ユウキ達
勇者冷城ユウキ視点
◇◇◇◇
アッ! ハルトが居ない! やりきれない感情が高まり堪らず叫んでしまった。
「何してくれるんじゃ湊!」
「だって、俺の友達を傷つけようとしただろ? そもそもお前、最近何かと暴走してるらしいじゃん。どちらにしても俺はお前に少しお灸を据えなきゃいけない」
「僕は至って平常運転だよ」
「平常だったら俺がわざわざここに派遣されるかボケナス! お前がカンマン王国の民衆に手を出したのは分かってるからな!」
煩いなぁ。急に怒って……高血圧になるよ?
「言っとくが、これはあくまで警告だ! ここでは命の取り合いはしねぇが、次カンマン王国に何かしたら……」
正直、目の前の疾風丸なんて眼中に無い。あるのは遠くなっていくハルトの存在と濃厚な死亡フラグだ。
うう......これはなんということだ......このままじゃ僕が復讐される側の悪役になってしまう......
盾使いのハルトが僕のキャリアにおける本当の障害になるかもしれない。
そうならない為にハルトが脅威になる前に消しておいて僕は気兼ねなく主人公ムーブをする計画が狂ってしまったじゃないか。
前世では盾がなんだかんだ強く小説で書かれてたから、この世界でもいけそうじゃんと思って盾の中の頂点、盾使いを仲間にしたのにアイツは思ってたより強くなかった。
だってアイツ盾のくせに攻撃をしなくて守りに徹するし、強制的に攻撃させたとしても初級魔法と短剣で斬りかかることしかできない。こんな奴いるか?
腹が立った僕は盾に魔物を一定数狩らないと食べ物を出さないことにしたり、集団で鉄拳制裁したりした。でも結局更生しなかったから適当に追放して、強そうな姉ちゃんを仲間に加えたってわけ。
そんなクズも少し役に立ったことはある。有り金と武器の全部を置き静かに去ったことだ。だから温情としてノーマル盾とか服とかは剥ぎとらなかったんだけど......
だけどその温情は仇として返されてしまったんだ。ハルトはこの国の王女にして凄く可愛い俺の婚約者を連れさったのだ。
こんな弱いだけのゴミクズで仲間想いじゃない誘拐犯の極悪人は万死に値するのになんで異国の勇者湊が邪魔をする!?
というかよつばちゃんは何処へ!?
いやこれは不幸中の幸いかも。ハルトは共犯者の元に戻ったはずだ。なら再度追いかけるか、それとも一回国に帰って国王に悪事を伝え国際指名手配する手もあるが......それより今大事なことはなぜ湊にここがわかったのかだ!
僕のマイハニー達はそんなことをするわけないし......ハッ!?
もしかして湊の隣に陣取ってるあのクソインキャ眼鏡野郎が情報を内通してたのか!? 見た目からして参謀みたいだし有り得そうだ。
ならやることは一つ......女だからとはいえ全員を抱くとはおもうなよ! 原型も残さずに消し炭にしてやる覚悟しろぉぉぉ!
マイハニー達に僕の能力を一時的に上げる魔法をかけてもらい奴を炭にする準備終了。湊の仲間の1人である眼鏡のクソ野郎が今から向かうところは天国でも地獄でもない。
「炎蛇狂骨!」
僕の必殺技はうねりを上げて眼鏡に直撃しそうだったのだが、湊が剣を犠牲にして守ってきた。またお前が邪魔をしたな湊!?
「よーし、ハルトは無事に脱出したようだ。いやぁ......異世界に来て今初めて主人公らしいことをした気がする! 教えてくれてありがとなアリィ!」
「いえいえリーズが異変を伝えてくれてたまたま友達の仲間さんであるハルトさんがいただけで......嬉しい」
すると湊がゆっくりと俺のマイハニーを見て、何か理解したのかうんうんと頷いている。
マイハニーの1人が何よと湊に文句を言っていると、当の本人はどこか見透かしたように笑っていてとにかく不快だ。
マイハニーの1人が再度問いかけると湊は呆れているかのように一言だけ言ったのである。その内容は僕やマイハニー達の精神を逆撫でさせるものだった。やっぱりユウキの周りは終わってる奴らの集まりだなと......
僕はその一言に唖然して固まってしまう。
僕のマイハニー達はそこ一言に口々に文句を言い始めていたが、奴は気にするそぶりすら見せず、代わりに俺達に向けたのはニコッと笑っている顔と半分煽りに近い言葉だった。
「そんじゃ目的は達成されたことだし俺達もずらかるか! ユウキの女どもの意味が分からん小言を聞きにきたわけではないのでね。ユウキ稽古楽しかったぞ~さらば!」
待てと叫ぼうとしたらその頃にはすでに疾風丸一味は誰もいなかった。後に分かったこと、それは奴らは入り口とは別に出口を作っていたらしい。僕としたことが完全に手玉に取られていた......
