9 上昇してるんだけど 前編

 ナターシャの告白を聞いた後、困惑していた俺は、


 「ナターシャたちがシュナコイツに勝った? はぁ?」


 と思わず呟いた。

 しかし、俺が首を傾げても、ナターシャは「まぁまぁ」と言うだけ。

 さらに。

 

 「馬車の中でゆっくり話そう!」


 と言われたので、素直に自分たちの馬車へと戻ったのだが。


 「ねぇ、ねぇ、シュナちゃん。一緒に話そうよ」

 「話さない。私は眠いの」


 とシュナは自分の席で横になり、眠る態勢に入っていた。どうやら、まだ俺のことを認めてくれていないらしい。

 俺、さっき助けたのに。俺にしては頑張ったのに。


 それにさっきの話の続きを聞きたい。

 そう思った俺は、


 「あー、子どもだから眠たいのか」


 煽ってやることにした。


 「はぃい? 何ですってぇ?」

 

 シュナは予想通り沸点が低かった。すぐに立ち上がり、俺に鋭い目を向けてくる。


 「私はね、綺麗なお肌を保つために、睡眠時間はちゃんと確保しているの! 仕事がない日はちゃんと8時間寝ているもの。今日は朝が早くて睡眠時間足りてないのよ!」

 「フッ、なんで身長伸びてないんだろうな」

 「キイィ——————!!!!」


 怒ったシュナは猿のような奇声を上げ、床を踏みつけた。

 いや、本当になんで身長がこんなにも低いのか気になる。


 「スレイズ、そんなにシュナちゃんをいじめないであげて。シュナちゃんも一緒に話そ? ね?」

 「ふん…………」


 とすねているシュナだが、大人しく座り直した。

 横にならない…………話をしてくれるのか? そんな様子はなさそうだから、聞くだけか。

 シュナに話しかけても無駄だなと思った俺は、ナターシャに尋ねた。


 「それで…………さっきの話はどういうことなんだ? ナターシャたちが勝ったからシュナがこのパーティーにいるっていうのは」

 「それはね…………」




 ★★★★★★★★




 シュナちゃんがこのパーティーに入ったきっかけを話すには、シュナちゃんとの出会いから離さないとね。

 シュナちゃんとの出会いは、あるお屋敷だったの。

 

 そう。お屋敷。

 デルフィニューム私たちの街にあるブライズ家のお屋敷。

 なんで冒険者の私たちがお屋敷にいたかって言うと、警備の仕事クエストのためにいたの。

 

 え? 警備のクエストが珍しい?

 いやー。意外とあったよ? 報酬もよかったし、私とメイヴの2人でやっていた時はよくクエスト受けていたよー。

 

 まぁ、それでね。

 そのお屋敷の夜の警備を、1週間ぐらいすることになっていたんだ。

 6日間は特に何もなかった。

 あの6日間は本当に暇で、「暇だー」と叫んで屋敷の周りを走ってたら、ご主人に怒られたっけ。


 そして、7日目。

 その日も何もないかなーって思って、気楽に過ごしていたんだよね。

 だけれど、その夜にそれは起こった。

 

 その時の私は表の門の近くをうろちょろしていたんだけれど、突然メイヴからテレパシー魔法がきたんだ。

 

 『ごめん、侵入させた』

 

 って感じで。

 珍しくメイヴがそんなことをするものだから、これは強いやつが来たと思って、私は主人の部屋の前まで走っていったの。


 そしたら、そこにさ、どう見ても侵入者っぽい人がいたの。

 でも、私、その人が主人の暗殺をしに来たとは思えなくて。


 なんでかっていうとね、その人、とっても小さかったの。うん。

 

 それはそれはちっさい子で。

 びっくりしたよ。

 大きな真っ黒なコートの下にいたのは、子どもだったんだから。


 あ! ごめんね、シュナちゃんは子どもじゃないよ? 

 ……………………立派な大人だよ。




 ★★★★★★★★




 子どもと言われ、ぷんすか怒るシュナ。案外真剣に話を聞いていたようだ。

 

 「それが出会いってわけか…………結構すごい出会い方をしているんだな」

 「うん、まぁね。あの時の私もこうなるとは思ってなかったよ」


 結構話を聞いた方だが、今のところ、俺の疑問は残ったままだった。


 「なぁ、なんでシュナがこのパーティーに入ることになったのか、まだわからないな」

 「まぁ、続きの話を聞いて」


 そして、ナターシャはまた話し始めた。

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