マイナーゲームが好きでもいいですか

雪幡蒼

第1話 まさかの同士、見つけちゃった!?

 春、それは出会いの季節とはいうがそれはみんなに当てはまることなのだろうか?

 僕、堀田宗助は高校に入学してすでに3週間が過ぎようとしていたところだが平凡な高校生活をしていた。

同じ中学から進学したやつの多いこの高校で中学時代からの付き合いの友人もいれば新しくできた友人もいて交友関係は良好だった。

 だが少々誰にも言えずもどかしい部分もあった。

 それは……僕はゲームが好きだ。男子高校生ならばゲームが好きなのは普通じゃない?と思われそうだがもちろんその通りで最新のスマホゲームからソーシャルゲームまで流行はばっちりだ。

 だけど誰にも言えない趣味、それはやや古い昔のゲームが好きだということだ。


 だから何なの?と思われそうだが趣味の多様化のこの時代、スマートフォンがあれば最新のソーシャルゲームがアプリをインストールすればいつでもプレイでき、若い層に人気なのは常に大手ゲームメーカーが作ったメジャーなシリーズのナンバリングや期待の話題作ばかり。

 それはそうだ。若い層は流行のコンテンツが好きで常に流行の最先端にいたい。ぼくもまあ普段はそうだ。そのため友人の間で流行しているゲームをおすすめされればプレイしたりもする。

 そんな小学校・中学校時代を過ごしていたこの趣味だけは家族・親戚を除いて学校生活の友人には言えなかった。なんだか自分なりに「流行のゲームじゃない古いコンテンツが好きださいとか時代遅れだのと思われないか」と不安だったからだ。

「今時の若者なら流行の最先端のコンテンツにはまるべし」みたいな風潮がある世の中だからこそ、今までは友人と話を合わせるためにも流行のコンテンツを追っていた。

 高校受験も終わり、入学してしばらくが経ち新しい環境にもなじんできた今家が近所同士ばかりの付き合いの中学までと違い幅広い交流ならそういった趣味を持つ人がいないかと期待したが世の中そううまくできていないわけで。

 ゲームが好きなことを加えて好きなゲームのイラストを描いてるうちに習得したイラストを描けるという特技を生かすために部活動はこの高校のゲーム研究部に入部することにした。

 ゲーム研究部はボードゲームからコンピューターゲームなど様々なゲームを研究して好きなゲームの考察を立てたり、もしくはイラストを描いたりする部活だと入学前にこの高校の資料で知った。

 しかし去年までは活発だったがその活動を主にしていた上級生が卒業したらしく今年からは残された部員が普段は主な活動をしない廃部寸前の部活動になっていた。

 このゲーム研究部にも一応他にも部員はいて各他の部活動とともに兼部だったり、放課後は塾やバイトなどで来れないといった幽霊部員が多い部活だった。

 それでも僕はただ一人、まだ入学式からそんなに経過してない今なら新しい部員が増えてそこで趣味が合う仲間ができないかと期待して毎日誰も来ない部室で一人イラストを描いたり、部室のゲームの資料を読んだりして考察するなど活動をしていた。

 部室にあるスケッチブックやイラストを描くペンなどの文房具を使い1日1枚のペースで毎日イラストを描いていた。部室には一応パソコンとデジタルでイラストを描くための道具などがそろっていてペンタブなどもあるのだが僕はまだそれらは使わずにいた。

 まだの部活には入部したばかりで特に気合の入った作品を描き上げるつもりもないのに使用するのも……という理由からだ。

 そんな理由からしてまだまだ僕がこの部室の機材を使いこなす日はないと思っていた。

 今日はいつも通りにアナログでスケッチブックにイラストを描き上げることにしたがかなり手の込んだカラーイラストを描くのに夢中になってしまい、気が付けば下校時間のアナウンスが鳴っていた。もう部活が終わる時間だというのに今日は熱中したあまり時間を忘れて遅くまで残ってしまった。