◇
ハルトと湊が暴れすぎたせいでガヤ共が集まり店外が騒がしくなってきたので俺とエリックは仲間達を店外に向かわせ治安維持させるように命じた。
「これからどうする? 私達は即刻プルルンド王国に向かうことにしたが......その前に店の修理代とか弁償しとくか......」
エリックが取り出そうとしていた大金を誰にも見られてないような角に迫って有無も言わさず大金を貰い、僕が代わりにその大金を修理代を店長に手渡した。
「しょうがないな~。僕が代わりにだしとくよ。ついでにこの店に必要な木材も用意してやる」
僕はこの店からギリギリ見える場所にあった木材を魔法を使い少々拝借して店の前に置いた。この魔法ホント便利。
この魔法は神様がついでとばかりくれたテレキシネスみたいなやつで、立ち止まって集中しないと動かないとか生き物やその武器は動かせないという弱点こそあれど大変重宝している魔法の一つだ。
僕の尽力の甲斐があって店長は大喜びしてくれて、ついでに一瞬で湧き上がってユウキの賞賛をしているガヤ達が居た。そしてすぐさま駆け寄ってくるマイハニー達。
「あんな不幸に見舞われたのにこの懐の良さ! やっぱりユウキは凄いわ!」
「さすがあたしを落とした男だ!」
「また好きになったわ!」
お前ら......しょうがないなぁ~
マイハニー達は一斉に俺の身体に抱きついてきたので仕方なく受け止めにいっていると、ふとエリックの目と僕の目があった。
マイハニー達のスキンシップを終えた僕は、不穏な香りを全面に押し出しているエリックにどことなく興味を持ったのでマイハニー達には適当に理由作りをして近づいてみることに。
「なんのようだ。私のお金を勝手に使っておいて今更なんの言い訳をするつもりか!?」
うわぁ......なんでエリックは怒ってるんだろう? 急に不機嫌になられてもこっちが困るんだけど。とりあえず話し合いをしたいがエリックは優等生気質のメガネくんだ。きっと2人きりじゃないと僕の話に耳を貸してくれないだろう。
なら今やることは、この空間にエリックだけを残さないといけない。エリック以外の人物は1人残らずこの場から排除しないと。
そうと決まればエリックの仲間達を強引に押し退けさせてもらい、爪を口で噛みちぎっているエリックと2人きりで少し話し合いをさせてもらいますか♪
「ごめんなさい。エリック様はユウキ様とお取り込み中らしいの。エリック一行様は外の様子を見にいきましょう♪」
お前たちナイスアシストだ。マイハニー達も何か察してくれたのかな? いずれにしてもお前達のおかげでエリックの仲間は外に出た。後でヨシヨシしてやる。
これで店には店員とエリックだけになったわけだが、やっぱり店員も邪魔だったのでエリックに頼み店の外にいるガヤ共を鎮めてくるように仕向けつつ奴らも店を出てってもらうことにした。
「わかりました! ユウキ様、エリック様! 私達にとってあなた方は命の恩人なのですけど無礼を承知してお伺いします。私達のお店の留守番頼んでもよろしいですか?」
「はぁ......しょうがないなぁ。少しだけだよ。ちょうどエリックが僕に何か言いたいことがあるらしいからさ」
「ありがとうございます。では」
さてと......これで僕と2人きりになれたね♪ まずは何から処理しとこうかな。そういえばさっき、エリックが金とかなんとか言ってたし仕方ないから僕の金を貸してみるか。
100アースだけあったら十分だろう。これで怒りが収まるなら万事解決だ!
「ほらよ金に困ってるんだろ? 貸してやるよほら」
「......おい」
思えば、異世界の金の名称と日本円名称は名前が違うだけで価値はほぼほぼ同じというのを初めて知った時は心底驚いたなぁ。この世界は日本と共通しているところもあったんだって......
おっと、昔の思い出に浸ってた。イケネイケネ。
金を返したにもかかわらず依然なぜか不満顔のエリックが無言のまま佇んでいる。そうかさてはエリックは何かプルルンド帝国についての情報も欲しいんだな? 強欲な奴め。僕は生憎そこまでお人好しじゃないんでねハハッ。
誰にも聞こえない位置で、バラされたら世間的にヤバくなる情報をエリックの耳元につぶやいておいた。これでちゃんと大人しくなるだろう。
「なんで怒ってるのかな? それでは質問です!(デデン)誰のおかげで敵対勢力を消滅させてお前がプルルンド王国の使者になったと思う? もし君がこれをバラしたとしても世間では僕は関与してないことになってるし君が不利になるだけだよ」
この呟きにエリックは小さく頷き、そして勇者ユウキに対して礼も何も言わずに仲間達と共にこの街をすぐに去っていった。エリックは金を借りているはずなのに薄情な奴だなって思った。
僕はパレンラトス王国の勇者にしてよつばちゃんの婚約者。ついでに将来的に魔王を倒す男だ。僕の存在を忘れるんじゃねぇぞ!
◇◇◇◇◇◇
第2章に続く
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