第10話 Bad 1
楽団長を決めている側近の名前はマリシャス
前陛下、つまり現在の陛下の父親が即位した頃から
側近として公務を務めてるという
長くに渡りこの国の参謀を務めてるだけに
陛下の信頼も厚いのだろうか?
だが長期に渡って務めると言うことはこいつの
思念、思想が国に根付いてしまってる事は間違いなく
悪い風習となっているだろう
別に音楽だけの話ではない
重要ポジションも本来は開かれた場所で
競争がないと意味がない
新しい風を嫌うマリシャス
悪事の1つや2つはあるはずだ
こいつに近い存在から何か聞き出せればいいが...
先日アンダンテから話を聞き出した通り俺のギターは
使わせてもらえなかった
代わりにクラシックギターを支給された訳だが
普段ピックで弾いているため指で弾くのは慣れていない
楽団を変える為にも自分からの技量を上げておかないと
自由に行動出来ないな
全体でのミーティング、もとい俺の楽団加入のための集会となった
「初めに紹介する奴がいる、前に来い」
楽団長レガートにそう言われ団員の前へと出る
「今日から王立交響楽団に入団する、ユヅルだ、演奏については知っての通り奇妙な楽器に奇妙な音楽、我々に必要とは思えないが陛下の推薦だ、しっかり指導する様に」
襲いかねない程の強い眼力で俺を睨みつける
こいつかマリシャスの弱みを握れば陛下に何かしらの報告が出来るだろう、早く尻尾を掴みたいが
ここは下手に出るしかない
「初めまして、ユヅルと申します、演奏については先日大半の方が見たと思うので紹介は必要無いと思います」
「皆さんの足を引っ張らないように努力します、宜しくお願いします」
「演奏もこのくらい謙虚なら良かったものを、戻れ」
皮肉なのか分からんが嫌味な奴だ
俺は怒りを抑えてアンダンテの隣へ戻る
謙虚な態度が意外だったのか困惑した様子の
団員も複数見受けられた
俺をなんだと思っていたんだか
「3ヶ月後のミネバ様三周忌の式典が迫ってきた、各自気を抜くな!特に新入り!お前は足を引っ張るなよ!」
「陛下の推薦とはいえ使い物にならなければクビだ!」
部屋の外まで響くように威圧された
こういうやり方をする奴は根本的に嫌いだ
「アンダンテ、ミネバ様って?」
「前陛下の事よ」
ああ陛下のお父さんが亡くなって3年経つのか
即位して3年か...まだ始まったばかりなんだな
改革したい事は沢山あるはずだ、この楽団が国を変える1つのきっかけになればいいんだが
その日のミーティングはすぐに終わった
楽譜を渡され部屋に戻って確認する
演奏するボリュームは全体の半分くらいか
無理なく練習出来る量で助かった
今日は練習に時間を割こう
部屋に篭りひたすら練習をしていると
コンコンと軽い音でノックが鳴った
「ユヅル?入るわよ」
アンダンテと楽団のメンバーが入って来た
「ちょっと良いかしら?紹介したい人があるのだけれど」
「休憩しようと思ってたからちょうどいいよ、どうぞ」
紹介されたのはアンダンテの隣にいる背の高い女性
「初めましてユヅル、私はプレスト、バイオリンを弾いているわ」
「彼女は主旋律を弾く事が多いの」
なるほど、この人がいわゆるエースなのか
「はじめましてユヅルです、よろしくお願いします」
「かしこまらなくていいわ、ユヅル、率直に聞きたいのだけれどさっきのミーティングで楽団長が陛下の推薦でと言っていたけどあれは本当?」
感づかれている?