「そろそろ帰らないとな」

 時計を見てそう決める。その日の活動記録を部室内にある日誌に書き込み1日が終わる。

「さあ、帰るか」

 通学鞄に筆記用具をしまい込み、部室を出ようとする時にスマホが鳴った。

 通知が入っていてそれは中学時代からの友人でクラスメイトであり生徒会所属の友人である保田からだった。

 内容は「帰り道に鞄を見て気づいたけどお前に借りた本、放課後に音楽室に訪れた時に持ってて荷物下した時にそのまま音楽室に置いてきちまった」とのことだ。

 僕は文庫本の貸し借りをよくする。いつもは字授業が終わった後に部活へ行く前に返してもらうが保田は今日一日、日直当番で忙しく返しに来る余裕がなくて部活動へそのまま漫画を持って行ったとのことだ。 内容からするともう家に帰った後で気づいたらしい。

「まいったなあ。あの本、まだ僕全部読んでないんだけど」

 その趣旨について返信すると即座に「今日はこの後用事があってもう学校へは取りに行けない本当にすまない。もしまだ学校内に残っているなら直接音楽室に取りに行けないか?音楽室の後ろのロッカーの上に置いてあるから。手間かけさせて悪いな」と返信が来た

 場所がわかっているなら自分で取りに行くか。「了解」と返信を送り、僕は音楽室へ向かうことにした。

 今日は遅くまで残っていたこともあり、とっくに部活動が終了した放課後の校舎は人がまだらだった。

 今日はもう体育館に居残りで練習をしていた運動部員くらいしかもういなかった。

 春とはいえまだ肌寒いこの時期、ひんやりとした空気が廊下を包んでいた。

 音楽部が使っていた音楽室へ向かい、いざ音楽室の引き戸の前に立ち止まると誰かがピアノで演奏しているのかピアノの音が聞こえた。音楽部か誰かの演奏だろうか。

「下校時間過ぎてるしもう部活動は終わったんじゃないのか?」

 まだ居残りで誰かがピアノの練習をしているのかと、人がいるところ音楽部員でもない自分が音楽室に入ったらどう思われるだろうか?ここは練習が終わるまで待つべきじゃないのか、などと考えていたが気づいたら僕はピアノの演奏に集中していた。

「あれ、この曲は……」

ピアノの音でありながらリズム感のあり、ずっと聞いていても飽きない曲。

 僕はこの曲をよく知っていた。

 

 僕は昔から大好きなゲームがあった。

それは二十年前に発売されたゲームで世間的には大ヒットとまでいかないがそこそこの売り上げを記録したコンピューターゲーム「プラネットノース」というゲームだ。

 僕には年の離れた母方の従兄弟がいて家族で親戚付き合いの深い僕はその従兄弟・黒井輝と仲が良かった。

 その従兄弟は僕より年が離れてる分、好きなゲームや漫画にはいつもタイムラグがあった。

 8歳も離れているのだから当たり前といえば当たり前なのだが。従兄弟はいつも自分がクリアしたゲームソフトをよく僕に譲ってくれた。

 その為に僕はやたら自分の同級生や同世代に流行っているゲームよりも年齢的に一回り離れている従兄弟がくれるゲームにはまることが多かった。

なので子供の頃から同級生が最近発売されたばかりの最新のゲームをプレイしている中、僕は従兄弟が譲ってくれた発売されたのが年単位で古いゲームをプレイすることが多かった。

 その中でも特にはまったのは小学5年生の時に従兄弟がゲームソフトをくれた「プラネットノース」というゲームだ。

 ゲームが2Dから3Dに変わる時代に発売された20前という昔に現役だったハードのゲームなので今のゲームよりはるかにグラフィックの質は劣るがよくできたストーリー、魅力的なキャラ、タイトルの通り宇宙が舞台で複数の惑星を冒険の舞台にしたこのゲームは大好きだった。

