【短編】コールド負けヒロイン
在存
第1話
これを読み始めた皆さんは、自分が「モブ」であることを心のどこかで厭がっています。
この手記は、そんな皆さん方へ向けた、私のささやかな遺言でございます。
*
世に100億を下らず跋扈する「負けヒロイン」が、実はすべて私であることをご存じでしょうか。
片に想いを寄せていたアイツの背中を押したり、ポット出の深窓令嬢に幼なじみを掻っ攫われたり、好き好かれの可能性をとうに超えてしまった距離感が仇となったり、あれらはすべて私でございます。
実はつい先ほども負けてきました。さっきまでの私は名を二条友恵といい、薄紫色のロングが特徴で、竹を割ったような性格の学級委員長でした。紫髪というのは負けるのが宇宙の摂理で、私もこの色で328万回は負けた覚えがございます。
二条友恵は同じクラスのある男の子が気になっておりました。そいつは授業をしょっちゅうサボり、たまに顔を出しては居眠るばかりのいわゆる不良で、とはいっても暴力的な雰囲気はなく、どこか物憂げな「無気力不良タイプ」の主人公でございます。きっと口外できぬ事情があったのでしょう。まぁ私は「負けヒロイン」なのでトゥルールートには参与できず、物語佳境であらわになる彼の憂さについては知れずじまいでしたけれども。
──さっきの宇宙について思い出してみようか
星3.4。同率にテュンソフトの「あなたと交わした夏の約束」が並びます。無難にまとまってはおりましたが、2000年代前半の論理で未だに動いていて古びてて、3.5の壁を突破するには今一つ新鮮味を欠きますね。所謂モブでございます。
──それでは、宇宙00801722-003は終わらせてしまってもよさそう?
論ずるまでもなく──
彼のような陽を嫌うタイプの主人公と学級委員長タイプのヒロインが馬が合うはずもなく、よしんば彼の好感度を稼げたとはいえそれは「恋」の概念で語れる関係値につながることはございません。二条友恵は彼に恋してしまった時点で敗北が決まったといってもよいでしょう。案の定、彼を救ってあげられたのは彼と同じく不登校気味だった病弱薄幸の美少女であり、私は彼らを持ち前の気丈さで陰ながらサポートするというマーメイトよりも美味しくない立ち位置に甘んじた次第です。
でも、それが嫌だとはつゆ思いません。なぜなら私は運命にしたがい使命を遂行しているだけだからです。エラ呼吸する魚を見てうらやましくなるニンゲンはいないでしょう?
さて、敗北を喫した傷も癒えたことですし、ええ、約100億回目の旅へ行ってまいります。
──これ以上宇宙がなくならないといいのかな?
それは……
無理な相談です。不肖私には負けることしかできないので。
そういって灯りのない洞窟を出ました。
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