第9話 すきなうた

ヘッドフォンが相棒になってから


臆病な私はずっと耳をふさいでいた。


震える怒号の夜も


どうしようもない苛立ちの日も


くくりたいほど落ちた朝も



どこに吐き出そうにも誰にも言えない


誰にも気づかれないまま


ただそんな日はヘッドフォンをあてた。



聞こえてくるのは大好きだけど知らない人


私がどんな気持ちかも


あなたがどんな人であるかも


ぼくらはお互いに知るはずもないのに


知らないはずなのに、胸に落ちる言葉はいつも救ってくれた。


好きな曲なんていっぱいあった。


世の中の流行だって、リズムが楽しいからって


耳に残るからって


時間がたてばその熱は冷めてしまうけれど



すきなうたはずっと変わらなかった。


なにも語らずとも、ただそばにいてくれるような




あなたの歌をずっと聴いていた。


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