Search Nestle Sugar ~#SNSでフォロワーと遊ぶ約束を取り付けたら中学時代の初恋相手が遊びに来た件~
沢田真
1件目 #失恋と呼べるほど高尚なものでも無い恋の終わりって辛いよね
俺がSNSを始めた頃、こんなことを呟いている人がいた。
―好きな人に想いを伝えないまま疎遠になってしまい後悔してる。―
俺はこれに共感し即座にメッセージを送った。
―初めまして、アオさん。自分も全く同じ経験があります。辛いですよね……―
それ以来アオさんとはよく絡んでる。近々、会う予定を立てるくらいには。
俺は藤本錦。地元の大学に通う大学2年生、20歳だ。
俺には彼女というものがいたことはない。だがモテない訳ではない。SNSで遊んでくれる人を探せば見つかるし、大学でも飛びぬけてる訳ではないがそこそこの人気はある。だから決して女性に人気がないということは無い。深入りした関係にまで発展しない、ただそれだけのことだ。
じゃあ、どうしてそうはならないのか?と問われるとそれは俺に原因があるとしか言えないだろう。
その原因は俺が中学生の頃にある。
中学の頃の俺は内気で人と話すのが兎に角苦手だった。
そんな俺は2年生のクラス替えで同じクラスになった人を好きになった。その人の名前は弐式戸葵。俺は彼女に妙な親近感を持ち弐式戸のことが気になったのだ。
最初に興味を持つきっかけは俺の名前と彼女の苗字の一部が「にしき」で被っていたことだ。
初めの頃なんかは彼女の苗字が呼ばれる度に反応しかけてしまいクラスの皆に笑われていた。それで揶揄われるなんてこともあったりした。
俺は弄りを面白さに変える程のコミュニケーション能力を持ち合わせておらず、そうされるのが嫌だった。そうなってくるとほとんどいじめになってくると言って良いい。たとえ、当人たちにはその意識が無くても、だ。
だから『弐式戸』に反応してしまわないようにと彼女の苗字を意識して学校生活を送るようにした。
結果として徐々に反応はしなくなりクラスメイトからの弄りもなくなったのだが、別な問題が発生してしまう。
それは、普通に生活をしているだけで『弐式戸』が耳に入ってくるようになることだ。今になっては学校で年中意識しているのだからそうなってしまうのは頷けるが当時は戸惑ったものだ。
遂にはあまりにも気になるものだから次第に弐式戸を目で追うようになってしまうような始末だった。
これだけで動揺し意識してしまうとはどんだけピュアなのだと過去の自分に言ってやりたい。クラスにはそうした俺の視線にも気づいてた人もいたかもしれない。恥ずかしい限りだ。
そうして進展もなく時間が過ぎていき、それら全てが恋愛感情なのだと認識したのが学年が1つ上がり、中学3年になって少しした頃だった。
その日は弐式戸は先生に頼まれたことがあると話しかけてきた。どんな伝言だったかは覚えていない。だが名前を呼ばれて妙に心臓がバクバクとし、妙な高揚感が込み上げてきたことだけは今でも記憶に残っている。それで俺は彼女のことを弐式戸葵その人のことを好きなのか、と気付いたのだ。
それからは何をするにしても弐式戸のことが頭をよぎった。朝起きれば朝食に何を食べるのか、学校に着けばどこかで話が出来ないか、帰宅をすれば今頃何をしているのか、と文字通り常に考えていた。
明らかに学校でだけ意識していたそれまでよりも重症化してしまっていた。少し見え方が変わっただけでこれとは何とも情けない。
一般的な人ならばそうまでも気になるならば話かけたりするのかもしれない。が、俺は積極的になれない性質で話しかけることがいつまで経っても出来ず、どうしても一歩引いたところで立ち止まってしまっていた。
そんなことだったから弐式戸の方から話かけて貰えた時は嬉しかった。
あの時の高揚感は今でも覚えている。
初めて話した後も数回だけだが教室に1人でいる時に「何をしているの?」とか「何が好きなの?」と特段意味もないことで話しかけられた。
そんな俺はというともしかして弐式戸は俺のことを好きなのか?とも思ったりした。が、それは違うだろう。ただ1人でいるだけの俺があまりにも不憫で優しい弐式戸が声を掛けてくれたのではないかと今になってようやく思う。
だが、その時の俺は恥ずかしい勘違いで舞い上がってしまい上手く答えられず会話が続かなかった。
それを後悔した回数など数えきれない。ふと思い出しては自分の内気な性格を恨めしく思ったものだ。
そうこうしている内に受験も終え卒業式当日がやってきてしまった。
