シュナはしゃべっているようだった。


 コイツ、悪いやつじゃないのにな…………仲良く平和にやっていきたいんだが。


 シュナは景色を眺めたいのか、窓の外に上半身を出し、俺に背中を向ける。

 すると、彼女が「まぁ、でも?」と呟いた。


 「さっきの戦闘といい、ナターシャからの信頼といい、あんたはまだ他の人・・・たちよりよさそうだから? まぁ、認めてあげるわ…………へまをすればすぐ追い出すから。その辺は分かっておきなさい」

 「ああ、分かった」


 一生認められないと思ってた。けれど、意外とあっさり認められ、俺は少し動揺。

 俺は右手を彼女に差し出す。

 すると、シュナは長し目で俺を見た。

 

 「何?」

 「握手しようと思って」


 握手ぐらい…………いいだろ? 仲良くしようぜ? な?

 と目で訴えていると、シュナは「ふん」と鼻を鳴らして、俺の右手を取ってくれた。

 その光景を見た、ナターシャは両手を天に挙げ、万歳。

 

 「やったー! シュナちゃんに認められた! やったね! スレイズ!」

 「ああ、これでちゃんとパーティーに入った気分になれる」

 

 すぐにシュナは手を放し、素っ気ない態度を取っていたが、「あんないい獲物を取られて、なんか悔しかったから、認めたくなかったの」とかメイヴに呟いているようだった。

 アイツは素直じゃないのか。ツンデレなのか。ふむふむ。


 シュナはナターシャやパーティーのために俺を疑っていたのかもしれない。

 そう思うと、彼女が非常に信頼できる人間に見えた。

 

 まぁ、相変わらず大人には全く見えないが。


 俺は馬車に揺れられながら、みんなで他愛のない話をしたり、ナターシャが持ってきていたトランプを使って遊んだりしていた。

 なんでナターシャはトランプなんて持ってきているんだ? 子どもじゃああるまいし。

 まぁ、楽しかったからいいのだが。


 そうして、険しい道を馬車が進み、谷にある街が見えてきた時だった。

 

 「ええっ!?」

 

 その叫び声が聞こえてきたのはシュナの方から。

 彼女の方を見ると、どうやら自分のステータスを確認しているようだった。


 「どうしたんだ? いきなり大きな声を出して」


 シュナは下げていた頭をゆっくり上げる。

 彼女の黄色い猫のような鋭い目は見開いていた。


 「ねぇ…………私のステータス、異常に上昇してるんだけど…………」

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