 複数の惑星を冒険するSF要素のあるストーリーでありながら舞台になる惑星は文明レベルの低い中世ヨーロッパ風の場所だったりでそこを主人公一味が冒険する。

タイトルに入っている「ノース」というキャラクターがストーリーの重要なカギを握り、そのストーリーも名作だ。

 まさにSFの良い部分と従来のファンタジー要素もこめた素晴らしいゲームで、登場人物も魅力的なキャラばかりだった。

 タイトルロゴには惑星をモチーフにしたロゴが入り、僕の今までプレイしてきたゲームの中でも人生をかけたほどに一番大好きなゲームだ。

 僕が生まれる前に発売されたゲームで、当然ながら同級生でそのゲームを知っている人はいなかった。

 だから同じ年の友達同士でこのゲームの話題をすることはなかったけど、プレイした時はそのゲームの魅力にはまり、そのゲームソフトを譲ってくれた従兄弟だけが唯一のこのゲームについて語れる仲間だった。

 しかし同級生でこのゲームを知ってる人がいない寂しさを味わったのでそこは辛かった。

 中学生になり、自分のスマートフォンとパソコンを持たせてもらえるようになった時、インターネットが使える環境になったのをいいことに僕はさっそくそのゲームについてネットでよく調べた。

 ネットでは「プラネットノース」を制作したゲーム会社のサイトを閲覧し、掲示板やSNSでこのゲームの好きなファンがネット上にたくさんいると知ったのだ。それだけで嬉しかった。

 しかしこのゲームはダウンロード配信が当たり前になった現代でもなお配信等はされていない。

 今の時代は昔の大ヒットゲームなどは配信で現代のハードやもしくはスマートフォンでプレイできるのが当たり前だ。

 しかしそのゲームは現代のハードに移植もされておらず配信もなく今の時代に新しくプレイすることが難しいゲームだった。数々のゲームは著作権だとか制作会社の倒産とかですべてのゲームがデータ化するのは難しいなど様々な事情があるのだ。

これもそんなゲームの一つで現代のハードでプレイすることはできなかった。

 それだけ今の時代にはプレイしてる人が少ないゲームだった。


 そして今、音楽室から聞こえるピアノの演奏はまさにその「プラネットノース」のタイトルテーマのBGMだった。

「この学校に今時こんな昔のゲームの曲を知ってる人がいるだと!?」と僕は驚き、誰がこの音楽を演奏しているのかが気になって戸を開けた

 ガラッと音楽室の引き戸を開けるとピアノの演奏は止まり、シン…と静まった。

広々とした音楽室にはピアノと机があり、各楽器が並んでいてピアノを弾いていた本人ことピアノの奏者が目に入った。

 僕が音楽室に入ると奏者はピアノの演奏をやめて僕を見つめた。



 そこにいたのは同じクラスの女子生徒・三島加奈だった。

 三島さんは僕と同じクラスでおっとり系の女子生徒だった。髪には花柄のヘアピンを付け、肩まで伸びた長さにパーマをかけた髪。大きな瞳にブレザーを押し上げる胸。スタイル抜群で別名「ピアノの王女」クラス1の美少女であり、クラスの誰もが知る存在。うちのクラスの男子からは憧れの的である。

 入学からそんなに経ってないが三島さんはクラスでも人気があり、いつも女子から囲まれているような女子生徒だ。

 だから僕にも特に印象が残っているクラスメイトだったが僕とは接点の薄い存在だった。

 その僕にとっては高嶺の花である彼女がなぜあのゲームの曲を演奏していたのだろうか?

 入学式の自己紹介の際にピアノが趣味と言っていたからピアノが好きでひいていたのかもしれない。

 しかしそれならばピアノの曲なんてクラシックでもいくらでも弾くものはあるだろう。

「なんで三島さんあのがゲームの曲を?」とそのチョイスが気になった。

よりによってマイナーな古いゲームの曲を演奏していたなんてやはり聞き間違いではないだろうか?

