宇宙人がスペーストラックに衝突されて異宇宙転生
Shiromfly
Ep.I よくある「中世アンドロメダ風の異宇宙」
フーツ星人タカーシは、宇宙トラックに跳ねられた。
その日は朝…とは言っても、その星は自転周期が地球時間で521時間あるので、正確には朝期、と呼ばれている時間帯からこの星特有の農硝酸の雨が降っていて、それに辟易しながらの通勤中だった。
マデラー星からアモット星へ通勤するサラリー宇宙マンたちを乗せた宇宙パスBP-105の中でタカーシは欠伸をする。「ピロピロピロ~ン」という音を漏らしてしまい、慌てて口を押さえた。睡眠不足の理由は、昨夜期まで読んでいた雑誌のグラビア「宇宙美女特集!触角が90本もあるセクシーな赤肌娘!」に、頭部と
フーツ星人には触角はない。いわゆるフーツな体を持つフーツ星人たちの中でも、タカーシは飛びぬけてフーツだった。
タカーシが乗っていた宇宙バスは250もの宇宙停留所を1時間以内に往復する為に、反重力イオンプラズマドリブルエンジンで動いている。20世代も昔の骨董品だが、アナログなものほどメンテナンス性が高いというのは常識だ。タカーシはこの48259時間前に製造されたバスのド派手な紫と黄色の縞々模様が好きだった。
フーツ星人の科学力は、銀河の星々の中では平均的なものだ。
多次元理論と量子力学、重力波観測、タキオン補足、ニュートリノ応用発電といった低レベルな技術は勿論、亜光速航行、限定的ではあるが陽子電荷ワープ航法、更には10次元コズミックストリングス解析程度までなら、生後3周期で操れる程度になる。現在は生後20周期になるタカーシも他のフーツ星人と同じく、培養カプセルから産声を上げた。
フーツ星人は父親と母親とマカ親の3人から、そのぴかぴか光る紫色のタレっぽい体液を引き継ぐ。マカ親はフーツ星人の生態独特のもので、父母の交配中にその両方の喉に次々とお餅を押し込むという大切な役割を担う親だ。フーツ星人の文化では、マカ親は父母以上に大切にされている。マカ親のお餅の出来と押し込む速度、数により、体液の紫度合いと刺激臭の濃度が変わる。その赤みが強いほど強く育つ、という迷信があり、青色っぽいと「この青タレ野郎」と虐められてしまうのだ。
タカーシは「青タレ野郎」だった。だからと言ってマカ親に恨みはない。
他の青タレ野郎の様にマカ親に対して「この餅下手!」と罵倒するなど考えた事もなかった。そんな彼を父母は誇りに想い「優しい青タレ野郎」と呼んであげた。
そして宇宙バスが宇宙信号が青になって止まり、その色が黒く大きな瞳に映り込んだ瞬間。過去の記憶信号が直径10cm程度のまあるい脳を駆け巡り、その記憶信号自体が1つの生命体としてそれぞれ意思を持っているため、頑張ったり休んだり、筋トレしたり犯罪を犯して司法当局がそれを取り締まったりするものだから、それに耐えきれなくなって宇宙バスから飛び出して、そこに突っ込んできた宇宙トラックが亜光速で彼を宇宙の藻屑としてしまったのだった。銀河全体でその日2305億飛んで23件目の事故、だった。
こうしてフーツ星人タカーシは、宇宙トラックに跳ねられたのだった。
―――――――――――――――――
タカーシが目覚めると、宇宙草が生い茂る宇宙草原で横たわっていた。
宇宙草は真四角のピンク色の草で、触るとぽやぽやする。その草先がタカーシの頬を撫で、それはとても心地が良かった。
「ここは…何処だ…?」タカーシが呟く。
するとそこに、パンパカドカーンという宇宙馬船のエンジンの音が鳴り響き、それに跨った2名の宇宙騎士が現れた。宇宙中世で使われていた宇宙甲冑を着込んでいる。騎士たちの風体もだが、宇宙馬船がタカーシには気になった。これは175205時間ほど前に使われていた古い型番のものでは?と不思議な気持ちになった。
「お前は何者だ?」宇宙騎士が尋ねたので「ぼくはフーツ星人のタカーシです」とだけ返す。すると「フーツ星?聞いたことはあるか?」「無い、どこの王星だ?」と騎士たちが訝しむので、タカーシは宇宙社員証を提示する。銀河系ならどこでも身分証明になるID付きのものだ。
「な、なんだそれは…!偉く鮮明な絵だな!」と騎士たちがどよめく。
騎士たちは社員証についた「写真」を見て驚いていたようだ。
「奇怪なやつだ!怪しい!城に連行しよう、さあ来い!」と騎士が怒鳴り、
タカーシは縄でぐるぐるまきにされて、宇宙城に連れていかれてしまったのだった。
タカーシはその間に理解した。彼も生まれてすぐの頃はよく妄想したものだ。
この宇宙はよくある中世アンドロメダ風の異宇宙で、自分はそこに転生したのだと。
ここは
宇宙船は呪文で動き
ドラゴンが宇宙を舞い
反物質剣と魔法レーザーキャノンが統べる
宙二病の者が考える
「ぼくのかんがえたいちばんおもしろいうちゅう」だったのだ。
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