異世界への扉
雪見なつ
第1話
僕が幼い時に見つけた扉。それは家の地下室にあって、家族のみんなは怖がって地下室に入ろうとしていなかった。だけど、幼い時の僕は地下室のどこが怖いのか全くわからなかった。
その日、僕は親と喧嘩をして地下室に行った。地下室は煉瓦の壁となっていて、一つの扉のみがあった。
僕の家は決してお金持ちというわけではないが、両親たちはこの家は安かったからと買ったらしく。二階建ての立派なお家で、両親と兄弟三人の家族だが一人一つの部屋があるくらい大きい。扉も立派な木目調の扉で、部屋も広い。
それなのに地下室は蜘蛛の巣が張り巡らされ、埃が積もっている。
僕が見つけた扉もドアノブがガタガタと外れそうだし、扉の一部は湿気で色が変わってしまっている。
その時の僕は何を思ったのか、その扉を開けた。
その先の世界は異世界だった。
今の僕は中学三年生。受験勉強に追われ、机に噛み付く日々を送っている。学校に行っても勉強。家に帰っても勉強。ほんとに嫌になる。
「陸都〜。勉強してる?」
後ろから急に声をかけられ驚き振り向くと、そこには扉を少し開けて顔を覗かせた母がいる。
「してるよ」
素っ気なく返すと母は「良かった♪」と上機嫌になって戻っていく。
僕は深いため息をついた。三十分に一回で巡回するんだから、ため息も吐きたくなる。
「もうそろそろ行くか」
僕は徐に立って、そっと扉を開ける。左右確認。よし、クリア。忍足で廊下を歩き、階段を降りて地下室に向かう。
勉強をサボってるのバレると母はうるさいから、静かに行かないと行けない。
今回はバレずにこれた。地下室に来るともう安心。誰も来ないからだ。
地下室にある扉のドアノブを捻る。ゆっくりと扉を開ける。真っ白な壁が現れる。その壁に身を投げると、僕は別の世界の住人になるのだ。
この扉は、原理はわからないが異世界につながっている。来るたびに世界が変わり、今まで僕は、王子の子供だったり、勇者だったりと様々な人生を歩んできた。見た目と年齢は変わらないし、現実の方は時間が止まっているみたいだ。問題は時が止まっている分、他の人より長い時間行動をしてしまうわけだから、疲れることくらいだろう。
だけど、疲れよりも異世界に来てのリフレッシュは現実世界でのストレスの発散場所として最適だ。
今回はどこの世界だろう。ウキウキしながら、目を開けると、そこには青い海が目の前にある街のど真ん中にいた。
目の前には高い時計塔と、大聖堂があって写真で見たベネチアにあるサン・マルコ広場を思わせるようだ。
たくさんの人で賑わい、人力車のような物を引く男の人は、布のお店らしく後ろにはたくさんの布を積んで「布入りませんか?」と客寄せをしている。
その男の人と目が合った。
「おい、陸都。お前も客寄せをしてくれ」
その男は確かにそう言った。そういうことだ。今回の世界の僕は布を売る仕事をしているのだろう。もしくはあの人の弟子か。どれかか。
「はーい」
その男に近づいて一緒に布を売った。布はシルクのような触り心地のものから、硬いものまで様々なものを売っている。
「お前の着ている服も、俺が売っていたものさ。良い着心地だろ。俺の売っている布は一級品さ。世界を飛び回って見つけた生地を使ってるからな。さぁさぁ、売ってきな」
男は僕の背中を叩くようにして押した。これは離れて宣伝してこいということだろう。
俺は小走りで人混みの方へ向かった。
確かに着ている服は上質なものだった。
この街は結構入り組んでいて、まるでアリの巣のように複雑だ。道が一本一本狭くて人が三人並んで歩くのもきついくらいだ。
それでも、そこには店が開かれていて人の熱気が凄まじい。
「布は入りませんか。広場でいい布ありますよ」
着ている服を見せながら宣伝していく。
「行こうかしら」「買おうかしら」と好印象を持たれているようだ。
どこかやり切ったようなスッキリした気持ちになる。やっぱりこっちの世界はいいな。ストレスも吹っ飛ぶようだ。
僕がお店に戻ると店は大繁盛していて、男も上機嫌だった。
「よくやったぞ。今日はご馳走だ」
男はワシワシと頭を撫でた。
満足した。そろそろ帰るか。
「おじさん、僕もう少し打ってきますね」
僕は走って人混みに紛れる。
僕は元来た扉を探す。ボロい開いたままの扉。
それがこっちの世界と元の世界を繋ぐゲート。大抵、元いた位置にあるから見つけるのも簡単だ。
今日も同じ位置にあった。
僕はその扉を抜けて元の世界へ帰った。
異世界への扉 雪見なつ @yukimi_summer
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