 とっくに部活の終了時間も過ぎ下校時刻になってそこそこ経った音楽室は1時間前まで部活で使用されていただろうが今は僕と三島さんの二人だけだった。


 三島さんは慌ててピアノの蓋を締めた。音楽室にシン…とした沈黙が広がり気まずいムードになる。

 いきなり放課後の下校時刻にクラスメイトが演奏中に音楽室に入ってきて演奏を中断する羽目になったのだ。ましてやそれが人に聞かれたくない演奏であれば恥ずかしいかもしれない。

 沈黙に耐えかねて何か言わないと、と僕は言葉を出す。

「あ、えと、いきなり入ってきてごめん……」と謝罪をすると三島さんは少々頬を赤らめて照れたような表情をしていた。

「えと、同じクラスの堀田くん……だよね?もうみんな帰った後だからピアノ使ってたんです。まさか人が来るなんて思わなくて……。」

 なんとか話を続けようとする三島さんに合わせて僕も発言する。

「うん。今日は友達が音楽室に忘れ物をしたから代わりに取りに来ただけで……」

 再びシン……となる空気。

 大して今まで話したこともないクラスメイトとの空気は気まずいものだった。

「す、すいません!用事が済んだらすぐ出ていきますんで!」と言うと、とりあえず僕は友人が音楽室に置き忘れた文庫本を回収することにした。音楽室にある後ろのロッカーの上を見ると目的の物はあった。その文庫本を通学リュックにしまいこむ。

 三島さんはその間、ピアノの前で演奏を聞かれた恥ずかしさからかなのかまだうつむいていたように見えた。

 彼女はなぜこんな時間に音楽室にいたのだろうか?彼女も音楽部の部員だったのだろうか?それならば居残り練習をしていたのも頷ける。しかしそれがなぜあの曲だったのかは謎だが。

 先ほどからうつむいたままの三島さんは気分下がり気味なようにも見えるのでとりあえず声をかけることにする。やはり先ほどの曲が気になっていたのだ。

 僕はかまをかけるつもりでわざとそれに触れてみた。

「ピアノ、お上手ですね。さっきの曲って昔のゲームのテーマっぽいですよね。なんか聞いたことあるなーと思ったので」

 これでは見え見えのかまかけじゃないか、と発言した途端恥ずかしくなったが僕の口はなんとなく止まらなかった。

「確か「プラネットノース」ってゲームのタイトルテーマじゃなかったっけ?」

と、つい知ってるタイトルを言ってしまった。

 本当はその曲について詳しく知っているがあまりしゃべったこともない相手にいきなりガチなことを言うのも引かれると思ったのであえてゆるやかに言うことにした。

もしも彼女がこのゲームを知らないが音楽だけを引いていた可能性もあるのなら、そこはふんわりとゆるく言う方がいいと判断したからだ。

 先ほど演奏していた曲について触れると彼女はぽつりと言い始めた

「マイナーな曲なのに知ってる人がいるなんて……」と言うと続けてしゃべり始めた。

「かなり昔のゲームなんです。私が生まれるより時代より昔に発売した」

彼女はそのまま言葉を続けた。発売した年自分が生まれる前、と知ってるということはやはり彼女もこのゲームを知っているのだ。

「だけど同じ年でこのゲームを知ってる人に今まで会ったことなくて。でも大好きな曲だったから誰もいないことをいいことにちょっとピアノでひいてた。堀田君が昔のゲーム知ってるなんて意外だなって思った」と三島さんは言った

「いや、それは僕も同じだよ。なんか聞いたことある曲だなあーと思ったらついびっくりして誰が演奏しているのか気になっちゃて……」

僕はその勢いでそのまま言葉を続けた。

「本当は友達の忘れ物を取りに音楽室に来ただけなのついさっきまで廊下で聞いてました。盗み聞きしたみたいでごめん」

「ううん。私も無断で音楽室のピアノ使ってたし……。ちょっと今日は用事があって帰るの遅くなって誰もいなかったからちょっとだけ学校の音楽室のピアノ、ひいてみたかったの。でも堀田くんもこのゲーム好きなの?」

