エリートリーマンの人外生活!〜トカゲから至龍を目指します〜

@Chibakansai

第1話

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 “結局、糞みたいな人生だった”




 今になってそう思う。


 こう聞けば余程酷い人生を送って来たのだろうと想像するかも知れないが、私の場合は少々事情が異なる。


 確かに私生活での苦労は多かったが、それを差し引いても私は優秀な部類の人間だったのだ。


 幼い頃から学業、スポーツ、容姿。その他の全てに於いて他者よりひいでた能力を持ち、そして研鑽けんさんを怠らなかった。


 名門と呼ばれる進学校に入り、部活動でも全国でトップクラスの成績を収め、一流の大学を卒業した。


 例えるなら、“兎と亀”の兎だろうか?


 ただし私は居眠りする様な間抜けな兎では無い。

 鈍重な亀を置き去りにし、全力でゴールを目指す兎だったのだ。


 私は自分の事を選ばれた存在だと思っていた。


 今は無理でも、やがては多くの人々に認められ称賛を受ける側の人間なのだと。


 それだけの能力が有ったと、今でも思っている。


 ──しかし、そうはならなかった。


「あ……う……」


 私はこれで何度目かの呻き声を上げた。


 体は動かない。監視室の警備員マヌケはきっと居眠りでもしているのだろう。


 今言った通り、私は全てに於いて優秀だったが、しかし何一つ頂点に立てた事が無かった。


 学業でも、スポーツでも、容姿でも、常に私よりも上の存在が在り続けたのだ。


 それは運の要素だったり、環境的な要因が絡んだり、単純な天才が相手だったりと理由は様々だが、結果として私は常に二番手に甘んじる事になった。


 納得など、出来る筈が無かった。


 それでも私は腐る事無く努力を続け、業界でも最大手の紅角に入り、必死で仕事を続けて来た。


 足が棒になるまで外周りをし、夜が明けるまで机に向かい、首が痛くなるまで頭を下げて、血を吐くまで接待をして来た。


 ライバルを蹴落とし、愛想を振りまき、派閥争いを乗り越えて来た。


 そして私は遂にエリートコースへと乗る事が出来たのだ。


 やっと……やっとこれまでの全てが報われる。そう思った。


 ……その結果がこれだ。


「……さ……」


 寒い。


 私は死に掛けている。


 自分の手掛けた仕事が実を結び、栄転の決まっていた私は、仕事の引き継ぎの準備を進める最中に倒れたのだ。

 周囲には誰も居ない。無理も無い。今は夜中の三時なのだから。


「……に……な……」


 寒い。死にたくない。しかし、体から命が抜けて行く実感がある。


 どれだけ恵まれようとも死んでしまえばそれで終わりだ。

 私の苦労も研鑽も、何の意味も無かったのだ。


 こんな……こんな終わり方嫌だ。嫌だ。死にたくない。認めない。やっと……やっと自分の居場所が見つけられると思ったのに……。


『死にたく無い?にゃは!それは無理無理!無理無理侍だよ!君は死ぬのだ景勝くん!』


 なんだ……このふざけた……声……。


『私?聞いてビックリ見てビックリ!転生を司る女神、ラナファースフェルト様が使わされた天使ちゃんです!景勝くん!君はラッキーメンだね!異世界転生出来るよ!?やったねー!良かったねー!転生する?それともしない?』


 死に……く無い……生きたい……。


『行きたい……?オッケー牧場!!君は転生するよ景勝くん!んでね!特典付きの転生なの!ん〜ッッッ!!ラッキーメェンだね!特別にユニークスキルを一つあげちゃう!どんなスキルが良い?』


 引き……継ぎ……


『引き継ぎ!?引き継ぎのスキルなのね!?ワァオ!!こりゃあ凄いスキルに成りそう!ドキがムネムネするね!じゃあ、君の名前にちなんで、“継承けいしょう”スキルをプレゼントフォー・ユー!!』


 き…………が……と……く……


『きがとく?うーん分かんないけど……。あっ!そっか!“記憶をとっとく”の略かな!?“が”は何処から来たしww!天使ちゃんじゃなかったら厳しかったよ!?オッケー!じゃあ、個体名:田中景勝が最初に使用するのは、記憶の継承だね!!良かったね!行けるよ!条件整ってるから!』


 ……た……


『いってら!田中景勝くん!まぁ、向こうのヘルプ担当は私だから、直ぐに会えるけどね!!』



 それが私が最後に聞いた言葉だった。





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