その日こそはここで行動を起こさないといけないとは思った。何せ俺は進学校で彼女は就職するための高校と別な学校を受験していたのだから。もはや同級生として絡むことは不可能になってしまう。想い人だのなんだのとは言ってられなくなってしまう。
それを分かっていたから校舎を出る時に彼女を見かけた時も最後に告白しようとは思った。
だが情けないことに、もし嫌がられたら、もし笑われてしまったらと考えてしまった。それに、ここで断られてしまったら中学の卒業式は嫌な思い出のものとしか残らなくなってしまう。それは俺も弐式戸も。
それでは思い出す度に死にたくなってしまうではないか。そんなの絶対に嫌だ。弐式戸との思い出は悪いものにしたくない。
だから、あと1歩の所で足が竦んでしまい最後の機会を活かすことも出来ずに卒業を迎えた。
こうして俺の初恋は失恋と呼べるような高尚な代物でもないただの消化不良のまま幕を閉じるのだった。
それからというものどこか満たされない感覚が体中に付き纏うようになった。胸の奥深くの一部がどこか欠落してしまったようなそんな感覚。
その反面では良いこともあった。
最悪とも言って良い形で初恋が終わってしまい、どこか吹っ切れた俺は自分から話しかけられるようになった。そのおかげで高校では友達を作ることが出来た。
それは人と話せずにずっと1人でいた中学時代に比べれば快挙とも言っていいような出来事であった。
そうして出来た友達からSNSで人と繋がることを教えて貰い今に至る。そいつとは同じ大学に通っていて今でも交流がある位には親しい関係だ。
中学の卒業以来、当然のことながら弐式戸に再開することもなく、満たされない感覚は今でも健在だ。
大学に入ってからはそんな感覚は忘れようとSNSで人と繋がり、何人かとは実際に会って遊んだりもしている。
その証拠としてと言って良いのかは分からないが今も俺の前にもSNS繋がりの人がいる。今日会っている人の名前はハンドルネームだろうがミキさんという年上で黒髪ロングの女性だ。
この容貌で白いTシャツに黒のタイトなスカートを履いているのが何ともまた……
「またね、ニシ君」
丁度別れ際にでミキさんは「ニシ」と俺のハンドルネームを呼び、主張をし過ぎないネックレスがかかった豊満な胸元で小さく手を振っている。
ミキさんはそんな仕草1つを取るだけでも妙に色っぽい。男を誑かすためだけに洗練されたような印象を受ける。
「うん。じゃあまた、ミキさん」
俺はそんなことを気にも留めることなくそれだけ言って家に向かって歩いた。
家に着いてからは特に何をするでもなくただ酒を呷り、風呂に入って寝た。俺はSNSを通して人と直接会う休日なんかはこんな一日を過ごしている。
その翌日は日曜で大学が休みということもあり昼過ぎまで寝ていた。起きてからは昼食と呼んでも差し支えのない朝食を摂り、シャワーを浴びてSNSを開く。
SNSのDMにはアオさんからのメッセージが1通、届いていた。
―前から話していた会ってみようって話なんだけど……急だけどさ、今日の午後からでもどうかな?飲みながらでもさ。―
いきなり当日の午後から会いたいとは随分急な話だがSNSで約束を取り付けようとするとままある話だ。時間あるなら遊ばない?って感じのノリだ。
何かしら予定を入れていた訳でもないし別に良いだろう。折角誘って貰った訳だし、午後からどうしようか考えていた所だったから時間が潰れて丁度良い位だ。
フリック操作のキーボードを呼び出しアオさん宛てのテキストを入力していく。
―今日は空いているので大丈夫ですよ。今日はというよりも暇してることが多いんだけどねwww―
この後も少しDMを介してやり取りし、初めてアオさんと実際に会うことになった。
アオさんも市内に住んでいる人だから待ち合わせは最寄りの駅の前にした。都会ではないから場所の指定はこれだけで十分。人が多い訳でもないから見失うことは無いはずだ。いざとなれば連絡を取り合えば良い。
待ち合わせの時間は17:00にした。お互いにいきなり深入りするつもりもなく夕食を兼ねてのちょっとした雑談程度にしか考えていないためこれ位の時間で丁度良い。
「っと、会うまで少し時間もあるしもうひと眠りといくか……」
時計を確認すれば14時を少し過ぎた所。家族は出かけていて誰もいない部屋の中、意味もなく独り言を漏らし二度寝をすることにした。
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