と淡々と話した。どうやら三島さんは音楽部の部員というわけではないようだ。

まともに話すのは初めてのクラスメイトだったので意外だったが三島さんは結構しゃべる人だ。

「ええと、まあ、昔プレイしたといいますか……」とちぐはぐに答える。

「ふうん……」と言うと三島さんは「うーん……」と考え込んだ素振りを見せた。

このままここにいても仕方ない、と思い「僕はもう帰るね」と切り出した。

「じゃあ、またね三島さん」

「うん、ばいばい堀田君」

挨拶をして音楽室を後にした。



「まさかあのゲームを知ってる人がいるなんてなあ」

 僕は帰り道に先ほどの音楽室での出来事を思い出しながら帰り道を歩いていた。

 本当はあのゲームを年の近い人、ましてや同じクラスの同級生で知ってる人がいるなんてという驚きだった。今まで生きていた中であのゲームを知ってる人物で実際に会ったことがあるのはゲームをくれた従兄弟だけだった。

 小学校でも中学校でも何年もあのゲームを知ってる人を探したが巡り合うことはなかった。

 初めて出会った親戚以外のプラネットノースを知ってる人との会話はあのゲームのことをどこまで知ってるのかもう少し話したい気分だった。

しかし大して仲良くもない相手にそんな話題を振る勇気もなくそんな図々しさもはなはなしいものだ、と思った。

 単に三島さんはネットなどで単にあの音楽を知っていただけかもしれない。動画サイトや配信などでいくらでもゲーム音楽を知る手段はある。あのゲームの曲を弾いていたからあのゲームが好きともかぎらない。 

 ネットに昔のゲームのプレイ動画が錯乱している今の時代なら昔のゲームの曲を知る機会なんていくらでもある。

 彼女はピアノが好きなのであってたまたまインターネットでこのゲームのことをちょっと知ってその音楽を聴いたからピアノ演奏していただけという可能性もある。

いきなり大して話したこともないクラスメイトにあれこれ根掘り葉掘り聞かれるのは嫌だろう。この件については特に深入りしない方がよさそうだ。

 きっと三島さんだって明日になれば忘れてるかもしれない。

 元々音楽室にいたのだって僕が来るとは思わなかったことみたいだし、ましてや一般曲でもない音楽をピアノでひいてたとかちょっと変わってること誰にも知られたくないかもしれない。

この話は誰にもしないでそう思うことにして帰路についた。


 翌日、いつも通りに朝の登校時間に教室に来た。

 教室内はいつも通りの風景でまたいつもの朝が始まろうとしていた。

 しかし、そこでいつもと違う展開が始まった

「あの、堀田くん。ちょっといいかな……?」

 自分の席に着くやいなや声をかけてきたのは昨日の放課後音楽室で会った三島さんだった。

 三島さんの方から話しかけてきたのだ。

「あ、おはよう三島さん。昨日はどうも」と軽く挨拶をする

 今まで三島さんと教室で話したことはない。まともな会話をしたのだって昨日が初めてなのに。

 ましてやクラスのマドンナ的な美少女と会話なんて普段はしないのだ。昨日の今日で一体なんの用事だろうか?もしかして昨日の件を誰にも話してないかとか聞きにきたのか?と思ったがなにやら三島さんはうずうずしていた。

「あのね、お話があるんだけど……。」

 やはり昨日のことだろうか?誰にも言わないで、といった件かと思ったが三島ささんは意外な言葉を発した。

「今日、よかったら放課後付き合ってくれないかな?」

何かと思いきや放課後の誘いだった。

「なんか用があるなら今聞くけど」

「ううん、ここじゃダメなの! 放課後、お願い!」

 三島さんは必死な表情をしていた。その表情からどうやらここではダメな理由があるのだと察して話を合わせた。

「わかったよ。じゃあ放課後に」と了承すると三島さんの表情は満面の笑みになり

「ありがとう!じゃあ放課後、体育館の裏で待ってるから!」と待ち合わせ場所を伝えて去っていく。

 彼女を見て昨日初めてしゃべった相手に懇願するほどのことってなんだろう?と思うがすべては放課後にわかる。


 放課後、ぼくは体育館の裏の待ち合わせ場所に来ていた

 部活動で毎日人がいっぱいいる体育館の中と違って体育館の裏は誰もいなかった。

 外は静かで体育館の中の部活動をしている生徒達の声が聞こえる。


 こんな場所で待ち合わせ、とは何だろうか?

