カンマン王国の勇者

 追放された盾使いとして、よつばを守るため全力で戦ったが不意を突かれて倒れてしまった。ちくしょう、結局最期まで負け犬かよ......


 ああ......今までの思い出が時系列に現れて消えていく。これが走馬灯なのかな? ハルトはどこで道を踏み外してしまったのかを考えながら死を覚悟して静かに眼を瞑る......


「スマンな。コイツは俺の友達なんだ」


 乾いた剣同士のぶつかり合いの音がして恐る恐る眼を開けてみる。


「貴様はカルマン王国の勇者。何の真似だ! なんでこんな所にいる湊!」


 殺されたと思ってた俺の目の前でユウキVS湊の剣がぶつかり合い火花を放っている戦いが展開されていた。


 よく見てみると硬く扉が閉ざされていた入り口がこじ開けられ疾風丸一味が突入してきていたんだ。


 湊はユウキと剣のぶつかり合いをしつつ汗を垂らしながらここまで来た事情を話している。


「いやあ、ハルトがこの店に入ってくのうちのアリィがたまたま見てて、よくよく店を見てみたらなんか貸切になってたからな。うん、嫌な予感がしたわけよ」


 むっ、アリィ......その名はどこかで。いや思い出した。確か、よつばが連れてきていた子だ。まさか疾風丸一味の1人だったなんてこりゃあ驚いた。


「何が起きたのかは後で話してくれればいいので、今は逃げてここから離れることに集中して!」


 力強い言葉を受け取り俺は今やるべきことをしようと思った! ありがとうアリィさん、疾風丸! この借りはいつか必ず返すよ!


 だが、そんな俺のことを阻みにくる奴らもまだ残っていた。そう、エリック一味である。


 とは言ってもエリックはやれやれと言った感じで俺を引き留めるつもりは無いようだった。するとエリックは俺ことハルトに一つ言っておきたいことがあるらしい。


「例の件、一応まだ国王の耳には入ってないが......まあせいぜい国の恥さらしにならんように頑張ることだな」


 いや、いい話風にまとめてるけど今大変なことになってるしなんならお前は俺を嵌めようとしてたんだけど? もういいやさっさとこの場から離れよう。



         ◇



「おっと、お前らはここから先には行かせないぜ。数少ない同郷同士仲良くしよや。俺は異世界生活を満喫してるがお前さんも楽しんでるか~?」


「うるさい黙れ。今お前のせいで面白くないんだ! なんなら僕はパレンラトス王国の勇者。国際情勢が緊迫しているなかこんなことが世にでてみろ。両国による全面戦争が勃発するぞ!」


「ユウキよ。これは勇者同士の衝突じゃない。ただの稽古だ。これでなんも問題ないだろ。なぁみんな!」


「やっぱり策士家だわ! 愛しの湊くん!」


 改めて状況を整理するとなんか女の子多くね? 冒険者というのはそもそもなり手が少ない筈だし、ましてや女の子が冒険すること自体滅多に無いことだと旅に出るまではそう思っていた。だが今その主観が改めて崩壊している。


 湊がヘイト誘導している間に俺は静かに逃げれる道を探してみる。それにしても湊達と知り合いになっててよかった。本当は殺されていた命を救ってくれたんだよな。


 そもそも人数的に圧倒的不利な状況でさらに勇者に勝てるわけがない。それに人同士で殺し合いとかたまったもんじゃないね。


 あっ、ちょうどいい所にかがめば通れそうな穴が! そうか、さっきからユウキがバンバン攻撃し続けてくれたおかげで開いたのか! これで誰にも気づかれずに逃げれる!


◇◇◇◇◇

次回に続く

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