「ええと、まぁ、あの演奏を聴いて面白いと思ってくれたみたいで...」
「詮索する様な聴き方でごめんね、私はあなたの味方になれると思うから今日来たの」
「それはどういう意味?」
「今まで閉鎖的な楽団に急に外部の人間が講堂で演奏、しかもその1人が楽団に入団なんて何かあると思わない方がおかしいわ」
そうだよなぁ、怪しさ満点だよなぁ
「遅かれ早かれ誰かには話すつもりだったけど...2人を信じて話すね」
「予想してる通りだと思うけれど、私は陛下に頼まれてこの楽団を変える為に来たの、変えるって言うのは具体的に何をするとは決まっていないのだけど、変化が起きる事を陛下は望んでる」
「1番てっとり早いのはこの楽団のクーデターね、新しい事を取り入れようとする意欲のある人が楽団長になってもらうのが理想的だと考えてる」
「ただ、その為にどうすればいいか、先ずは探りを入れようとしてる所なの」
「話してくれてありがとう、ついにこの時が来たと言ったら今まで私達は何をやってるのかと怒られそうだけど...」
「本当はこの楽団をもっと良くしたいと常々思っていたわ、ただ過去に変えようとした人達が音楽を辞めている現実に恐れてしまって...」
やはり変えたいと思っている人はいるのか
反旗を翻して逆に自分に不利な立場になりたくなかったのか
「そう思っているなら協力して!楽団長を変えるために側近のマリシャスかレガートの弱みを握りたいの!」
「分かったわ、何か力になれる事があれば協力するわ」
そう言って彼女達は部屋を出て行った
成り行きで本当の事を話したがこれで良かったのか?
彼女達が本当に味方になってくれる保証は無い
今の体制でも生活が保障されるんだ、変わらない方が良いと思う人が過半数でもなんらおかしくない
仮にマリシャスやレガートの味方だとすれば
さっさと俺を追い出したいだろう
この場合、俺が次にするべき事は...
次の日、さっそく全体練習でケチがついた
「おい、新入り!お前何をやっているんだ!楽譜通りに弾け!そんな事も出来ないのか!」
楽団長レガートの叱責が飛ぶ
楽譜通りに弾くとダイナミクスも無いし本当にクソつまらない演奏なのだが...
これがこいつらの美学なのか...
正直大人しくしてるのは性に合わないし面倒だ
多少事を荒げて良いと陛下からお墨付きなんだ
良い子ちゃんはもう辞めだ
「楽譜通りに弾いた結果、今のつまらない演奏ですがそれで満足ですか?」
「私達の講堂での演奏、あれを聴いて何も感じないのであれは音楽を辞めた方がいい」
煽りに煽った
こっちも沸点が低いんでね、バチバチにやらせてもらう!
「ふざけるな!!お前こそ音楽を知った風な口を聞きやがって!若造のお前に何が分かる!」
「ふざけていません、音量を全て均一にすればダイナミクスが無くなり抑揚が出ません、この曲は終始弱い曲ですか!?他の方はどう思いますか!?」
団員に振ってみるも誰もリアクションが無い
自分の保身に必死なのだ
アンダンテもプレストも何も言わないのが
いささかショックではある
「もういい!!出て行け!!」
強制的に退出させられた
こんなんじゃ改革が全く進まないな、せめて多数決で
物事を決められれば良かったのに
その日、陛下の部屋に呼び出された
「こいつと2人で話すことがある、皆は外せ」
そう言って兵士から何まで、部屋から出した
マリシャスが用事で居なかったのは都合が良いな
「楽団長から話は聞いた、女の癖に喧嘩っ早いな」
あまり怒ってはいない様だ、だがこの先どう進めるか?
という事を聞きたいのだろう
「お褒めの言葉と受け取っておきます」
「さて、楽団が変わらないのは楽団長の方針が全てです、楽団長が革新を望む人間に変われば問題ありませんが側近のマリシャスがそれを許しません、この2人をなんとかしなければこの先も変わらないでしょう」
「ふむ、人事については常々刷新したいと考えているが...2人はこれまでの功績もあるから無碍には出来ん」
「彼らが不正を働いている、そんなスキャンダルがあるなら話は別だが」
不正か、悪い事の1つや2つはやってると思うんだが
更迭されるようなものはあるんだろうか
そもそもそんな噂を聞いていない
「もしかして、変えられないのか?」
そんな事をついつい思ってしまうくらい
進展を想像出来なかった
完全に暗礁に乗り上げてしまった
Bad
To be continued
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