 そもそも今までまともに話したことのないクラスメイト、ましてや女子と話なんてできるだろうか?とそわそわしながら待っていると三島さんが来た。

「おまたせ!」

 三島さんが急いできたのか息を切らせながら走ってきた。

 ふうふう、と息を落ち着かせて三島さんは話始める。

「堀田くんってなんの部活に入ってるの?」

「ぼくはゲーム研究部で……といっても部員はそんなにいない今は僕しかまともに活動していない部活なんだけどね。そういう三島さんは音楽部?」

 昨日音楽室にいたのでそれに関する話題を出した.

「私はまだ部活入ってないんだー。何にしようか決められなくて。昨日は私がピアノ得意って知った友達の紹介でちょっと音楽部の見学がてらに音楽室にお邪魔してたけど」

 なるほど、それで昨日は音楽室にいたのか。それで部活が終わった後も残ってピアノをひいてたと。

 それでなんで今日は呼び出されたのだろうか?と彼女を見ると

「あのね、あのね……私……私……」と何かを言いたげな気味の表情だった

この展開は……まさか漫画でよくみる告白?なんて一瞬ドキドキしていした。

三島さんはスゥと息を飲み込み、覚悟を決めたような表情で言った。

「私、『プラネットノース』が大好きなの!」

三島さんは思い切ったように発言した。

 告白ではなかった。僕の一瞬でも持った淡い期待は敗れる。

あの音楽を演奏していたからには三島さんもあのゲームを知ってるのではと思ったが。

「昨日、堀田君があの曲をあのゲームの曲っていってからずっとそのことについてお話したくてたまらなかったの! でもあのゲームを同級生で知ってる人いなくて……だから初めてあのゲームを知ってる同じ年の人、しかも同じクラスにいて出会えたなんて奇跡とすら思えて……だからお話したくて!」

 三島さんは同士を見つけた嬉しさかしゃべり方が昨日と違った。

「ねえ、堀田君もあのゲームやっぱり好きなのかな? 昨日昔プレイしたって言ってたよね?」

興奮気味の三島さんに僕は答える。

「まあね。僕もあのゲーム好きだよ」

「やっぱりー!」

期待通りだ!といわんばかりに三島さんの目は輝いていた。

「だけど三島さんと同じで僕もあのゲームを知ってる同級生に会ったことなかったなあ。だから昨日は三島さんがあのゲームの曲をピアノでひいてたからびっくりしちゃった」

「うーん。そっかあ。そうだよね」

三島さんは納得すると「ねえ、どうせならもう少しじっくりお話しない?」と言った。

これからそのゲームについての話をしよう、と来たものだ。

しかし僕もまんざらそのゲームの話がしたい、というのは同じ気持ちだったので学校の外のカフェに行くことにした。


 春は日が長くなったとはいえまだ暗くなるのが早く、カフェの外はもう次第に夕焼けが黒くなりつつあった。

 僕たちは学校の外にあるカフェに来て、席に座り、注文をした後さっそく話が弾んでいた。

 放課後ということもあり、カフェの店内にはちらほらと僕達と同じ高校の制服を着た生徒がいた。

「堀田くんはあのゲームをどこで知ったの?」

まずはいきなりその質問からだった。

「二十年前じゃ私達がまだ生まれる前のゲームだし、配信や移植もないし。気になるなあ」

 三島さんはその話題を出すとウキウキした表情で訪ねてきた。同士を見つけた嬉しさなのか昨日とは態度が違った。

「僕は年の離れた従兄弟がいてね。その従兄弟昔自分がプレイし終わったゲームだからソフトをくれたんだ。よくゲームソフトのお古とかもらってたからそれもその勢いでプレイしたみたいな感じだなあー」

