ACT3. 私のお話、お聞かせします
黒の教団について話す上で、まず私の話をしよう。
まあ不思議な力だとでも思ってくれれば良い。
私は、若いころは世界でも有数の力を持った魔法使いでな。この世を
そんな私は若くして、医学の道を志した。魔法を使った医療。自分の魔法によっていろいろな人を
私が結果を出すのにそれほど時間はかからなかった。
世の中は私を絶賛し、上司は私に多くの金を支払ってくれたのだ。
その名誉は私にとって大いなる誇りだった。
私には妻がいた。
私が25歳の時に、上司から娘を紹介されて、2つ下の嫁を貰ったのだ。
太一君には、好きな子はいるかね?
……ん?何か良くない質問だったか?
まあいい。
夫婦というものは愛があるものだと言う。しかし、私たち夫婦には、そういう愛というものは全くなかった。いわば、一緒にいることを契約した仲、みたいなものだな。
だからだろうか、妻とは15年間付き添ったが、子は全く授からなかった。
妻との契約は簡単だ。
私は魔法医学の研究に打ち込む。妻は私を支える。それだけだ。
だが、ある日、その妻が倒れた。
自宅の居間で
すぐさま医療院へ連れて行った。妻は不治の病に侵されていることが分かった。
しかも、
私は
だが、私はふと気が付いた。
2年も
医療界の
その理由は、妻を見舞いに行って気が付いた。
妻は医療院のベッドにもたれていた。私の顔を見ると、満面の笑みで私を迎えてくれた。
――仕事は大丈夫?
――体は問題ない?
妻の顔色は良く、穏やかな表情だった。
しかし、私は妻が、化粧で顔を整え、顔色を魔法で変えていることに一目で気が付いてしまった。
患者服の
彼女は、隠していたのだ。
それも私に悟られないように。心配させないように。
ほどなくして、妻は世を去った。
最期の最期まで、妻は、私と会うときに化粧をやめようとはしなかった。
私は、その姿を見て、どうしても、「もういいから」という一言を伝えることはできなかった。
妻の遺品を整理する中で、私は彼女の日記を見つけた。
日記を開くとき、私はどれだけの緊張をしていたか、今でも思い出すことができる。
ページをめくる。
私は食い入るように日記を読んだ。
ページをめくる。
視界がぼやける。胸から熱いものがこみ上げて、
私は決して良い夫ではなかった。その自覚はあった。
しかし、その日記には、夫を案じ続ける妻の思いが
私の研究はうまくいっているだろうか、私に余計な気苦労をかけないようにしないと、どんなものを作れば喜んでくれるだろうか。
私の妻として、綺麗な姿のまま寄り添い続けたいという願いも綴られていた。
妻にとって、私は愛すべき人だった。
そんな当たり前の事実を、15年を経て私はようやく知った。妻にとって私との夫婦関係は、純粋な恋仲だったのだ。
私は初めて涙を流した。三日三晩泣き続けた。
そして四日目に、決心をした。心から願ったのだ。
「妻を蘇らせる」ことを。
そうして私は、秘密結社「黒の教団」を立ち上げた。
当然、この世に死者を蘇らせる術は無い。なら作り出さなくてはならない。
そのためには、人類の生死という非常に高尚で不可侵な領域に、土足で踏み込まなくてはならず、それは前人未到の旅路となるだろう。
それだけの人的リソース、物的リソース。私は世界中からそれらをかき集めて、黒の教団を巨大な秘密結社に育て上げた。世界で一番巨大な研究機関の出来上がりだ。
数十年の歳月をかけ、私は研究に没頭し、死者蘇生という偉大な魔法を生み出す足がかりを作り上げることに成功した。
しかし、いつしか私は、闇の大魔法使いと呼ばれるようになった。
禁術、禁忌、これまで他の魔法使いが踏み込んだことのない領域を限界まで広げていったからだ。それも尋常ではない手段によって。
黒の教団は、悪魔集団と認知され、とうとう抗争に発展した。
中でも、死者といった陰の部分を忌み嫌う、
だが私は妻を蘇らせるため、この戦いは骨一片になるまで続けるつもりだ。
これは私の生きる目的なのだ。
総帥は、コーラの瓶をじっと見つめている。
まるで体験してきたかのようなその話は、作り話だと分かっていたが、太一の心に
「大丈夫?」
「ああ。少し難しい話だったかな?」
「そんなこと無い。すべてを懸けて行動したその気持ち、僕には分かった」
妻に先立たれたことは無いから完全には分からないが、残された者の気持ちは痛いほど分かっているつもりだった。
「それでも前に進み続ける総帥、強い」
偽りない言葉だった。
総帥の兜が上下に震えた。……笑われている?
オレンジ色の光が、太一の目元を眩しく照らした。
露に濡れた山々は、夕日に映えて粉のようにきらきらと光っていた。
なんだか、無性にお母さんに会いたくなった。
「さて、家出少年のお帰りかな?」
何かを察した総帥は、そう言いつつ、総帥は出入り口の引き戸を開いてくれた。
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