Ep.II「可愛いヒロインが登場する異宇宙」

 2基で合計7つの脚型中世宇宙エンジンの爆音を轟かせ、騎士達が跨った宇宙馬船が15km/sで宇宙草原を駆けていく。その途中でいくつもの宇宙木を見つけたので、その度にスウィング・バイを行い、重力加速度を得た。


 その馬船に草原を引きずられていくタカーシは、その度に慣性で大きく道を外れて道の脇に広がる草地に突っ込んだ。タカーシの視界を流れゆくショッキングピンクの宇宙草の草並み。その合間合間でニコニコした花達がイケてるボイパでビートを刻んでいた。だからこそ確かにここは中世アンドロメダ風の異宇宙なのだ、とタカーシは確信できたのだ。


 そのビートの音波が可視光線に変換され、大宇宙おおぞらに色とりどりの螺旋を描き、この宇宙で最もス・テ・キな模様を描いていた。たこ焼きの形だ。


 ぐるぐるまきにされたタカーシを引きずって連行している中世宇宙騎士たちは、やがて宇宙城の宇宙城下ステーションに辿り着き、妖精に祝福されし超硬度チタン合金で作られた煉瓦れんがで建てられた城門に辿り着く。

 チタンは軽くて硬い。それが合金になって、そのうえ妖精に祝福されてしまっては、その硬さたるや青天井まっしぐらだろう。


 「戻ったぞ!怪しいヤツをひっとらえてきた!開門願う!」騎士が叫ぶ。

すると門がすごい勢いで開いた。すごい音もした。「すごい」という音の響きだ。


 その門をくぐり、タカーシは宇宙城下ステーションの大通りへと連れていかれる。


 中世アンドロメダ風と言えば大体想像できるであろう感じの街の中を引きずられたタカーシの姿を見た町人たちが口々と「なんだあいつは?」「触角がない、悪魔の使いか?」「でもなんか、イケメンでつよそう」などと言って、その旺盛な好奇心を物理的に丸出しにして観ている。

 

 タカーシは左腕のひじにある左肘脳さひじのうで彼等の言葉の意味を考え続けていた。フーツ星人の知能の95%はここに集中している。頭部の心臓のはす向かい、向こう三軒両隣にある頭脳で出来る事は、虚数を数えることと、足がつった時に「がんばれ」と応援すること。そして長さ5cm程度の棒状の様な物を物理的に収納できることだけだ。


 肘脳が、思考が終了したということをゴングの音で知らせる。


その音に驚いた騎士たちが突然態度を翻し、馬を降りて頭を下げ始めた。


「その音は!あなた様が予言にあった勇者様なのですね!失礼致しましたぁっ!」

「どうぞなんなりとご命令ください!…くくく、奴を見つけました、魔黒穴王さま」


 …その会話を、宇宙の黒闇の果て――暗黒宇宙を司る宇宙最強の魔神、

魔ブラックホール王が素粒子通信で傍受していた。暗号化された会話は、りんご、として通信マシーンからごろりと転がり出てきて、その大きさ、形、色、香り、糖度、質感、市場卸価格などで情報が読み取れるようになっている。


 そして実は騎士の一人は彼のしもべで、彼の部下の中でも最も強いと太鼓判を押された手先だったのだ。その時に押された太鼓判のあとは、今でも残っている。それが強力な魔法陣として彼に力を与えているのだ。


 魔ブラックホール王とは、宇宙の法則のうた、4番のサビを全部間違うという原罪を犯した宇宙悪魔だけが落ちる中性子星地獄で、大量のガン魔線を被ばくした一人の宇宙悪魔が、悪セシウムと闇プルトニウム、邪ウラン、妖酸ナトリウム、浪漫ストロンチウム、質実剛健イッテルビウムなどの、あらゆる「魔元素イビル・エレメント」を吸収して、闇プロミネンスで宇宙に放り出されると魚になり、数々の出世魚として過ごした後、最終的に変化したものである。


 宇宙の長い歴史の中でもこのような経歴を持つ魔王は類を見ず、女神の屍から生まれた星々にある、聖アンドロメダ王国星の民たちはその名を聞くたびに、触角をぷるり、と震え上がらせていたのだった。


――――――


「なんて事だ!お前が!お前がッ!…裏切り者だったなんて!」

「ははは、タカーシ、まんまと騙されていたな、勇者ともあろうものが情けない」


 ぐるぐるまきにされたタカーシが、騎士の一人…氷の魔術士、ターロウを見上げ、

叫んだ。タカーシはぐるぐるまきにされてはいたが、転生した際に得たパワーで軽くターロウを吹き飛ばした。「これが…俺の…能力ちから…?」タカーシは手元に持った反陽子重力ダブルレーザー銃を見る。銃身には古代文字がプリントされていて、音声認証…呪文を唱えると発射できるタイプだった。偶然にもタカーシはその呪文を叫んだので発射されたらしい。


 ターロウはくるくると回転して着地し、マントをばっさー、ってやる感じのアレをして、タカーシを嗤う。

「それがお前のマインド元素構築具現体か…しかし私の氷魔法には敵わない」


 そう言うとターロウは身体全体をぐにぐにと動かし、魔法陣の形を身体の動きで表現しはじめた。高位の魔法ともなるとその構造は複雑で、並大抵の魔術師はそれを完成させることなく腰をやられる。しかしターロウはそれを克服するために、最強の科学者、魔ブラックホール神から魔術的な儀式を受け、サイボーグとなっていたので平気だったのだ。


 その時、タカーシ達の後ろから、とてもかわいいヒロインの声が聞こえてきた。

「待って!あなたの力はそんなものじゃないわ!私を…信じて……!」


―――それは、先程街中で彼を「イケメンでつよそう」と評価した町娘だった。


                  彼女の触角からは、涙が溢れていた—―――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る