「へー、そうなの?そんなことがあったんだあ」

「そういう三島さんはどこで知ったの?」

「私はねー。小学生の頃とか女の子だからってことであんまりゲームとか買ってもらえなかったの。ほら、女の子ってシール集めとかプリクラとかもっと可愛い遊びしなさいとか言われてね」

 ゲームを女性がするのが珍しくないこの時代だが家庭によってはテレビゲームは小学生女子にはハードルが高い場合もあるようだ。

「でもお兄ちゃんがいっぱいゲームソフト持っててそれで羨ましいなーって思ってたの。でも発売したばかりの最新のゲーム機なんかはプレイさせてもらえなくて。古いゲーム機ならもう使ってないから遊んでいい、って言われたんだけどそのゲーム機のソフトはどうも新しいゲームソフト買う為の資金稼ぎに全部売っちゃったとかで家には残ってなくて。それでお小遣いを貯めて中古で安いゲームソフト買えば?って言われて、それで親の買い物で隣町に連れて行ってもらった時その町のゲームショップでゲームソフト探してて。

それで買ったゲームソフトが「プラネットノース」なの。で、うちにあったゲーム機でプレイしたんだ。そしたらキャラクターも音楽もすっごく気に入って!」

音楽が好きで昨日はピアノで弾いてたんだなと納得した。ということは三島さんも結構昔からのファンなのか、僕と同じでファン歴は長いのだ。

「ということは三島さんもかなり昔からの『プラネットノース』ファンなんだね」

「そうなるね。けど古いゲームってことは承知してたけど、本当に私達の世代であのゲーム知ってる人、今まで会ったことなくて本当にいなかったなー」

「それは僕も同じだよ。今まであのゲームを知ってる同世代を探したけど誰も知らなかったなあ」

「だよね。だからこうしてあのゲーム知ってる人に出会えたの、奇跡ってくらい驚いた!」

三島さんの話は僕もどこも共感できることだった。

「というか音楽が好きとはいえピアノひけるってすごいね。あれは楽譜かなんかあるの?」

僕は昨日からの疑問を投げかけた。プラネットノースの楽譜なんて聞いたことがないのだ。

「ううんー。あれは耳コピかな。自分で音楽を聴いてそれになんとなく合う感じの音色を選んでいて曲として再現したって感じ」

 それであの明確に音程もリズムもあってファンならすぐわかる再現力なのか、大したもんだ。

「あのテーマ曲以外のBGMも演奏できるの?」

「うん、ひけるよ! 結構いくつか練習したんだ!」

「プラネットノース」は様々な舞台の惑星ごとに異なったフィールドやダンジョンなどにそれぞれ専用のBGMもあるので音楽の種類は豊富な作品だった。

「やっぱり私はタイトルテーマが一番好きかな。堀田君は?」

「僕は惑星ビュリズのフィールドBGMが好きかなあ」

「じゃあさ、本編は何周くらいプレイした?私、プラネットノースは今までに四周はプレイしたよ」

「僕は八周」

「ええっ!? そんなに!? 私より上がいた! そんなにやってたの!?」

僕は今までプレイしたゲームは一度クリアしたゲームは再びニューゲームをすることは基本的にないが「プラネットノース」だけは別格でこのくらいプレイしていた。

「ニューゲームたくさんしたからイベントのセリフもNPCのセリフもどこの宝箱でなんのアイテムが手に入るとかも全部覚えちゃったくらい大好きなんだー」

「じゃあ小ネタ知ってる?惑星ローノタの東の大陸ではそれまでに手に入る楽器を全部集めるとフェアリーが現れるんだよ」

「うん。もちろんそのイベントも全部見たよ」

「じゃあ、あれは……」

そんな感じで話は盛り上がり、その後も僕たちはひたすら「プラネットノース」について語り合った。

 好きなキャラクター、好きなイベント、お気に入りのアイテム等などお互い好きなものを散々語り合った。

三島さんは結構ゲームが好きでお兄さんがクリアし終わったゲームをプレイすることが多くそうなるとどうしても発売時期から遅くなってからプレイすることが多いのでその頃には周りの友達はみんな新しいゲームの話題に夢中になっているのでいまいち新作ゲームのブームの時期に話題に入れなかった等いろんな話をしてくれた。

僕は初めて従兄弟以外で好きなゲームの話の合うクラスメイトともあってその話題は盛り上がりあっという間に一時間が経過していた。

最初は今まであんまり話したことのない女子のクラスメイトと話せるか不安だったが、三島さんは意外と話やすい気さくな人だった。友達が多いのだから当然かもしれないが。

それでも今まで僕にとっては全然話すことのない女子と会話できるのは不思議だった。

 話もたくさんして時間は午後七時近くになっていた。

「そろそろ帰らなきゃね」

三島さんが時計を見て店を出ようか、と言ったので僕たちは会計を済ませて店の外に出た。

 外はすっかり暗くなっていて、肌寒い風が吹いていた。

「堀田くん。今日はありがとう。盛り上がっちゃったね」

「ううん、僕も楽しかったよ」

帰り道を歩きながら駅の方面へ向かっていた。

「私、ゲームについてこんなに語ったの初めて。好きなものに語り合えるって楽しいね!」

その表情からは今まで知っていたただのクラスメイトの三島さんとは違う雰囲気だった。

僕の知ってる三島さんはクラスでも明るくて、活発で、友人も多く授業でも優秀でいつもまわりから一目置かれる存在だ。さらに美少女ときた。僕とは正反対だ。

そんな人がこんなにも好きなゲームについて熱くなれるとは、と意外だったのだ。

「ねえ、三島さんはそういう趣味の話ってあんまり友達としたりしないの?」

 僕はふと気になったことを聞いた。

友人が多いのなら今までもそういう話をしたことはなかったんだろうか、と思ったからだ。

「んー、私はゲームの話はあんまりしないかな。ほら、女子って話すのは流行のアイテムとかテレビの話題とか中心だし、やっぱり高校生にもなると恋バナとか彼氏の話とかにもなるじゃん?私の友達も入学早々同じ部活だとか入学してすぐに始めたバイトで知り合った人と付き合って……とかでもうみんな高校デビューしちゃってるしね」

男子と違ってその辺り女子は大変なんだな、と思った。

確かに男子と違って女子は思春期になると自然とそういう話になる。

三島さんは交友関係は持っていてもなかなか好きなゲームについて語り合える人はいなかったようだ。

「だから高校生になったことだし何か新しいことできないかな、と思っていろんな部活見学したりしてみたんだけどなんかいまいち合うのなくて。それでますます周りの子に老いて枯れるって焦りも感じちゃって。」

 その気持ちはよくわかる。僕も高校生になって何か出会や出来事がないかと思って日々過ごしていたが何もないままもう四月も終わろうとしていて結局今までとか割らない日々に悶々としていた。

「だから昨日も友達の手伝いの後、音楽室でもつい大好きなプラネットノースの曲、ひいてたんだー。でもまさかそれがこんなことになるなんてね」

 僕より先を歩く三島さんは気分が良さそうだ。

「あーあ、もっとゲームとか好きな趣味が楽しめるといいのになー。思いっきりゲームについて語るとか。周りのみんなが高校ライフを楽しそうにしてると、私も何かしたいなって思うんのになー」

 クラスではいつも明るくて悩みがなさそうと思っていた三島さんも僕と同じで高校生になれば新しいことに挑戦できないかと思っていたみたいだが結局は何も見つけられてない。

そこでふと考えた。

「ねえ、三島さんはもっとゲームについて語れる場所を作ったり、趣味で何かできる活動とかしたいの?」

「うん、できることならね。でも無理かな。私、そういうのに何したらいいかわからないし、中学時代も結局そうやって周りに話を合わせるままで誰にも趣味の話できなかったし」

 三島さんの答えに、僕は考えて提案した。

「三島さん、よかったらいいところがあるんだけど」

 その言葉に三島さんはピタリと足を止めた。

「いいところって?」

「もしかしたら僕らで新しい世界を広げられるかも」と僕は言った。

 

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